Amazon.comから、"GOETHE'S FAUST"(Translated and with an Introduction
by Walter Kaufmann, 1963/Anchor Books Edtition: 1963,1990)が届いたので、ちょいと訳してみよう。
これは、ドイツ語との対訳である。
ほんの一連(詩なので)だけね。
ドイツ語はほとんどわからない。しかし、ワン・センテンスだけ辞書を引いて眺めた。あとは、英訳を訳した。英訳は確かにすっきりしている。しかし、どこまで、オリジナル・テキストの「味わい」を汲んでいるか、いまのとこわからない。ワン・センテンスだけ眺めた感じでは、ドイツ語の方がなんか、意味ありげである。
(ドイツ語)
ZUEIGNUNG
Ihr naht euch wieder, schwankende Gestalten,
Die fruh sich einst dem truben Blick gezeigt.
Versuch ich wohl, euch diesmal festzuhalten?
Fuhl ich mein Hertz noch jenem Wahn geneigt?
Ihr drangt aus Dunst und Nebel um mich steight;
Mein Busen fruhlt sich jugendlich erschuttert
Vom Zauberhauch, der euren Zug umwittert.
いや、こうして打ってみたら、結構、英語部分に対応しているような……
*
(英語)
DEDICATION
You come back, wavering shapes, out of the past
In which you first appeared to clouded eyes.
Should I attempt this time to hold you fast?
Does this old dream still thrill a heart so wise?
You crowd? You press? Have, then, your way at last.
As from the mist around me you arise;
My breast is stirred and feels with youthful pain
The magic breath that hovers round your train.
*
(山下訳)
「献辞」
きみたちは戻ってくる、ゆらめく人影よ、過去から
そこで、きみたちははじめ曇った眼に現われた。
今度はきみたちをすばやくつかまえてみるべきか?
昔の夢はまだ分別くさい心をふるわせるだろうか?
きみたちはいっぱいになる? きみたちは押し合う?
それでは、すきなようにしたまえ。
私をとりまく霧の中からきみたちは立ちあがると、
私の胸はかき乱され、若い苦悩で、
きみたちの列のまわりをさまよう不思議な息を感じる。
独、英語は韻を踏んでいるが、日本語ではあまり意味がない(柳瀬尚紀氏や飯島耕一氏などは、そう思っていないかもしれないが)と思うので、あえて韻は踏まなかった。
*
それでは、大胆にも(笑)、各氏訳と比べてみよう。
*
(柴田翔訳 講談社 1999年9月刊)
「献げる言葉」
また近づいてくるのか おぼろに揺れる影たちよ
かつて いまだ見るすべを知らなかった眼差しの前に現われたお前たちよ。
今度こそお前たちをとらえようと 私はするのだろうか?
私の胸はかつての幻想に なお心ひかれるのだろうか?
お前たちは近づき迫ってくる! さらばよし お前たちに身をまかせよう
靄(もや)と霧から立ち現われる影たちよ
お前たちを包む魅惑の大気にうち震えて
私の心はにわかに若やぐのだ。
感想__さすが、『されどわれらが日々』の作家である。たしか、『捧げる言葉』という作品もあった。やや古臭く、感傷的。
*
(池内紀訳 集英社 1999年10月刊)
「捧げる言葉」
さまざまな姿が揺れながらもどってくる。かつて若いころ、おぼつかない眼
に映った者たちだ。このたびは、しっかりと捕えてみたい。いまもなぜか、あ
のころの夢に惹かれてならない。さまざまな姿がひしめき合ってやってくる!
霧と靄をついて迫ってくる。その不思議な息吹にあおられて、この胸もすっか
り若やいだ。
柳瀬尚紀と同一人物では?(笑)と思われるほど、その翻訳姿勢が似ている。つまり、「代名詞」、主語さえ、すべて省かれている。これでは、なめらかかもしれないが、「お話が見えない」(笑)。
*
(正調(?)、新潮文庫、高橋義孝訳 昭和42年11月初版)
「口上」
その昔、わたしの曇った眼の前に現われ出た
おぼろな姿が、今また揺らめき近づいてくる。
こんどは君らをしっかりとつかまえてみよう。
わたしの心は今なお君ら幻の姿に惹かれている。
君らはわたしに迫ってくる。よろしい、靄と霧の中から浮かび上がって、
思うがままに振舞い給え。
君らの周囲に立ち篭める妖しい息吹きに、
今また胸は若々しく揺すられる想いがする。
三者は「霧と靄」と訳しているが、独語には、なるほど、それに相当する二語があるようだが、英訳は、mist一語のみ。三者は、独語から、拙訳は、英語からということをお忘れなく。やっぱり、英訳は、また、単純化してますかねー?
でも、まず、ドイツ語でも、Ihr naht euch wieder... 「きみ」と、はじまってますよね。
まあ、これは、ちょっとした「お遊び」です。なんでこんなことをしたかというと、「池内」訳を読んでいて、全然面白くなかったもんで……。