遠いコンサート・ホールの彼方へ!
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山下洋輔「もう一つの夜明け」


2000年1月9日 東京オペラ・シティ タケミツ・メモリアル 16時開演

曲目

山下洋輔:ピアノ組曲<Out Of My Depth>

山下洋輔=栗山和樹編曲:
オーケストラとピアノの為の<仙波山>

山下洋輔=栗山和樹編曲:
ピアノコンチェルト第1番
−即興演奏家の為の<Encounter>
(東京オペラシティ文化財団委嘱作品・世界初演)

演奏

ジャズ・ピアノ:山下洋輔
指揮:金聖響
管弦楽:東京フィルハーモニー



当ページの標題に相応しくタケミツ・メモリアルでのコンサートから。


当日朝になってコンサートがあることに気付き、いつもガラガラのタケミツ・メモリアル、余裕で一番安い席が買えるだろうと思ったら、あにはからんや、何と「完売」。これは困ったなあと思うと、指揮の佐渡が病気を理由にキャンセル。これはチケット払い戻しがあるに違いないと考えて待つこと30分、払い戻しチケット(あるいは予約したけど来なかった人のチケット)で無事会場に入れました。ホールの中は、小澤のマタイかラトルのマーラーかという感じで、空席が両手で数えられる程の少なさに山下あるいはキャンセルした佐渡の人気に驚きました。

開演時間を過ぎて山下が登場。一くさり演奏。何かバッハを崩したようなフレーズが聞えてくるほか、ジャズに疎い私は、「ジャズってショパンの左手なのかねえ(右ばっかり動かして左は一種の和声付け)」とか思って3階席からみておりました。演奏中は照明が「バシっ」とか凄い音を立てたりしており、それも気になりましたけど。

演奏後、マイクを持って山下が御挨拶。今のは「プレリュード」という曲で指慣らしであった旨と今日はいろいろ初の試みをするのでよろしくと、若干ぎごちなく挨拶。続いて「組曲」の曲名を紹介して、再度演奏開始。ただし、曲も曲名も殆ど覚えていないので感想は割愛。

休憩。井上ミッチーがアイスクリームを食べているのを発見。

後半いよいよお目当てのピアノ協奏曲の登場。

1曲目  山下洋輔(栗山和樹編):オーケストラとピアノの為の<仙波山>

これは、「あんたがどこさ」という民謡に基づく作品とプログラムには書かれているのですが(確かにそうだった)、出だしは、まさに前世紀の遺物のようなロマンティック協奏曲。オーケストレーションもその線であったことから、少々うんざりして聴いていたのですが、徐々にプロコフィエフかバルトークかという風に加速して無窮動的になっていくので、こちらも乗ってきて、「お、このままコーダに突き進むのか!」と期待していたら、いきなりリタルダンドしてフルトヴェングラーもかくやという「見栄」を切った後、静かに終わるという、正直トホホな単一楽章の作品でした。


2曲目  山下洋輔(栗山和樹編):ピアノコンチェルト1番---即興演奏家の為の<「Encounter>

こちらは各楽章の雰囲気やテンポ、あるいは同じモチーフやセクションを繰り返すなどして形式感を出そうとしている限りでは、一種の古典的な4楽章制の協奏曲っぽいのですが、実演をみるとそんなことはどうでもいいという面白い曲でした。
山下のアイデアか、編曲家が「こんな面白いことも実はクラシックにはありますよ」と持ちかけたかは知りませんが、不協和な響きとロマンティックな響きを混在させる中、コマの上や近くで独奏ヴァイオリンに弾かせたり、木管楽器のキーだけを打たせたり、オーケストラ全員に武満徹の「テクスチュアズ」みたいに勝手に弾かせたり、4楽章に和太鼓を入れて、二人で丁丁発止の掛け合いをやる部分を作ったり、いわゆる「泰西名曲」ベース(除くハルサイ)からすればかなり変わったリズムを用いていたり(でもプログラムをみると神楽のリズムだったりして、「変わっている」と思う方が、日本人として実はおかしいのか?)など、色々な音事象をてんこ盛りにした作品でした。
しかしつまるところは、山下による山下のための曲でして、色々やっているオーケストラをバックに、上方やや左から見ても楽しそうに、ピアノの鍵盤をそれこそ上から下まで殆ど全て使って見せ場に次ぐ見せ場を弾きまくり、得意の(?)肘撃ちを、特に4楽章のコーダにおいて、左右で連発して盛り上げ、確定楽譜っぽいものの、アドリブも含めて山下以外は弾けない(弾かない)だろうなあ、と思わせる曲でした(山下自身は、他の人にも弾いて欲しいという希望もあり、2管編成を採用した旨をプログラムに寄せていたのですけど、それなら4楽章の和太鼓とのフリーな掛け合いをどうするのか?とか思ったのですけど)。

おおいに盛り上がる曲で、山下をはじめとして、指揮者、奏者(東京フィルハーモニーは各自がてんでバラバラな服装でした)の熱演もあり盛大な拍手とブラボーが飛びかう中、アンコールとしてガーシュインのラプソディー・イン・ブルーを中間部の静かな部分からエンディングまで演奏して、再び盛大な拍手とブラボーを受けていました。

大方のお客さんが満足して帰ったのではないでしょうか、私ですか、勿論面白かったので満足しましたよ。でも「世紀を超えて」ではちとこの曲はえらべんないかなあ。


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