特集:CADと3Dグラフィック研究(仮)

■ CADとは何か

    ・CADのあゆみ

    ・CADソフトでできること

■ CADの現在

    ・CADデータの交換

    ・データフォーマットの標準化

    ・CADの2次元出力

    ・CADと3Dグラフィック

    ・CADのディメンション(次元)


■ CADとは何か


● CADのあゆみ

 CADという言葉は何の略なのか? 一般的にはComputer Aided Design(設計)であるが、Computer Aided Drawing(製図)の意味で使われることもある。

 設計業務をコンピュータがどのように支援してきたか、ここでは主に建築CADを対象に、 CADのあゆみを4つのフェイズに整理してみよう。

<1> 数量計算(構造計算・日影計算)

 メインフレームが主流だった頃から、建築・土木の世界では、コンピュータを構造計算に利用することが多かった。というよりも、構造計算にしか利用できなかった、といってもいいだろう。

 その後、ワークステーションやPCの普及に伴い、意匠設計を行う建築設計事務所が、特に日影の検討(注1)のために利用するようになる。こうした数量計算にコンピュータは欠かせないものになっていった。

注1:

建築物の形状・ボリュームを検討する際に、敷地周辺に落とす建物の影により周辺の日照時間が著しく損なわれないかどうか、法的基準に照らし合わせてシミュレーションを行う。

<2> Computer Aided Drawing(製図)

 現在のようにCADと呼ばれるようになったのは、コンピュータで製図を行うようになってからだろう。設計製図は、図面を描いては検討し修正を繰り返すという作業である。その図面をデジタル・データとして蓄積・再利用できるようになったことで製図業務の効率を上げることができた。

 この頃から、CADソフトと共に優れた入出力デバイス(ペンタブレット、デジタイザー、プロッター)が登場してきた。

 しかし、CAD操作は専門のオペレーターが担当し、設計者自身がCADを扱うことは少ない。(現状でも、大半はこうしたCAD利用法である)また、図面の線を描く、という意味では従来と根本的な違いはなく、2次元データを扱うことしかできなかった。設計者自身が、意匠デザインや積算など設計業務全般にわたる設計ツールとしてCADを利用するようになるのは、その次の段階といえる。  

<3> Computer Aided Design(設計)

 意匠設計では、ラフなスケッチでボリューム計算をしたり、日影を検討したり、法規上のチェックをする必要がある。

 こうした業務に利用できる汎用CADソフトが出てきたのは、ここ10年弱ぐらいのことである。PCの発展と共に2次元CADソフトも充実し、汎用CADソフトの中にはオブジェクトとして作図できたり3D化できるものも出てきた。

 この場合の「オブジェクト」とは、属性を与えられた図面データのことを意味する。例えば、図面上では同じ□(矩形)に描かれているものでも、それが「柱」なのか「床」なのか、といった高さや素材などの属性データをもっており、平面図で描いた図面を容易に立面図や3D化できたり、素材ごとの積算等にもデータを活用できるのである。

 さらにDTPや3Dグラフィック・ソフトの発展にともない、より効果的なプレゼンテーションを行うことができるようになった。

 全般的な設計業務を支援できるCAD環境が揃ってきたため、小規模の設計事務所でも導入する事例が大幅に増えてきたのだ。

<4> CAD/CAM、ネットワーク

 いまや建築はもちろん、機械設計をはじめ様々な産業分野においてCADは業務上欠かすことのできないものであり、CAD及びCAM(Computer Aided Manufacturing)の導入がめざましい。CAD/CAMは、メーカーが設計から製造工程までの全てに一貫したコンピュータ・システムを導入することで、CADデータに基づいて製造ラインが動くようになっている。

 CAD/CAMシステムは、建築の場合、主に大手ゼネコンや建材メーカーで導入されている。いっぽう、CADを活用している設計事務所では、オフィス内LAN環境のみならず、最近はインターネットを使った事例も増えている。

 たとえば、専門の異なる小規模事務所が共同でプロジェクトを進める場合、電子メールや図面データのやりとりをパソコン通信やインターネットを通じて行うようになっている。 これにともない、CADソフトもインターネット対応が進み、WWWブラウザやHTML文書作成等の機能を付加し始めた。 また、WWWブラウザでCAD図面を表示できる(注3)DWFというファイル形式も登場している。設計業務は多様な業者間での膨大なデータのやりとりの上に成立するため、こうしたネットワークによる業務の合理化が欠かせない。

注3:

GIFやJPEGでは、図面の詳細を再現することは難しい。CAD図面は拡大(ズーム)や視点移動(パン)が容易にできなければいけない。オートデスク社が開発したDWFは、AutoCADのデータを変換し、専用WWWプラグインを使えばCADソフトをもっていないユーザーも見ることができるフォーマット。

 これら4つのフェイズは、CADのハード&ソフト環境の発展に基づいて整理したものであり、必ずしも一般的な建築の現場での導入の推移を示すものではない。「使えるようなものがある」ということと「使われている」ということの間には、まだ実際には大きな隔たりがある。建設業界は、業種も規模も様々な組織を含んでいるので、CADの導入やそのレベルにもバラツキがある。

 しかし、先進的な導入事例や一般的なパソコンの普及状況から、将来的な展望も含めてCADの現在と未来を描くことはできるだろう。


● CADソフトでできること

 では、CAD=コンピュータが支援する設計業務とは、実際どういうものなのだろうか?

