金色日記 Diary in Gold 2001


2月3日(土曜日)

 『Brother』___北野武監督+ビートたけし+オマー・エプス+真木蔵人

 「武士道とは死ぬことと見つけたり」__これは、ジム・ジャームッシュの『ゴースト・ドッグ』にあっては、テーマであり、ジャームッシュはその精神に感動し、その思想を表現するのに、いろいろ苦労した……のではないか、と思われる。だが、北野武のこの映画では、そういうことは、空気のように自然に体現されている。だから、この映画を見た欧米人は、驚くに違いない。つまり、この静けさはなんだ? なのである。


2月4日(日曜日)@Tokyo

 プラハ国立劇場オペラ『魔笛』(於:オーチャードホール)___ヤン・ハルペツキー指揮+ダヴィド・ラドク演出

 モーツァルトはこのオペラを書いた時、当然、人の声による歌詞も楽器のひとつとして考えたに違いない。つまり、ドイツ語の美しさをどう配するか。だから、去年、新国立で見た、日本人の精鋭によるオペラは、日本人(中国人も混じっていたが)でありながら、とても美しい発音のドイツ語で演じていて、感心した。それは、オペラ歌手なら、あたりまえなことなのか?
 一方、このプラハの面々は、ドイツ語で歌っているものと思っていたが、なんかなまっているような気がしてしょうがない。響きは確かに似ている、しかし、聞き覚えのある単語が一個もない(笑)!
 あとでプラグラム売りの人に聞いてみたら、やっぱり、チェコ語だった。
 確かに、チェコ語とドイツ語は似ている。だったらなおのこと、ドイツ語でやっとくれ! なんだけど、日本語でも、外国語を修得するより、方言を直す方が難しいという、そういうことなのか?
 演出も奇を衒いすぎていて、ただでさえ、荒唐無稽なストーリーがいっそう錯綜し、ポイントを失っていたように思った。それでも、日本人と、日本にいるガイジンは、やんやの喝采であった。S席17000円が惜しいのだろうか? 無理矢理感動でもしないと、な〜んつって(笑)。

 『ベトナムから遠く離れて』(シネセゾン渋谷)___クリス・マルケル総編集+監督集団(アラン・レネ+ウィリアム・クライン+J=L・ゴダール+アニェス・ヴァルダ+クロード・ルルーシュ+ヨリス・イヴェンス)1967年

 「浅田彰」セレクションとして、シリーズ公開される映画のひとつ。「若者よ、目覚めよ! 激辛フィルム3連発!」とチラシにある。

 ネット馬鹿ベトナムは遠くなりにけり

 このフィルムのなかで、印象的なのは、「ベトナムから遠く離れて」、ひたすら映画のカメラを覗くゴダールよりも、初めは、ベトナム憎しのアメリカで、しだいに、戦争の事情がわかり始め、良心的な人々やポリティカル・マイナーな人々が「反戦」のデモを始める場面である。それは、フランスでは、ごく当然の風景でも、やはり、アメリカで、そういう動きができはじめるのを見るのは感動的である。しかし、そんななかにあっても、やはり、「ニガーが何言ってやがる! もしベトナムが攻めて来たらどうするんだ! 北爆を続けろ!」と、力のかぎり叫ぶ白人のオニーサンなどがいて、ネットの掲示板で「ちんばはちんばだ、どこが悪いんや!」と書き立てる人々を彷佛せさないでもないが、掲示板は、いずれ(基本的には)消えるであろうが、フィルムはこうして残り、30年後も人に見られるのだから、やはり、行動は熟慮のうえ、した方がいいのではないかと思ったのだった。

 もちろん、「必見!」のこの映画は、2月9日まで。その後、『北緯17度』(2/10〜2/16)『東風』(2/17〜3/9)とシリーズは続く。行ける人はぜひ行って、感想を聞かせてください。いずれも、21時20分からのレイトショーです。


2月5日(月曜日)@TOKYO

 『はなればなれに』(銀座テアトルシネマ)___ジャン・リュック・ゴダール監督・脚本+ドロレス・ヒッチェンズ原作+アンナ・カリーナ+サミー・フレイ+クロード・ブラッスール(1964年)

 わかりやすく、かわいらしい映画。登場人物たちは誰もかわいらしい。とりわけ、ちょっとドン臭い女のカリーナがよい。これはどこにでもあり、今でも撮られうる、ちっぽけな青春犯罪映画である。しかし、随所にセンスが光る。(わりあいあたりまえなことしか言えないな(笑))。まだやってると思うので、ぜひ見てね!

