どどどどど。
「ひづめ」の音があたりにひびき渡っている。
すごいねぇ、みんな早かったねぇ。
ゴール板を過ぎて引き返しながら、ボクは背中のゲンちゃんに声をかけた。
ひ、他人事みたいな言い方だね。
ぼ、ぼく達、みんなからだいぶ離されちゃってたよ。
でも、一番さいごじゃなかったよ。
そ、それでも後ろから数えた方が早かったね。
今は、次の「れーす」が終わったところだ。
スタートはよかったんだけど、途中からみんなに離されちゃったんだ。
さ、最初のコーナーのところで、となりの馬に、は、挟まれちゃったのが、ちょっと痛かったね。
そうなんだ、それで走るところがせまくなって、うしろに下がっちゃったんだよ。
残念だなぁ。
けっ、不利がなくても結果はそんなに変わりゃしねぇよ。
いっちょ前に敗因なんて十年はえぇや。
みんなのところに戻ったところで、大井さんに言われちゃった。
まあ、それでもふたつみっつは着順が上がったかもしれないね。
デビュー当時を考えれば、だいぶ競馬になっていたよ。
高木さんがにっこり笑う。
昇級初戦だったけど、思った以上に頑張れてたねぇ。
あれ、それって期待されてなかったってこと?
ボクが首をかしげると、高木さんは、あはは、と笑った。
正直言うと、最悪、競馬にならないかもしれない、とは思っていたね。
高木さんは、鋭いねぇ、と言いながらボクの首をなでた。
そしてふと真顔になった。
ここのところレースも続いて、そろそろ疲れもたまってくるだろうから、この辺で放牧に出そう。
まずは牧場に帰ってゆっくりするといい。
ボクはあんちゃんたちのところに帰ることになった。