 建築業務の具体的な流れにそってCADソフトがどのように使用されているかをみてみよう。

 まず<調査・企画>段階では、計画敷地に関する調査を進めると共に建築プロジェクトの企画・スケッチに基づき、ボリュームや日影などの法規チェック、3Dモデリングによるシミュレーション、事業収支計画の立案等の業務がある。

 またプレゼンテーション(パース、模型、3Dレンダリング)では、CADソフトと共に資料制作のためにDTPや3Dグラフィック・ソフトが援用される。

 次に<基本設計>では、意匠設計でプランの検討が進められ、その図面をもとに構造・設備の設計を行い、これらが再び意匠設計にフィードバックされる。

 各スペシャリストの間で図面のやり取りや書き直しが最も頻繁に行われる段階であり、CADデータの互換性を確保することが重要となる。

 さらに、建築確認申請などの法的手続きを行うための図面・資料を作成する。最近は書類のみデジタル・データでの提出を受付ける地方自治体も増えて、定型フォーマットがあるため、これに特化したプログラムを利用することもある。

 <実施設計>段階では、実際に建物を建てるために、詳細な設計が進められる。

 たとえば、サッシュ(窓枠)や衛生設備などをカタログから選定する時に、メーカー提供の電子カタログのCADデータを利用することもある。この時点で仕様の詳細が決まり、細かい建築見積を検討する。汎用CADソフトならば、それまでのデータをもとに比較的容易に積算(注4)データベースを構築することができる。

注4:

どんな建築資材がどれくらいの数量必要になるか、そのデータと単価をもとに工事費用の算出を行う。

 <施工監理>では、スケジュールやコストの管理にプロジェクト・フロー作成や表計算、データベース作成機能を利用。また、<施工>上、設計変更が必要になる場合もあり、施工者と打ち合わせを進める。施工者は施工図・製作図を作成、設計事務所は実施設計図をもとに竣工図を作成する。

 <竣工>後もCADデータ資産はファシリティ・マネージメントに活用できる。建物のメンテナンスに、設計・施工時のデータは欠かせない。

 このように、広範囲に渡る建築業務で、汎用CADソフトは業務の大部分をサポートすることができるが、現状では各ソフトの機能・特性を考慮しつつ、より緻密にソフトの使い分けが行われている。


■ CADの現在


● CADデータの交換

 CAD発祥の地であるアメリカでは、オートデスク社の「AutoCAD」が圧倒的なシェアをもっている。

 日本では、フリーソフトのJW_CADが2次元CADとして定評がある。JW_CADは実務者の要望を反映して小刻みにバージョンアップを重ねてきている。最近のCADソフト市場では、海外主要CADソフトの日本語版に加え、業務内容に応じて機能を特化した様々な国産CADソフトが登場している。

 各ソフトのデータは当然固有のファイル形式となっている。このため、データ交換にはDXFという中間ファイルでやり取りされるケースが多い。

 DXF(Drawing Interchange File)はオートデスク社が規定した変換用フォーマット。DXFで扱うことのできる図面情報には制約があり、完全互換を保つことはできない(注2)。しかし、ほとんどのCADソフトがDXFをサポートしており、異なるソフト間でデータを流用する際には都合がいい。

注2:

DXFにも様々なバージョンがあり、使用時にはその互換性を確認する必要がある。基本的には、線分情報などの図面データをすべてテキストファイル形式として書き出したデータ構造をもっている。

 現在、建築CADの世界では、設計業務のどの分野でどのソフトを使用するか、またそのデータをDXFファイルを使ってどのように交換するかに関するノウハウが培われている。

 たとえば、基本設計はMacintoshのMiniCADを中心に行い、実施設計以降はPCでAutoCADやDRA-CAD、施工現場ではJW_CAD、という事例もある。


● データフォーマットの標準化

 前述の通り、現在はCADの互換フォーマットとしてDXF形式が一般的である。しかし、制約のあるDXF(中間ファイル)ではなく、より広範な情報を扱うことのできるフォーマットとしてIFCの標準化が現在進められている。

 IFC (Industry Foundation Classes)は、IAI(International Alliance for Interoperability)というコンソーシアムが提唱・推進している仕様。すでにオートデスク社、構造計画研究所などがこの仕様に基づくCADソフトの開発を進めている。

 IFCでは、図面データとなる建築要素(モデル)の属性を定義している。つまり、2次元の情報だけではなくオブジェクトとしての情報をもっている。たとえば、柱の場合、その種類・サイズ・材質・仕上げなど様々な属性を関数として「柱」の情報の中に含めてしまう。こうすれば、CADソフトによって図面上の表現方法は変わるが、その情報自体の互換性は保つことができる。

