遠いコンサート・ホールの彼方へ!
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ジュゼッペ・シノーポリ指揮 シュターツカペレ・ドレスデン


2000年1月23日 サントリー・ホール 19時開演

曲目

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」第1幕

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」より
夜明けとジークフリートのラインへの旅
ジークフリートの葬送行進曲
ブリュンヒルデの自己犠牲
終曲

演奏

ソプラノ:イヴリン・ヘリツィウス
テノール:ローランド・ワーゲンフューラー
バス:フィリップ・カン

指揮:ジュゼッペ・シノーポリ
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン





バイロイトへ行きたい


結論から言うと、「今年(2000年)の夏のバイロイトに行きたいなあ」。そもそも、バイロイトの「指輪」のチケットなぞ手に入らないので、シノーポリ・ファンとしてはその代わり今日の公演で我慢しようと思ったのですが、逆に何とかして行って聴きたくなりました。

さて、「ワルキューレ」は普段から聴いている訳ではないので、もう2年以上前になるベルリン国立歌劇場の舞台上演と上記CDを思い起こしながら聞いていましたが、歌手に関しては、やはりベルリン国立の方が、舞台に近かったせいかもしれませんが良かったです。特にジークリンデの歌はなんというか歌っているというよりは叫んでいる感じで、声の質もオケとミスマッチのような気もしました。因みに、歌手はオケの後ろに高い段をしつらえていまして、若杉&都響の「エレクトラ」や「兵士達」でオケによって歌手の声がかき消されてしまっていたこともあり、聞えないのではと危惧したのですが杞憂でした。それは歌手の声が強靭だったこともありますが、さすがに幾つもの歌劇場を伊達に渡り歩いている訳ではないシノーポリの絶妙な音量調節のおかげでもありましょう。

さて、そのオケですがこれには驚きました。

シノーポリはインタビューでシュターツカペレ・ドレスデンの音について事あるごとに「透明な響き」や「本当の(羽のように軽い)ピアニッシモ」ということを強調し、またフォルテについても決して叫びたてるようなものではなく、強引にしてはいけないという旨を述べています。

さて、そうしたインタビューを受けて行われた前回の来日公演、95年のR.シュトラウス「エレクトラ」のコンサート形式の上演が良かったので大期待で出かけたものの、一般的には不評で、私もユニークなブラームスの2番以外については全く面白くなかったのでした。特にCDでも一番よくない演奏であったシューマンの3番と、R.シュトラウスの作品の中で全く私は評価していない「ツァラ」をコンサートに持ってこられ、さらにこれが「どうです泰西名曲って詰まらないでしょ」という演奏を聴かされて唖然としたのですが、今回の演奏も、実は前回の公演と同じ路線上の演奏と言えました。しかし、何処が違うのでしょうか、今回の演奏でシノーポリがシュターツカペレ・ドレスデンでやろうとしている意味が漸く具体的な音として分かったような気がしました。

決してベルリン国立歌劇場の公演で聴かれたような強烈なフォルテや一時代昔のような蠢く低音ではなく、精妙で軽く揃った音色の弦(強調しますが軽々しいのではないのです)と、クリアで伸びやかで強奏しない金管、それに絶妙のアンサンブルを聴かせてくれた木管によって、室内楽的というと言い過ぎですが、全ての音が混濁せずにしかも美しいハーモニーとして聞えて来ます。取分け弱音部の響きの美しさと緊張感は曰く言い難く、それゆえ強奏することもなくフォルテがフォルテとして聞えて来るのでした(因みに今聞いているCDとは比較にならないほどシュターツカペレ・ドレスデンは上手いです)。

テンポは総じて遅目。ただし、シノーポリの録音、例えばDGの方のシェーンベルクの室内交響曲第1番や、(私は「名盤」だと思う)エルガーの交響曲第2番、あるいは奇妙な演奏と評判の「カルメン」のようにもっさりとはせず、全編にわたって横に歌が流れながらも常にピーンと緊張感が張り詰めており、テンポの変化もある意味で「自然」なことから、ちょっと嫌らしく思われるかもしれないゲネラル・パウゼも自然にピシッと決まり(ワルキューレも神々の黄昏でも)、あるべきところに楽器が自然に溶け込むように音を鳴らしていました。

一昔前の朗々とうねるような巨大な演奏でもなく、破滅型の奇天烈な演奏でもなく、かといって落ち着いてじっくりとした演奏でもない、ブーレーズともカラヤンとも異なる実に不思議なワーグナーでした(でも、盛りあがるところは盛りあがっておりました。

「神々の黄昏」の最後の和音が終わると、拍手もなく静寂が訪れましたが、シノーポリ自身があっさりタクトを下ろし拍手の嵐でした、私個人は後もう二拍程静寂が欲しかったのですが...。

アンコールはさすがに箍が外れたようで金管も吹きまくっておりましたけどね。


なお、客の入りですがさすがにチケットが高かったのせいもあり8割いっていないように思えました。私の座っていた席(2階のS席)は私の両隣2〜3つも空いておりさらに前の席も空いていたので、殆ど「ルードヴィヒ2世」状態で大変くつろいでかつ周囲の鼻息やがさごそする音に惑わされずに聴けたという意味ではよろしかったです。

最後に、NHKが収録しているのでいずれFMで聞けると思いますが、あの美しい響きによって醸し出される雰囲気がFMで聞こえるだろうか?とは言え取り合えず放送が楽しみです。



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