遠いコンサート・ホールの彼方へ!
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20世紀の弦楽四重奏曲
ベストセレクション
by
アルディッティ弦楽四重奏団


2000年5月23日 19時00分 横浜美術館


演奏
アルディッティ弦楽四重奏団

プログラム

武満 徹
A WAY a Lone(1981)

アルフレート・シュニトケ
弦楽四重奏曲第2番(1980)

コンロン・ナンカロウ
弦楽四重奏曲第3番(1987)

エリオット・カーター
弦楽四重奏曲第1番(1951)

(アンコール)
アントン・フォン・ヴェーベルン
6つのバガテル(1913)



充実した疲れとでも言いましょうか


 本日は、来る27日休憩を含めて7時間の「マラソン・コンサート」をタケミツ・メモリアルで行う予定のアルディッティSQによる、来日2回目のコンサート(1回目は21日静岡)。シュニトケ以外はここでしか演奏しない曲目、特にナンカロウの3番は彼ら以外の演奏がディスクもないので、これを聞き逃せば今後ライヴは中々望めないだろうと、会社を休んで横浜まで聴きに行きました。

 コンサート会場は横浜美術館の入ってすぐの広い空間。左右非対称で異様に高い天井、二階入り口への階段を利用したステージ、ワイヤーで固定した簡易椅子というもので、間接音、残響に全く期待が持てなかったことから、珍しく演奏者の近くの席に座ることにしました(通常は俯瞰出来る程度に距離を置いた中央付近に座ります)。

 会場ではアルディッティSQのCDも幾つか売り出されており(購入者にはサインが貰える)、たまたま持っていなかったカーゲルの弦楽四重奏曲集のCDが2200円で売っていたので買おうとすると、隣で物色していた中年の女性が、「この団体は有名な団体なんでしょうか?」と尋ねていたのでひっくりかえりそうになりました。うーむ、この団体を知らずに来ているという事は、本日の公演曲目も知らないということだろうなあ、と思っていると、案の定その中年の女性は、演奏会の間、最前列にもかかわらず、殆ど寝ていました。


始まる前に、携帯電話や時計のアラームを切るようにとの場内放送がありました。しかし、...。


武満徹:A Way a lone

 後期の武満は余り好きではない中で例外的に好きな方の曲なので、まじめに聞き始めると、後期武満の多彩で移ろっていくぼんやり(ドローン)とした響きではなく、骨組みだけが聞こえてくるような、それはそれは面白い演奏でした(会場のせいか?)。
 しかし始まって間もなく、何と美術館の受付電話が鳴り始めるではありませんか。雰囲気が大なしになりましたし、聴衆の緊張感も消えてしまうところだったのですけれども、そこはプロ、踏ん張って緊張感を持続させて終わらせてくれました。ところが、最後の音が空中に消え、さらに一瞬の間が出来てからさあ拍手、というところで、再び受付電話がなるという始末。
 アルディッティは何かブツブツ舞台上で言っていましたが、客に注意する前に自分の所の電話線くらい抜いておいて欲しかったものです。しかし、ただの間違い電話でしょうけど、鳴った瞬間は、「後期武満反対同盟」の妨害電話か!とか思いました。

シュニトケ:弦楽四重奏曲第2番

 この曲のみ27日の「マラソン」と重なりますが、第4区間「心臓破りの丘」と化しそうです。特に2楽章の錯綜とした部分(各奏者が第一ヴァイオリンから順に、8、7、6,5連符の<ディ>クレッシェンドを伴ったアルペッジオを、アクセントをずらして旋律を浮かび上がらせながら猛烈なスピードで弾く部分)を必死に演奏していましたが、CDで聴くより音量や迫力が落ちていました(1楽章なんかは逆にCDよりも圧倒的な音で驚きましたけど)。致し方ないでしょう。ただ、第3楽章、第4楽章が生きるほどの迫力はありまして、実際第4楽章で「旋律」が第2ヴァイオリンにジワーと浮かび上がってきて、ハーモニクスで演奏されるコーダに到達する頃には、圧倒された聴衆が身じろぎも出来ず、針の落ちる音でも聞えるほど静まり返ってしまいました。これは最後に持ってきても良い演奏でした。

ナンカロウ:弦楽四重奏曲第3番

 解説(GJでおなじみ柿沼氏、トホホ)は書いていませんが、ベートーヴェンの大フーガが随所で浮かび上がってくる曲です(なおCDではこの曲は大フーガとカップリングされています)。私は複雑なリズムによるカノンの第1楽章よりも、大フーガを浮かび上がらせながら、ハーモニクス、トリル、ピチカートで構成された不思議な音響が繰り広げられる(あるいは人を食ったような)後半の2楽章が好きで、アルディッティSQも、シュニトケの後半で聴かせてくれた安定した演奏振りで楽しませてくれました。ただ呆気に取られている人が多かったせいか、終演後の拍手はシュニトケの時よりも弱々しかったです。

ここで休憩となりました。ドリンク&チーズが、キリン・ビールと小岩井牧場の提供で、無料でサービスされました。会場の人間が、ワインと紅茶(もちろん「午後の紅茶」)をそれぞれも紙コップで5杯以上飲めるほどの量が提供されていました。が、人間そんなに飲めませんし、来る前に中華街で腹ごしらえをしていたので、私はチーズ1個と紅茶1杯で済ませました。

カーター:弦楽四重奏曲第1番

 これは演奏する方も大変でしょうけど、聴く方も大変でした。覚悟していたとはいえ、3楽章(実際は4楽章らしい)40分弱、時々大フーガがエコーのように聞えるとはいえ、基本的には錯綜としてゴツゴツして無愛想な岩のような音響が続くのを聴き続けるのは、とても疲れるものです。本当にベートーヴェンの後期作品の方がまだ気軽に聴けるだろうという感じでして、音を追いかけるのが精一杯。演奏云々を言うまでには聴き込めませんでした。何にしろとても疲れました。

ヴェーベルン:6つのバガテル

 盛んな拍手に応えて、アルディッティがうにゃうにゃと「ショート・ピースだ」とスピーチして開始。いやあ、カーターの後なんで、ホッとしながら、ヴェーベルンのこの作品が、如何に有機的で、分かり易く、聴きやすい曲なのかと思いましたよ、それに本当にショート・ピースだし...。


 時間も遅く、疲れていたのでCD購入者のサイン会はぶっちして帰宅しました。シュニトケの楽譜にでもサインを貰えばよかったかな?