Windows環境での手軽なコンピュータ計測

                                 



1.   はじめに

 OSとしてWindowsが普及して,10年近くになろうとしている。MS-DOSの時代には,新潟県のNADVをはじめ,岡山県などでパソコンの拡張スロットに挿入するタイプの汎用A-D変換ボードが製作され,コンピュータ計測が広く行われ,授業でも活用されていた1)Windows環境になり,これらのA-D変換ボードが全く使用できない状況となり,コンピュータ計測もWindowsが持つサウンド機能(音声用内蔵A-D変換器)を利用した音,交流電圧の計測やVFコンバーター(電圧周波数変換器)を利用した直流電圧の計測などに限定されたものであった2),3),4)。また,市販されているコンピュータ計測機器やセンサは非常に高価であり,学校現場では予算的に購入が難しい場合が多い。

 このようにコンピュータ計測は困難な状況であるが,MS-DOS環境のときのように手軽で,しかも数千円程度でできる安価なものとして,パソコンのRS-232C端子(シリアルポート)を利用したA-D変換器を文献5)の回路図をもとに製作した。また,Visual Basicで2つの計測ソフトを自作したので紹介したい。

2.A-D変換器と計測ソフトについて


 製作したA-D変換器が図1で,回路図が図2である。使用したA-DコンバータAD0834の特徴は8ビット逐次変換型であり,シングルエンド(グラウンド共用)で4チャンネル,差動入力で使用すると2チャンネルの利用ができる。差動入力の場合,極性が反対でも測定できるので,交流の2チャンネル独立計測が可能である。製作したものは直流,交流ともに2つの信号を独立に測定できるように2チャンネル差動入力とした5)

 ソフトはWindowsAPI関数を利用して,シリアルポート信号を制御した5)。また,時間制御はTimer関数に比べ精度の高い GetTickCount関数を用いた。この場合,最小計測周期は1m秒である。CPUのクロックが1GHz程度の最近のパソコンであれば,1チャンネルで周期1m秒の計測が可能である。


        

図1 RS-232Cに接続するA-D変換器                     図2 RS-232Cに接続するA-D変換器の回路図 文献5)



3.コンピュータ計測の例


.1 光センサを利用した運動の解析


 図3のような「光電タイマー」に接続し,台車の運動を調べた。「光電タイマー」とは,等間隔に穴のあいた紙テープ(プリンタ用紙の端の部分など)を運動物体に付け,これをタイマーに設置した1組の光電スイッチ(光源と光センサ)の間に通し,運動を記録するものである6)。穴がセンサ部を通過してから,次の穴が通過するまでの時間を連続的に計測することで,物体の速度を求めることができる。光センサ部分の回路図は図4のようである7)。フォト・トランジスタTPS601に光が入射すると出力電圧が0V,テープにより遮られると5 Vになる。

 図5は25gのおもりに引かせた台車の運動での電圧の変化を計測したものである。計測周期は最小の1m秒としている。電圧Vから次の0Vの時間を計測し,テープの穴から穴への距離をその値で割ることにより速度が求まる。これをソフト的に処理したもの図6であり,最小2乗法でv-tグラフ,s-tグラフが描かれている。また,加速度,初速度の値も表示される。おもりを含めた台車全体の質量を変えずに,おもりの質量を2倍の50gと変化させて実験したものが図7である。加速度がほぼ2倍となり,運動の第2法則を検証することができた。ただし,計測周期の最小が1m秒なので,落下運動などの速度がすぐに大きくなる運動には工夫が必要である。

図3 光電タイマー


 
       図4 光電タイマーの回路図



    図5 光電タイマーの電圧の変化



図6 おもり25gの場合(加速度24.5cm/s



図7 おもり50gの場合(加速度48.0cm/s


.2 交流現象の計測

 A-D変換器で交流での電圧と電流の位相の差をみるために,図8のようなボードをアクリル板で作製した8)。抵抗,コンデンサー,コイルをスイッチで切り換えられるようにした。各素子の電圧をA-D変換器のチャンネル1で測定し,回路を流れる電流はそれらの素子と直列に抵抗をつなぎ,その抵抗の電圧をチャンネル2で測ることにより測定した。電源は低周波発信器を用いた。実行速度の関係で2つのチャンネルを同時計測する場合の最短計測周期は2m秒であり,50Hz以下の低周波の計測しかできないという制約がある。

 図9,図10,図11はそれぞれ抵抗(200Ω),コンデンサー(22μF),コイルの計測結果である。最大値の大きい方が電流Iであり,小さい方が電圧Vである。まず,抵抗の場合であるが,IとVの位相はほぼ等しいことがわかる。ただし,低周波で測定しているので,低周波発信器の特性上,波形に歪みがみられる。また,Visual Basicの実行速度の関係でIとVの計測に若干,時間的遅れが出ている。コンデンサーの場合は,Iをsin型とすると,理論どおりVはほぼ−cos型でありIの位相が90°進んでいることがわかる。また,コイルの場合は,Iをsin型とするとVはほぼcos型でありVの位相が90°進んでいることがわかる。

図8 位相計測用ボード


  

図9 抵抗の電圧と電流


        

10 コンデンサーの電圧と電流               


11 コイルの電圧と電流


 次に2つの過渡的現象の計測を行った。LC回路での電気振動の計測結果が図12である。使用したコンデンサーは22μ,コイルは1500回巻の鉄心入りコイルである。計測周期は5m秒で3秒間の計測を行った。周期0.3秒ほどの減衰振動がみられる。図13はコンデンサーの放電実験での電圧の変化である。使ったコンデンサーは22μF,抵抗は9.8kΩである。抵抗値の大きな抵抗を使用したので電圧の変化は遅く,1秒ほどで放電が終了している。


       

12 電気振動                       


13 コンデンサーの放電


4.おわりに


 RS-232C端子に接続するA-D変換器を用いて,コンピュータ計測を行った。このA-D変換器の利点は安価で手軽に製作できる点である。また,最小計測周期は1m秒〜2m秒程度で制約があるが,2チャンネルの信号が独立に計測でき,しかも直流と交流の両方の計測が可能であるので,MS-DOS時代のセンサ資産を生かした,いろいろな物理計測に利用できる。このような理由から,今までWindow環境でのパソコン計測から遠ざかっていた人に製作を勧めたい。なお,ここで作成したソフトは,筆者のホームページに掲載する予定である。9)


参考文献


1)     新潟県立教育センター研究双書33,物理分野におけるコンピュータ計測の実験と応用T,U,平成6年,7年

2)     笹川民雄,音の分析と合成,新潟物理教育第3号,1999

3)     江川直人,物理授業でのWindowsパソコンの利用を探る,新潟県高等学校教育研究会理科部会 理科研究集録第37号,1998

4)     三島誠人,マイク入力やライン入力を利用したコンピュータ計測,岡山県立教育センター高等学校理科指導資料,2001

5)     互野恭治,Visual Basicでエンジョイプログラミング,CQ出版,p.194-2001998

6)     笹川民雄,「光電タイマー」による運動の解析とその精度,新潟県高等学校教育研究会理科部会 理科研究集録第33号,1994

7)     山田盛夫,BASIC制御によるパソコン物理計測入門,共立出版,p.72

8)     笹川民雄,交流現象のコンピュータ計測,新潟県高等学校教育研究会理科部会 理科研究集録第32号,1993

9)     http://www.mars.dti.ne.jp/~stamio/