4.3.3 環境目的・目標 2010.02.01
「環境目的は著しい環境側面から選ぶのですよ」と語るコンサルタントも審査員もたくさんいる。企業でもそう思っている人はたくさんいる。
つい最近も某所で審査に立ち会ったとき、審査員が「この環境目的はどの環境側面から選んだのですか?」と質問する。
企業の担当者(事務局という言葉は嫌いだ)は、環境側面から環境目的を選ぶとは規格で書いてないとか言ってましたが・・その後、審査員の強烈な体当たりを食らって・・撃沈!
私? 別に助けを頼まれたわけでもなく、ただ見てただけです。それが何か?
人間は一人で生きていかなくてはなりません。

私は「環境目的は著しい環境側面から選ぶ」は完全に間違った解釈だと過去15年思ってきた。
ところで改めてJISQ14001規格を読んでみると、確かに「環境目的は著しい環境側面から選ぶ」と読めるように思える。
「環境目的は著しい環境側面から選ぶのですよ」と語るコンサルタントも審査員も間違っていないのかもしれない。
JISQ14001:2004
4.3.3 目的、目標及び実施計画
 二番目のセンテンス
目的及び目標は、実施できる場合には測定可能であること。そして、汚染の予防、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守並びに継続的改善に関するコミットメントを含めて、環境方針に整合していること。
・環境目的・目標は測定可能でなければならないよ
・それは環境方針に整合していなければならないよ
とありますが。
しかし、文の構成からみて二つの要素が分離しているし、修飾部分が長ったらしくて、目的目標と環境方針が離れており方針の重要性が読み取れない。

むしろ次の三番目のセンテンスの
その目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面を考慮に入れること。また、技術上の選択肢、財務上、運用上及び事業上の要求事項、並びに利害関係者の見解も考慮すること。
から「環境側面を考慮する」が目について、環境側面から選ぶという認識を持ってしまうのではないだろうか?

私は、これは完全な誤訳だろうと思う。
だって、そもそも元々の英文はツウセンテンス(s)ではなく、ワンセンテンスなのだから。そして、意味も大きく変わっている。

英語の原文は
ISO14001:2004
The objectives and targets shall be measureable, where practicable, and consistent with the environmental policy, including the commitments to prevention of pollution, to compliance with applicable legal requirements and with other requirements to which the organization subscribes, and to continual improvement.

私ならこれを次のように訳します。
目的及び目標は、実施できる場合には測定可能で、かつ汚染の予防、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守並びに継続的改善に関するコミットメントを含めて、環境方針に整合していること。
ワンセンテンスであることにご注意ください。この文章で大事なのは環境方針に整合していることです。
更に誤解をなくそうとするなら上記の修飾語部分にカッコを付けくわえて
目的及び目標は、(実施できる場合には)測定可能で、かつ(汚染の予防、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守並びに継続的改善に関するコミットメントを含めて、)環境方針に整合していること。
となります。
分かりにくければ( )を取り除いちゃいましょう。
目的及び目標は、測定可能で、かつ環境方針に整合していること。
修飾語部分に( )があるのは法律の常とう手段。そして法律を読むときはこの( )部分を取り除いて読むのも常とう手段です。
簡単じゃないですか!?
この文章を読めば環境側面もコミットメントも法規制も形容詞、修飾語であったということが分かるでしょう。
実を言って、
目的及び目標は、測定可能で、かつ環境方針に整合していること。
測定可能も目的・目標にかかる修飾語ではないかという気もする。
つまり
目的及び目標は、環境方針に整合していること。
だけが真髄なのではないのだろうか?
つまり環境側面から選ぶというのは間違いだ。環境目的・目標は環境方針を実現するためのものであり、その際に環境側面を考慮するのだということがご理解いただけるのではないだろうか?

だが、これを知らずに今日もまたどこかで「環境目的は著しい環境側面から選ぶのですよ」と語るコンサルがいて、「環境目的は著しい環境側面から選んでいないのでペケ」と語る審査員がいることは間違いない。
困ったことである。 



名古屋鶏様からお便りを頂きました(10.02.01)
佐為様。 まいどの名古屋鶏です。
ウチに来る審査員様も言いますよ? 「環境目的と環境側面との繋がりが良くわかりません」って。
規格には確かに環境目的・目標について「著しい環境側面を考慮に入れること」とありますので、審査員氏はそこを見て仰ってるであろうとお察しいたしますが。
しかし、その前文には「法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項"並びに(and)"」とあるわけです。何故、彼らはこの部分を無視するのか。
目的・目標を企業の自己満足で決定してしまっていい筈がない、と私は思います。最低限、法律や顧客からの要求事項に対して真摯であるべきなんです。だって我々は法律に保護されて顧客からのお金でメシを食っているのですから。
例えば工場騒音(著しい環境側面)の数値が法的基準値(法的要求事項)を超えているのなら、最低限、それをクリアする方策を練る必要があります。「超過率10%以内」なんて目標でokな筈がありません。
つまり、「法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項 並びに 著しい環境側面を考慮に入れること」は「お客から要望されていることで、著しい環境側面(重要課題)については、その状態がどうなっているか等をよく見て対策の度合いを判断せえよ」という理解でいいと思っています。
てか、ISO云々は兎も角として普通はそうして目標値を出すものだと思いますがね。「省エネ率1%以上」とか。
だいたい、お金をもらって仕事をするのに「・・・選ぶ」なんて余地がある事自体ヘンですよ。
お客の要望に応えてこそお金が貰えるんでして、それを無視して自社で勝手に仕事を進めるということは、トマトを買いに来た客にキュウリを売りつけるようなモンですわ。すぐにツブれますよ、そんな店。
と、思います。

