映画レビュー

『シカゴ7裁判』──「コロナ時代」から見た1968(★★★★★)

『シカゴ7裁判』(アーロン・ソーキン監督、2020年、原題『THE TRIAL OF THE CHICAGO 7』

(2020/10/10@キノシネマ天神)

「アメリカ人であることが恥ずかしいと思った」(スーザン・ソンタグ) 

 1968年と言えば、世界的に「革命」が起こった年、アメリカでも、民主党全国大会の会場近くで、ベトナム戦争反対のデモがあったが、ただそのデモ隊は、一枚岩ではなく、主に三つのグループからなっていた。ブラックパンサー、イッピー、そして、政治的な左翼グループ。この三つが共同しながら、公園内でデモを行う予定であったが、警官隊の介入により混乱し、街の中へと流れだし、暴動となり、それぞれのグループの主導者の7人が、暴動を煽った罪で起訴される。その、150日以上続く裁判をていねいに追ったストーリーながら、スリリングなカットバックや、事実を撮したフィルムの引用、キャラクターの際立たせ、目を奪うような、意外なキャスティングで、「国家の犯罪への証明の逆転劇」を見せていく。
 中心は、のちに国会議員になるトム・ヘイデンで、その思慮深さと激しさを、こともあろうに、イギリス人で、トランスジェンダー役も似合ったエド・レドメインが、美しい身体を釘付けにさせ演じている。かと思えば、ほんものの性交シーンを演じて魅せた、やはりイギリス人の『インティマシー』マーク・ライランスが、個性的な風貌で、ヘイデンの弁護士を演じている。
 ベトナムを侵略しつつ、大勢の若者の命を「湯水のごとく」使い果たしていくアメリカは、大統領もニクソンに「スゲかわり」、政治に汚い手段を次々持ち込んでいく。したがって、この裁判は、あらかじめ、裁判長からして、でたらめなほど体制的な悪で、裁判の公平さなどどこにもないといったものだった。しかし、被告側は、マーク・ライランス扮する弁護士の「発見」によって、とんでもない証人を担ぎ出す。これが、かつてはおちゃらけ専門の若造だったマイケル・キートン(目力の演技がゾクッとするほどすばらしい)の、元国務長官で、現政権の敵であり、裁判の無効(つまり「暴動を煽った」のではなく、もともと警察権力の介入による暴力であった)を証言する。こういった裁判の進行が世界中に知らされ、ついに陪審員ほか体制側の人間も、「暴動」を煽ったのは「警察軍」であることを納得する。7人の被告の中では態度がよいと、当初から裁判長の心証をよくしていた、トム・ヘイデンが、被告を代表して「手短に」発言を許されるが、そこで、ヘイデンは、ベトナム戦争に犠牲となった兵士、五千人以上のリストの名前を一人一人読み上げ始める。ここで、法廷内は、拍手喝采に包まれる……。
 結果はすでに事実として証明されていることであるが、今の時代から見た切り口が重要で、そこに、この脚本を書いた、アーロン・ソーキンの新しい思想が如実に表れている。すなわち、あの時代は、実はどのようであったか。そして、いかなる行動が勝利したか。ソーキンの脚本は、『ソーシャル・ネットワーク』の時に惹かれていたが、本作では監督にも乗り出し、クリストファー・ノーランとともに、「コロナ以後の監督」として期待される。




 



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