タイトロープウォーカー 2003.10.13
「銀河帝国の興亡」という小説をご存知でしょうか?アイザック・アジモフのSF小説です。
いえ知らなくとも恥でもなんでもありません。
あなたは私の読んだことのない本をたくさん読んでらっしゃるのですから。 sensei.gif
「SF小説は低俗だ」とかいっちゃいけませんよ。SF小説はもちろん、恋愛小説であろうが、ミステリイであろうが、戦争物であろうが価値があるか否かはそのできばえしだいです。
純文学というのは「商業的にはだめです」という本が名乗るカテゴリーです。
なお、アイザック・アジモフも言ってますが、SF小説だから科学的に正しいということではないのです。いかなる小説も人間、人間関係、社会、国家を描かなければ価値はありません。
非科学的なSF小説も人間、人間関係、社会、国家を描き文学として価値があれば存在は許されるのです。
「銀河帝国の興亡」の設定は大未来(おおみらい:大昔の反対語)で人間は宇宙に広がっています。しかし、それぞれの国家・社会をたばねる国家連合あるいは行政機構はやがてその機能を失っていきます。そしてその結果、国家間の結びつきは失われ文明は進歩から退化に移行していきます。
心理歴史学という学問の先生ハリ・セルダンはそれを予見し、文明の粋をひとつの星に集めてファンデーションと呼ぶ国家を造り滅び行く文明再興のともし火にしようとする。
やがて彼の予言とおり多国家連合の行政機構は崩壊し、個々の星々は栄華を極めた文化を維持できずに退化していきます。大きな宇宙船を作る技術も失われ星間航行も行われなくなるのです。
子供の頃読んだとき、文明が衰えていくという発想を理解できませんでした。終戦後に生まれた私にとって文明というものは常に進歩する非可逆変化・一方通行であったのです。
地球に限界があると知った今、文明は進歩だけではなく退化することもあると理解できるようになりました。
ところでハリ・セルダンが選んだ星というのは、当時の文明の中心から離れた僻地にあり、資源がなく、武力もなく、誇るものはなにもない星なのです。
その星の住人たちは、次々と迫り来る困難・・・近隣諸国の武力の脅威・・自身の文明の崩壊の危機・・経済危機・・資源の枯渇の危機・・・そういったさまざまな種類の危機に必死にその場その場で最善策を模索し、文明と国家を維持していくのです。
「銀河帝国の興亡」は延々と続いていきますので後半はもう読み疲れてしまいます。 
この小説は書き始めから完成まで半世紀くらいかかっているはず、
この小説を「ローマ帝国の興亡」の焼き直しだとか評論する方もいますがまあどうでもいい・・・・
「歴史とは成功者の物語」という表現もあります。失敗者、敗北者、滅亡した国家の歴史というのはすべて失われ、抹消されてしまうからです。
滅んでしまった国々、みなが忘れてしまった国々の物語は歴史になりません。現在この地球上に存在する国々はすべて運に恵まれ生き残っている国であり、現在残っている歴史はすべて成功した国々の物語です。
quest.gif そのようなことから考えると「本当のアジアの歴史」とか「共通の歴史認識」というのは語義的にありえないような気がします。
中国はチベットとの共通の歴史認識を持つことはできないでしょうし、韓国は北朝鮮と共通の歴史認識を持てないでしょう。なにせ朝鮮戦争がどちらから侵入したのかさえ見解が違うのですから。・・・・それはいずれまた
ハリ・セルダンの創設した国家は汎宇宙の多国家間機構が失われた後、数百年の間宇宙の辺境にあって経済強国、軍事強国のはざまで非常にクリティカルな途を常に緊張の連続で歩み続けます。一瞬の判断ミス、選択の誤りが国家の滅亡になります。
もちろん小説ですから文明崩壊してから約千年後にファンデーションは人間の文明再興の要となりハッピーエンドになるのです。