名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
うーん、私は若干考えが違います。
名古屋鶏様は 目的・目標を企業の自己満足で決定してしまっていい筈がない と書かれています。
私は逆に、目的・目標は企業が自由に決定できるものだし、決定しなければならない と思います。
環境目的・目標と思うから、いろいろ考えて決めないとならないように思うのは当然です。
でも、事業戦略とは企業家が夢を持って立案し、実現を図るものでなくてなんでしょうか?
事業計画が、ち密か、ずさんか、人まねかは第三者・第二者に判断はできるでしょう。でもその方向が良いか悪いかなど神様でなければ評価などできるはずがありません。
ホンダがバイクから4輪車に移った時、多くの人が大丈夫かなあと思ったでしょう。
ヤフーがブラウザの天下を取っていた時、マイクロソフトがブラウザでも覇者になるとは多くの人は思いもよらなかったのでは・・
グーグルはどうでしょうか?
ということで、私は方針の要件を規格が決めても、方針の方向を評価などできる力量のある人、いや立場にある人はいないと考えます。
そして方針を具体化した目的目標(事業計画)を論評するなど恐れ多いことではないのでしょうか?

10.03.11追加
名古屋鶏様の審査で審査員がのたまわった(のたうち回った?)
「環境目的と環境側面との繋がりが良くわかりません」
とは、実は組織が示したものに不備があったということではなく、審査員が規格に書かれている環境目的と環境側面のつながりを理解できていないということではないのだろうか?
そうだとすると曇りがパット晴れ上がる。
規格を理解していないなら、横柄(おうへい)な口をきくのではなく、「実は私は規格を読んでも環境目的と環境側面との繋がりが良くわかりません。教えていただけないですか?」と質問すべきだろう。
私なら授業料など頂かなくてもいつでも丁寧に説明したいと思う。

4.3.3 環境目的・目標 3 2010.03.10
本日は、目的目標は環境側面からという大ウソについてのお話です。
ISO14001に関わっている人100人に聞けば、その中の95人は「目的目標は環境側面から選ぶ」と考えているに違いない。
審査員になると正しい理解をしている人は更に少なく100人中98人くらいが「目的目標は環境側面から選ぶ」と考えているのではないかと想像していた。
なにせ、審査スケジュール表に「環境側面と目的目標の関わり」という時間割を作っている認証機関さえあるのだ。
どこかとお思いなら貴社の前回の審査スケジュール表を眺めてみてください。
もしそう書いてあればその認証機関です・・・当たり前か!
ところが今日、某認証機関のパンフを見たら、その中に「環境目的目標は方針を展開したものでなければなりません」と書いてあるのを見つけた。
なんだかとてもうれしくなった。
当たり前のことを見つけてうれしくなるのも変だが、当たり前の認証機関が少なくとも1社はあることが分かった。

しかし「目的目標を環境側面から選ぶ」という発端は20世紀のジュラ紀、恐竜時代の審査員が考えたに違いないが、いったいどこからそんなおかしな考えが出てきたのかと、それが疑問である。
規格文言を掲示する。
4.3.3 目的、目標及び実施計画
組織は、組織内の関連する部門及び階層で、文書化された環境目的及び目標を設定し、実施し、維持すること。
目的及び目標は、実施可能な場合には、測定可能であること。そして、汚染の予防、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守並びに継続的改善に関するコミットメントを含めて、環境方針に整合すること。
その目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面を考慮に入れること。また、技術上の選択肢、財務上、運用上及び事業上の要求事項、並びに利害関係者の見解に配慮すること。
組織は、その目的及び目標を達成するための実施計画を策定し、実施し、維持すること。実施計画は次の事項を含むこと。
a)組織の関連する部門及び階層における、目的及び目標を達成するための責任の明示
b)目的及び目標達成のための手段及び日程

この文章の中で「環境側面」という言葉が出てくるのはただひとつ
その目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面を考慮に入れること。
というくだりだけだ。
しかしこの文章を読んで「環境側面から目的目標を選ぶ」とのたまわく審査員がたくさんいるにも関わらず、「並び」で結ばれているもうひとつの文節である「法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項」から目的目標を選ぶとのたまわく審査員がいないという理由が分からない。
頭のメモリーが足りずに3秒前に出てきた文句を忘れてしまい、最後の言葉だけ頭に残ったのだろうか?
そんな輩は2010/niwatori.gifニワトリ以下か? 

話は変わるが、最近 本で読んだかネットで見たか忘れたが、関西の大学で講義の中で学生にバーチャルな会社を考えさせ、その会社の環境側面を決定し、その改善のための目的・目標と実施計画を作成させたという話をみた。
講師はISO14001を平易に教えようとしたのだろうが、完ぺきにずっこけている。意図は正しくても教えられた学生は「側面→目的目標」という間違いを刷り込まれたことだろう。
正しくは環境方針を立てさせ、そしてそれを具現化するための目的・目標を考えさせなければならないのだ。
大学で教える人がその程度なら、審査員なら規格の理解を間違えていてもしょうがないのか?
といっても、規格の理解を間違えてお金をもらった審査ができるのかという疑問は消えない。それよりも、そんな理解では環境保護は無理じゃないかね?

本日の疑問
やはり「環境側面から目的目標を選ぶ」という間違いの原因は分かりませんでした。


ISO14001の目次にもどる