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教科領域教育専攻 芸術系コース(音楽) 佐藤大二 ―中学生の音楽に対する印象を中心として― 中学校において、生徒の音楽の授業離れが長い間問題となっている。今や音楽は、日常にあり、誰でもがちょっと手を伸ばせばいくらでも聴きたい音楽を手に入れることができる。しかしそれらの音楽体験、特に聴取に限っていえば、能動的聴取ではなくテレビ・ラジオによってもたらされる受動的聴取で、好むと好まざるとに関わらず、聴取している、すなわち押しつけの音楽聴取となっているのである。そのような中で、いかにして学校での限られた音楽体験の中に、自立的な音楽科教育の意義を見いだすかが、大きな問題として浮かび上がってくる。能動的聴取の能力を身につけることは、音楽科教育にとってまず必要なことの一つである。 そのためには、学校での音楽の授業が、普段個人的に聴いている、もしくは聴かされている音楽では味わうことのできないものを経験できる場でなくてはならない。ただ聴くだけではなく、音楽の存在の必然的な本質に迫るものが授業に息づいている必要がある。これは、音楽によっていかに心を動かされるかが何よりも重要であると考える。 そこで、音楽聴取によって情動が喚起されるための認知過程を、認知的聴取(知覚「認知「情動)という過程と、知覚的聴取(知覚「情動)という過程を経ていると考え、音楽経験のちがいが、これら2つの認知過程に大きく影響するとという仮説にたち、実験的研究を行なった。 2 論文の構成 第1章 研究の目的 第1節 はじめに 第2節 音楽科における聴取の概念 第3節 聴取における情動反応 第4節 音楽経験とスキーマ形成 第5節 認知的聴取と知覚的聴取 第6節 研究仮説 第2章 実験の方法 第1節 実験方法の概略 第2節 選曲 第3節 Step1の手続き 第4節 評価尺度の構成 第5節 Step2の手続き 第6節 処理 第3章 結果と考察 第1節 因子分析結果 第2節 被験者間の有意差の検定結果 第3節 楽曲間の有意差の検定結果 第4節 考察 3 研究の概要 (1) 方法 この実験研究は、以下に示すような2つのStepを踏んで進めた。 Step1においては、川原、野波(1978)の研究によって抽出された30の評価尺度から、音楽経験のちがいにおける音楽聴取の評価尺度を、中学生を対象としたStep2の実験のために再構成することを目的に手続きを行なった。大学生の音楽学習経験者群(大阪芸術大学音楽教育学科2年生33名)と音楽学習非経験者群(兵庫教育大学学校教育学科の音楽コースの属さない運動部の学生21名)に対して、中学生のスキーマの考察をもとに8つのカテゴリーを設定し、それぞれのカテゴリーに属する楽曲8曲を刺激とした。 (1) 西洋音楽(古典、ロマン)の小学校課程での学習曲 管弦楽組曲第2番ロ短調BWV1076から」.Polonaise-Double:Lementent Johann Sebastian Bach 作曲 (2) 西洋音楽(古典、ロマン)の中学校課程での学習曲 交響曲第7番 イ長調 作品92 第4楽章 Allegro con brio Ludwig van Beethoven 作曲 (3) 西洋音楽(近代)の小学校課程での学習曲 組曲「道化師」 Dmitry Borisovich Kabalevsky 作曲 (4) 西洋音楽(近代)の中学校課程での学習曲 交響詩「海」から「海の夜明けから昼間まで」 Claude Achille Debussy 作曲 (5) 日本音楽の小学校課程での学習曲 春の海 宮城道雄 作曲 (6) 日本音楽の中学校課程での学習曲 尺八曲「鹿の遠音」 作曲者不詳 (7) 西洋現代音楽 バレエ「春の祭典」第2部「生贄の踊り」 Igor Stravinsky 作曲 (8) 日本以外の民族音楽 ジョクジャカルタのガムラン「パンクル」 これらの刺激と前述の30の評価尺度を用いて、各楽曲に対する印象を質問紙によって測定した。その結果をもとに、因子分析を行なった結果、音響の因子、情動の因子、律動の因子の3因子を求めることができた。これら3つの有意味な因子から因子負荷が高く、楽曲に共通して含まれる項目を選出し、15項目からなる評価尺度を再構成した。 Step2においては、認知的聴取と知覚的聴取の要因のちがいを明らかにするするために、Step1で得られた評価尺度をもとに、中学生の音楽学習経験のちがいによる音楽聴取の印象のちがいを明らかにすることを目的に手続きを行なった。Step1で使用した同じ8曲の楽曲を刺激として用い、中学生を対象(大阪府と兵庫県の中学校1校づつ計2校537名)に、Step1で得られた評価尺度を用いて、各楽曲に対する印象を質問紙によって測定した。その結果をもとに、因子分析を行ない、因子ごとの合成変数から有意差の検定を行った。 (2) 結果と考察 因子分析によって、項目の構成同様、音響の因子、情動の因子、律動の因子の3つの因子が抽出された。第1に、聴取の過程が如何なるものでも、音刺激を音楽として知覚した場合、情動の因子は、欠かすことのできない要因であると考えられる。第2に、認知的聴取は音の動きに着目している点から、律動の因子がその主な要因として考えられる。第3に、知覚的聴取は、瞬間的に鳴り響く状態を知覚していることから、音状の因子によってその主な要因が特徴づけられると考えられる。 さらに、有意差の検定結果によって、以下のことが明らかにされた。 1.同じ楽曲において、音楽学習経験者と音楽学習非経験者には、特定の因子に反応の強さのちがいが見られた。ただし、有意差の認められた因子においては、全て音楽学習経験者の方が強く反応した。 2.楽曲によって、音楽学習経験者と音楽学習非経験者では、ほぼ同じ方向性の印象を持つ傾向があるが、日本音楽の未習曲において方向性のちがいが見られた。 1.のことから、日本音楽の未習曲以外は、スキーマの方向性は同じであるといえることによる。ただし、日本音楽の未習曲においては、音響の因子において、反応の方向性においてちがいが生じたことから、おそらく西洋音楽を中心に学習してきた者は、日本音楽のスキーマの形成よりもはるかに形成の進んでいる西洋音楽のスキーマが優先されて、初めて聴く日本音楽の楽曲を聴いたと考えられる。 以上のことから本研究においては、音楽経験のちがいが聴取の仕方に影響を及ぼすことは明らかになったものの、それらの聴取の仕方が認知的聴取と知覚的聴取の2つのタイプによってなされているであろうことは明らかにすることはできなかったことにより、「音楽聴取によって生じる情動には、認知的聴取と知覚的聴取の2つのタイプがあり、それは、聞き手の音楽経験が影響する」という研究仮説を明らかにするための示唆は得られたといえる。 原本は、兵庫教育大学図書館および兵庫教育大学実技教育センター鈴木寛研究室に保管してあります。また、原文をお読みになりたい方は、以下のリンクページにありますので、ダウンロードしてください。 ![]() 修士論文のダウンロードページへ(鈴木寛のホームページ/学生のページ) トップページへ |