現実を考えると、ファンデーションのおかれた状況というのは日本と同じような気がします。
  • 資源がない
    ファンデーションのコイン(硬貨)は鉄でした。人類の歴史で常に貨幣に用いられた貴金属が産出しないからです。
    日本が輸出した資源といえば銀と銅ですが、既に過去の話です。
    今の日本にはエネルギー資源も鉱物資源もなーんもありません。
    もっともこの日本に石油資源があれば怖いものなしの日本となってアメリカの対抗となっているのでしょうか? それともイラクやイランのように動乱の地となっているのでしょうか?
    どちらも願い下げですが・・・・
  • 世界の文明の中心から遠く離れている。
    ファンデーションは強力な国家から離すためにわざと辺境に設置されました。
    日本も過去の四大文明ともローマやその他の先進文明から遠く離れていました。
    四大文明じゃない、多極的文明があったという説もありますが、このさい省略
    アメリカに比べれば法隆寺は古いし、アユタヤに比べれば奈良は古いですが、世界の歴史のレベルから言えば新参であることは確か
    日本はこの地勢的条件が良かったのでしょうか?中部ヨーロッパや中国大陸の半島の位置にあればよかったのでしょうか?
    良し悪しはともかくファンデーションとの類似性を感じます。

  • 近隣には軍事強国がある
    日本だって(過去千数百年を捕らえれば)中国やモンゴルといった脅威のもとにあり、諸国の力のバランスと日本の国家としての意思・選択によりなんとか存在してきたというのが現実ではないのでしょうか?
    そしてもちろん江戸末期からはイギリス、アメリカ、フランス、清、ロシアなどなどの脅威下にあったわけで、日本人の先達たちは結構うまく処理してくれたと私は評価する。

    更に日本にはさまざまな枷が課せられています。
  • まず非白人という条件
    日本が白人国家であれば第一次大戦・中国での覇権・第二次大戦などにおいて列強の見る目は異なったことは明らか、
    独断と偏見で言えば、日本が白人国家であれば黄過論はなく(当たり前か)日本人排斥もなく、ハルノートもなかったのでは?
    そんな仮定のことを考えることさえ無意味かもしれませんが、
    そういったとき、日本は単なるヨーロッパの一国であり世界の歴史はいっそう平板で無彩色なものとなったかもしれません。
  • 非クリスチャンという条件
    もっともこれは前述の条件に付随的なものかもしれない。
    以前、クリスチャンしか民主主義を成し遂げた民族はないとおっしゃる方がいました。
    お説にはまったく同意できません。いつでも論戦を挑んでくださいね。 

  • 内向的性格
    ファンデーションは本来研究機関という名目でした。だからその国民は文明の箱舟の機能を維持する意思はともかく、国外へ経済的、軍事的行動を起こすという発想・行動はあまりありません。
    日本は長い鎖国以降、国家規模でも個人レベルでも外に出て行くということはあまりありません。かってのハワイ移民、北米移民、南米移民みな国に錦を飾るという意識だったのではないでしょうか?
    中国人、韓国人はどんどん外国に出て行っています。今日、世界の街角でハングルを見かけない所はないようです。
    鎖国というものは現実にはなかったという説もあります。しかし山田長政などを見捨てた(あるいは後に続くものがいなかった)という意味ではやはり日本という国家は内向的であろうと思います。
    歴史上外向的だったのは秀吉の朝鮮出兵など例外的なものだけです。

    韓国のお方は秀吉の侵攻を今でも忘れないそうですが、ベトナムの方は韓国軍の侵攻を今でも忘れないでしょう。
  • 最後に強烈なのを
    国民に国家意識がなく、傍観者的であること。
    自虐史観とはこれでしょうね、
    もっともこれは日本人の特質ではなく近隣諸国の指示を受けたサヨクの成果かもしれません。

ファンデーションは非常に不利な条件下にあったけれど、ハリ・セルダンが描いたストーリーに沿って国家指導者の英知と国民の努力により滅亡することなく自国の繁栄だけでなく人間の文明再興の土台(ファンデーション)となることができました。
果たして日本は地球のいっそうの進歩に貢献するファンデーションになることができるのでしょうか?


サルは木から落ちてもサル
政治家は落選すればただの人
国家は失われたら、それはすべての終わり

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日本に限らずすべての国は綱渡り。
綱から落ちれば祖国を失うのはあなた一人ではない。
集合としての日本人すべて、それには現在の日本人だけでなく外国籍の日本人も未来の日本人も含まれる。
私たちは自分の世代を無事に渡り切り、次世代につなげなくてはならない。




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