 『映画史』全8章も一挙上映される(3/10〜3/16 渋谷ユーロスペース)ようだし、このヴィデオ全4巻も夏に出るようだ。今年は、ゴダールが見直される年かもしれない。

 (などと言いながら(笑))『兵士の物語』(於:パルコ劇場)____山田和也演出+笠松泰洋音楽監督・指揮+いっこく堂+篠井英介

 もともと、楽譜に、セリフもバレエの場面も書き込まれていたというストラヴィンスキーの音楽劇に、いっこく堂と篠井英介が挑戦した。腹話術で有名になったいっこく堂は、もともと民芸の役者で、目指しているのは演劇だったのだから、晴れて本領に戻れた、ということだろうか。おめでとうさん! というしかない。そのように、この芝居は、もちろん、腹話術は生かされているが、その芸を見えるための「色物」的要素は皆無である。

 手柄は、ストラヴィンスキーという作曲家、及び、本作の「発見」である。音楽はもちろんのこと、演劇、バレエ、といろいろな形式が詰め込まれている。

 すでに「老練」な雰囲気を漂わせる篠井の「声」を、清純な雰囲気を漂わせるいっこく堂が「出して」いる、という状況は、非常に面白い。


2月7日(水曜日)

 『アンジェラの灰』___アラン・パーカー監督+エミリー・ワトソン+ロバート・カーライル

 もう少し救いのある、心暖まる映画かと思ったが、やはり、「監督、アラン・パーカー」であった。わけもわからず悲惨な状況が延々と続く。そして主人公の少年(あるいは青年)は、わけもわからず、その状況を、(とりあえずは)脱出できた。だからと言って、「よかったね」という言葉は出て来ない。


2月11日(日曜日)

 『アンブレイカブル』___M.ナイト・シャマラン監督・脚本+ブルース・ウィリス・サミュエル・L・ジャクソン

 この映画かどうか知らぬが、ジュリアン・ムーアは、シャマラン監督の新作の出演契約を破棄してまで、『ハンニバル』のヒロイン、クラリス役を射止めたと言う。うーーーん、ジュリアン・ムーアはえらい!(これが、この映画のカンソーである。「謎解き」は映画で)。


2月12日(月曜日)

 そういえばサ、↑上記日記、2月6日が抜けておった。2月6日(火曜日)は、東京都美術館で、「唐招提寺金堂平成大修理記念 国宝 鑑真和上展」つうのを見たのだった。都美術館は、60歳以上の都民は無料(ただ)のせいか、年寄りが多い〜〜! せっせと、美術館へ向かう年寄りを見て、合流した妹曰く、「東京の年寄りは足が速い〜〜!」
 しかしさすが年寄り、会場途中でリタイアして、椅子に座る人が多かったので、満員ながら、途中からは空いてよかった(笑)。
 えっ? 国宝ですか……? さすが10年に一度のご開帳だけあって、橋本センセイの『ひらがな日本美術史1〜3』には、記述がなかったです。四天王立像(奈良時代)は、やはり、迫力モノではないですか?  >東京方面のお年寄り(3/25まで)

***

 『ペイ・フォワード[可能の王国]』___ミミ・レダー監督+ケビン・スペイシー+ヘレン・ハント+ハーレイ・ジョエル・オスメント

 なんのことはない、日本ではあたりまえの、「情けはひとのためならず」ということを、アメリカ人は知らなかった、という映画である。大げさなんだよなー、たかが、人に親切にするくらいで。

 それに、『シックスセンス』の名子役オスメントも、なにやら、臭くなり始め、ハリウッドでピュアであるのは難しー。

 それにつけても、ゴダールを見て、脳みそがリフレッシュされたせいか、ハリウッドものがみな、いいかげんに見えるようになってしまった。


2月17日(土曜日)

