人質犯人の呼び方 2004.05.01
 この拙文を霧衣様に捧げる
いえ、そんな意味深長なことではありません。 
日比谷の北朝鮮拉致被害者奪還集会で硬いベンチに座って、霧衣さんのお話を聞きながら頭に浮かんだという理由にすぎません。

    イラクで日本人人質事件がありました。
    正確に言えば、あったのではなく、これから続々発生する人質事件の嚆矢(こうし/かぶらや:戦いのはじめに飛ぶ矢のこと)に過ぎないのかもしれません。
    なにしろ既に二度発生していますし、解放された被害者が再びイラクに行くと断言しているのですから再発することは間違いありません。
    人質を誘拐したのは何者だったのか?
    quest.gif それは定かではありません。しかしこの事件の誘拐犯人を呼ぶ呼び方はさまざまです。
    ひとつ人質犯人の呼び方とそれが意味することについて考えたいと思います。

  • ある人は「誘拐犯人はテロリストである」といいます。
    そもそもテロリストとは何でしょうか?
    朝日新聞ではパレスチナに関してはテロ組織、テロリスト、自爆テロという言葉を使っており、正義か否かはともかくパレスチナの行為をテロと断定している。(各種記事、社説の表現による)とはいえ朝日新聞の論調は常にパレスチナ側の視点で記述されている。
    いえ、それが正しいとか間違っているということではない。朝日はパレスチナの反イスラエル勢力はテロである見なして、かつ正義と見なしているということであり、ということはテロと正邪は関係ないと考えているということである。
    イラクにおいても自爆テロという言葉は使われている。戦闘状態にない人々を殺傷する者はテロリストなのだろう。
    北朝鮮拉致はテロだという人もいる。私はこれはちょっとニュアンスが違うのではないか?という気がする。
    blue-7.gif 今現在テロという言葉がどのように使われているかは別として、その原義は『恐怖を与えること、恐怖を与える行為』であった。(各種国語辞書や英英辞典による)そしてある場合は政治的な意図で行うことである。
    北朝鮮が日本人を拉致したのは主権の侵害であり人権の侵害である重大な悪であるが、それによって日本国家と日本人に恐怖を与え、日本の国策や日本人の世論に影響を与えようとしたわけではない。それを思えばテロとは言いがたい。
    北朝鮮による拉致がテロかテロでないか大手新聞でさえ議論している。はっきりいってバカじゃない?
    私にとって、北朝鮮拉致がテロであろうとなかろうと、関係ない。
    日本の主権を侵され、日本人の人権を奪われたなら、それは宣戦布告に値するということだ。
    残念ながら、日本の現憲法が宣戦布告を認めていないなら、経済封鎖、国際的な世論攻撃、外為法の行使などにより徹底的に圧力をかけるべきである。
    あるいは、早急に憲法を改正し、軍事行動を可能にするべきであろう。
    北朝鮮に人道援助を!と叫ぶ人には日本人の人権は見えないらしい。
    ブッシュ大統領の定義ではテロリストを支援する国はテロ国家らしい。これは拡大解釈(拡張解釈ではない)と思えるが、しかし私には抵抗がない。 bush.jpg 現実のテロの脅威とテロの実行経過を踏まえて考えれば、実行犯だけでなく協力者、事後従犯、さらには支持者までもテロリストとみなさないとテロ撲滅はできない。
    ブッシュさんの論理はエスカレートするので、そのうちテロを支援する国家はテロ国家どころかテロを支援する人がいると、その国家はテロ国家だと言い出す恐れもある。日本にも北朝鮮を支持する人がいるから、日本もテロ国家にみなされるかもしれない。 

    いずれにしてもテロリストであるか否かはその主張が正義であるとか、正義でないということと無関係だ。
    では、今回のイラクの人質事件の犯人たちはテロリストだったのでしょうか?
    今回イラクの人質事件では、誘拐犯たちは人質を殺すといい、その命を救う代わりに日本政府と日本人に国策の変更を要求した。まさにこれはテロであり、テロリストである。
    人質誘拐犯人たちをテロリストと呼んで間違いはなさそうだ。


  • ある人は「イラクで日本人を誘拐した犯人はテロリストではなく、愛国者である」と言います。
    愛国者であればテロリストではないのでしょうか?テロリストと愛国者というのは反対語なのでしょうか?
    オウム真理教による地下鉄サリンテロはテロと呼ばれているのだから、その犯人はテロリストに違いない。彼らは愛国者ではなく、まさしく宗教を信じた狂信者であった。狂信者がテロリストである場合もあるということだ。
    愛国者であって、テロを行う人もいるかもしれない。北アイルランドのIRAはまさしくテロリストだが、愛国者とも言える。北アイルランドが独立国家でなくても独立を求めているならば愛国者と称してもよいだろう。
    愉快犯でテロを行う人は・・・たくさんいるようだ。自転車やバイクで子どもやお年寄りを殴りつけたり切りつけたりするのはまさしく無差別テロ。「いやあ違う、それは通り魔だよ」といいますか?
    通り魔をテロリストと呼んでいけない理由はなさそうだ。私は通り魔とか辻斬りとは無差別テロだと思う。