 将来的には、IFC対応のCAD同士ならば、建築設計・施工業務にともなう全てのデータを包括的に完全互換で取り扱うことができるのである。


● CADの2次元出力

 CAD情報のデジタル化が進行しているとはいえ、現状では最終的な出力として、やはり紙出力が欠かせない。

 3Dモデリングやアニメーションなどディスプレイモニタで完結している場合もあるが、多くの場合、図面が紙に出力されてはじめて実務で活用できる。

 一般的なレーザプリンタではA3出力しかできない。建築図面はA0やA1サイズが必要となるので、プロッターで出力する。

 CADの2次元情報は、ラスター(点)とベクター(線)の組み合わせである。プロッターには大きく2種類あり、ラスター情報を出力するラスタープロッターとベクター情報を出力するペンプロッターがある。

 実務では、これらの出力機器を使用目的に応じて使い分けていく。 膨大な情報が埋め込まれた図面を高精度かつコンパクトに表現するためには、まだまだ紙出力の役割が重要なのである。


● CADと3Dグラフィック

 ここでいう3Dグラフィックとは、モデリング、マッピング、レンダリング機能を含む3次元CGの総称だ。

 CADソフトの場合も3次元データを扱えるようになっているが、その場合は、2次元から3次元(またはその逆)を立ち上げることができるようなデータ構造をもっており、ディテールを盛り込むことができ、部分的に抽出して図面として活用することができる。

 いっぽう、3Dグラフィック・ソフトは、イメージ先行型のツールである。最終的には仮想の3次元空間にオブジェクトをデザインするこために組み上げていくものであり、ある程度ディテール情報を排除することで成立している。CADデータをもとにCGを作ることはあっても、一般的にはこの逆は成立しない。ここに両者の大きな違いがあるといっていいだろう。(注4)

注4:

CAD/CAMシステムを使った模型製作のスペシャリストの中には、CGデータをCADデータに変換するプログラムを独自開発しているケースもある。


●CADのディメンション(次元)

 CADデータを「最終的に3次元の物体を作成するためのデジタル情報の集約」と考えるならば、 CADソフトの重点は<図面>という2次元データよりも、3次元CGや4次元の情報(時間軸も加えたもの。例えばCGアニメーション)の構築にシフトしていくことだろう。

 現在、設計者は3次元を想定して設計したものを一度2次元の図面に落とし込み、この図面に基づき施工が進む。しかし、将来的には実際の施工に際し、3Dや4DのCADデータを直接活用するようになるはずだ。(大規模なCAD/CAMシステムで可能?)

 たとえば、Webページを作るときにデザイナーは最終的な仕上がりを想定しながらHTMLを書く。直感的なものを論理的コードに置き換えるプロセスがあるわけだが、HTMLエディターを使えば、このプロセスを簡略化できる。

 もちろん建築設計は論理的思考の上に成立するのだが、前述の例に従えば、CAD/CAMシステムによって3次元のものを2次元に置き換えるプロセスを簡略化し、3次元情報のままやり取りすることは可能になってきている。

 また、WWW上のVRML空間のような3Dをデザインする分野でも、仮想建築家(?)はCADソフトを援用するようになるだろう。 CADは、インターネットという舞台を得て、更なる飛躍を遂げようとしているのだ。


☆コラム「Web上の仮想建築・都市」

公共建築やショッピング・モールなど、ある種の建築物は、物理的な設計だけではなく、その中の人の流れや情報・物資へのアクセスのシステムを空間的に構築したものだ。それらは、今やインターネット上のバーチャル建築・都市として機能するほうが合理的な場合も少なくない。

たとえば、莫大な蔵書量をもつ公立図書館は、Web上のオンライン図書館になることによって利用率は飛躍的に増大するだろう。(アメリカでは既にそうなってきている)米国税庁(http://www.irs.ustreas.gov/prod/cover.html)のWebでは電子納税ができるようになっており、利用者が急増しているという。

仮想建築システムの設計が建築家の仕事であるかどうか、は議論が分かれるところかもしれないが、従来建築家の仕事と考えられていたある部分が、徐々にWeb上に移行していることは事実だ。

MITのウィリアム・J・ミッチェルは「いまや建築には、自然や都市のコンテクストだけでなく、サイバースペースの設定も考慮しなければならない。」と語っている。

(「シティ・オブ・ビット」彰国社刊、英語版はhttp://www-mitpress.mit.edu/City_of_Bits/で公開)

こうした意識をもって建築設計にあたっている有志によるホームページが国内にもいくつかある。

AA-NET HOME PAGE http://www.net-army.com/AANET/

「みんなのけんちく」 http://okismink.ar.kagu.sut.ac.jp/arch/

また、サイバースペースが擬似的な3次元空間としてWeb上にどう展開されるか、CADの流れとは異なるが、VRMLサイトへの注目が高まっている。

Planet 9 Studios http://www.planet9.com/

Sony Community Place 2.0 http://vs.sony.co.jp/VS-E/vstop.html

Cybertown http://www.cybertown.com/

インターネットとCADの関係は、今後HTMLやVRMLを取り込みつつ、さらなる発展を遂げていくのだろう。



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