 『リトル・ダンサー』___スティーヴン・ダルドリー監督+ジェイミー・ベル(子役)+ゲアリー・ルイス(パパ)+ジュリー・ウォルターズ(バレエの先生)+アダム・クーパー(りっぱに成長した「リトル・ダンサー」)

 労働者の、男子がバレエダンサーを夢見る。障害は数々ある。一番反対していたはずの硬骨の炭鉱夫の父は、一番軽蔑していたスト破りをしてまで、息子の夢を叶えてやろうとする……。涙、涙の物語だが……すべてにおいて、洗練されている!


2月20日(火曜日)

 『クリムゾン・リバー』___マチュー・カソヴィッツ監督+ジャン・レノ+ヴァンサン・カッセル

 うーーーん、ハリウッド映画を見慣れた目には、凡庸なスリラーと見えるだろうか? アメリカ映画なら、猟奇殺人は、変態のしわざで片付けられ、ヒーローはあくまでかっこよく事件に立ち向かうだろう。題材さえ、面白みを狙ったものでしかない。

 しかし、「ここ」は、おフランスである。所変われば、事件も、猟奇殺人も変わる。残酷さはむしろアメリカを凌いでいる。にもかかわらず、この殺人には「意味」があり、犯人にも、たとえむごい拷問つきでも、思わず「同情」してしまう、「理由」さえある。

 しかも、題材も、ただ珍奇さを狙ったものではない。ひょっとしたら、フランス社会に未だ根深く横たわる問題なのかもしれない……ということで、フランスでは、大ヒット! だ、そうである。

 さて、きみは、どれだけ、フランスを理解できるか? 

*余談*

 あの、大島渚の『愛のコリーダ』がリバイバル上演される。その予告編を各所で見かける。あれ、仏語の題名が、『L'empire des sens』(『意味の帝国』)、これは、ロラン・バルトの『L'empire des signes』(『表徴の帝国』)のもじりか? すげぇ題をつけたものである。これじゃあ、題名だけで、50点プラスされているようなものである。


2月21日(水曜日)

 『ふたりの男とひとりの女』___ボビー・ファレリー&ピーター・ファレリー監督+ジム・キャリー+レニー・ゼルウィガー

 この激しい下ネタ具合が、どうも『メリーに首ったけ』を思わせると思ったら、その監督でした。

 下ネタ、差別ネタ、なんでもガンガンござれ、である。この映画は、「ほどほど」ということを知らない。コードもへったくれもあったものではない。瞬間的には、完全にコードを越えている。

 しかし、これほど、「周囲に気を使った」映画もない。

 ジム・キャリーに、とことん独壇場を行かす演出が清清しい。フランスの猟奇に「理由(わけ)」があれば、アメリカの下ネタにも「思想」がある。というわけで、続けて、



2月27日(火曜日)

 『キャスト・アウェイ』___(数日前に見るが、いつだったか? 2/24(土曜日)あたり?)ロバート・ゼメキス監督+トム・ハンクス+へれん・ハント

 本当の「ロビンソン・クルーソー」というのは、決して、お気楽なハナシではないぞ、というのが、本作の主旨である。あるが、果たして、いま、どれほどの「意味」があるのか? 確かに、飛行機事故で無人島に流され、何年も発見されず、辛くも生き延びて、現代社会へ一応は復帰する……などということが、われわれの身にも起こらないではないが……。こう書いているうちに、インスピレーションが湧いた。ので、「小説」を更新するか……はっははは……。


2月28日(水曜日)

 『宮廷料理人ヴァテール』___ローランド・ジョフィ監督+ジェラール・ドパルデュー+ティム・ロス+ユマ・サーマン

 「フランス映画史上空前の制作費」って、ほんまかいな? 料理人が主役なのに、作ってる料理が全然見えず、しかも、その料理人は、魚料理用の魚が不漁のために僅かしか入手できず、自殺してしまう。いくら史実に忠実だってねえ……、それを工夫してこそ、料理人だろーが!




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