短編を読む


2020/10/5 

三島由紀夫「中世に於ける一殺人者の遺せる哲学的日記の抜粋」(1943.2、400字詰め換算23枚)

「殺人者の日記」であるが、むしろ、殺された者たちの様相をアフォリズム風に描写。日本の中世なのだが、どこか洋風の雰囲気で、殺人者と、友人の海賊の会話は、ギムナジウムにいる少年たちのやりとりを思わせる。
 観念的に凝縮した文体は、小説というより詩のようである。こういう題名をつければ、どんなものでも小説になりうる。

2020.10.5

三島由紀夫「サーカス」(400字詰め18枚)

「大興安嶺に派遣された探偵の手下であった」といとも簡単に表現されるが、曰くありげな過去を持つサーカスの団長に虐げられる、薄幸な曲馬乗りの少年と綱渡りの少女の話を、団長の捻れた愛の寓話として描くが、正確な言葉の選び方は、言葉の内実ではなく、言葉そのものであるということを認識させる。 

2020.10.7 森鴎外「吃逆(しやくり)」(400詰め20枚、1912.5) 1,「かのように」などの、連作のようであるが、やはり鴎外の特徴の、外国語原語を、果たして読者が解するかどうかなど気にせず、どんどん登場させ(parvenu=成金、のごとく)、背景のスノビズムを表現している。一方で、芸者の世界があり、差別的表現をそのまま描くことによって、やはり、「カズイスチカ」のとうな、「客観的な」面白みを出している。 2,主人公(?)の五条秀麿と、その友人二人のスノッブな会話は、なにを言っているのか、よくわからない。しかし、わからないものを、変に物語に変換せず、そのまま提出しているところが、却って文学になり得ている。

2020.10.8 室生犀星「寂しき魚」(400字詰め16枚) 1,あくまで魚と沼の話から離れず、丁寧に描写していく集中力。たかが魚の死を、ブロッホの大作『ウェルギリウスの死』を彷彿とさせるような深さと表現。 2,生の不条理を、自然描写で表現。 


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