    ところで、今回のような誘拐事件を起こした犯人を愛国者と呼ぶことができるのだろうか?
    イラクが一枚岩でないことは事実であり、宗派によってあるいは地域によってそれぞれの利害が絡み合い、多様な主義主張があり、国旗にしても政治形態にしてもまとまらない実態からあきらかなこと。しかしながら今現在、暫定政権が存在し、民主的かつ平和的に新しい政治を目指しているときに、一部跳ね返り分子を愛国者と称することは許されるのだろうか?
    暫定政権に関わっている人たちは愛国者ではないのだろうか?もちろん愛国者にもいろいろ考えがあるのは当然だが、テロという戦術を選んだ人たちをわざわざ愛国者と呼ぶこともなかろう。あるいは愛国心さえあれば何をしても愛国者といえるのだろうか?
    日本で右翼が左派政治家を暗殺したことは過去にあった。今回の誘拐犯を愛国者と呼ぶ人たちは、同じ理屈で彼を愛国者と呼ぶのだろうか?
    現在のイラクに通常の意味の愛国者がいるのかどうか私はわからない。さまざまな拮抗する利害を持つグループが多々ある現在のイラクにおいて、自分の所属する勢力に対する忠誠はあっても、自分と異なる宗派あるいは種族も含めたイラク全体に対する愛国心というのがあるのだろうか?
    fusein.jpg イラクとは何か?イラクは国家なのか?と考えるとそれは日本や台湾とは異なり一つの国家とは断言できないと思う。イラクと呼ぶ地域をフセインが力で抑えていただけの話で、チェコやソ連と同じように押さえているものがなくなればまとまっているはずがないような気がする。今後数十年で(あるいは数年で)バラバラになるのではないか?とも思える。
    そういったことを大幅に四捨五入して「今回の人質誘拐犯はテロリストではなく愛国者である」と発言することは、あきらかな間違いである。

    ところで、今回の誘拐犯が身代金目当てではないという証拠はあるのだろうか?


  • 人質誘拐犯人は兵士である。
    イラク人質事件の被害者たちは誘拐犯人のことを「犯人」はおろか「テロリスト」ともいってはいない。必ず「兵士」と呼んでいる。 ranger.gif
    兵士とは何か?
    それは単に武器を持っている人間の意味ではない。
    兵士とは「軍隊に所属するもの(英英辞典)」であり、ジュネーブ条約では正規軍・民兵に属し軍服を着用していない者は兵士と認められない。
    非合法組織が重火器を持っても軍隊ではなく、それに属している者も兵士ではない。
    いや、ジュネーブ条約に照らして考えれば、戦時国際法や曲がりなりにも存在しているイラクの暫定政権の統治に反して、民間人を誘拐しその見返りを要求するという行為を行ったものを兵士と呼ぶことはできない。それは単なる犯罪に過ぎない。
    無差別誘拐や自国人であろうと外国人であろうと人質をとって国家や国民をゆすることはまっとうな戦術ではないのだ。
    人質事件の犯人たちは兵士とではなく犯罪者と呼ぶほかない。
    アメリカ軍がイラク人捕虜を虐待しているとして真偽の不明な写真が多々報じられている。それが事実ならジュネーブ協定違反であり重罪だ。今回の人質誘拐事件はそれとまったく同じレベルなのである。
    それを知らずに兵士などと称してはいけない。
    誘拐された人たちは誘拐犯たちが武器を持っていたから兵士と呼んでいるのだろうか?もしそうであればその程度の知識でイラクに限らず戦場あるいは危険地帯に出向くべきではない。
    あるいは誘拐犯人が兵士でないことを知っていて兵士と呼んでいるのだろうか?それならばなにか意図があるに違いない。誘拐犯人に共感してその意義を称えようとしているのだろうか?非合法な行為を合理化しようとする表現なのだろうか?
    ここでの結論、誘拐犯人たちは「兵士ではない」



  • 本日の結論


    イラク人質事件の誘拐犯人は「テロリストであり、愛国者ではなく、兵士ではない」
    もし、彼らを「テロリストではない」「愛国者だ」「兵士だ」と語る人がいれば、それは間違っているか、あるいはわざと間違えているかのいずれかである。




    独り言の目次にもどる