「音の分析」の使い方と利用例

 

1 はじめに

 Windows環境でのプログラム開発言語Visual Basic5.0を用いて作成したものです。現在のところ、このソフトは8ビット・モノラルまたは16ビット・ステレオ録音されたサンプリング周波数22,050HzのWAVEファイルに対応対応していますサンプリング定理により11,025Hz以下のフーリエ成分(倍音)の分析が可能です。

2 「音の分析」ソフトの使い方

 図1の「録音」ボタンを押し、Windows付属のサウンドレコーダを開き、録音する。録音する場合、内蔵マイクを使わず外部マイクをパソコンのマイク端子つなぎ録音すると細かいところまで音を記録できる。ここで録音した音は必ずWAVEファイルに保存しておく「読込」ボタンを押し、保存したWAVEファイル開くと全波形が最上段に表示される。図1は「あいうえお」の全波形である。「再生」ボタンにより、音をスピーカーから出力することができる。最上段で分析したい部分をマウスで左クリックするとその付近の拡大波形が中段に表示される。さらに、中段で一周期に相当する2点をマウスで左クリックし,「フーリエ変換」ボタンを押すと最下段に倍音構造が表示される。図1は「い」の倍音構造である。

図1 音の分析ソフト

図1のフーリエ変換のグラフからわかるように,「い」の場合,2倍音,15倍音,24倍音付近に共鳴域がみられ,それぞれ第1,第2,第3フォルマントと呼ばれている。母音の特徴はフォルマントの位置(各フォルマントの周波数の比)が母音ごとにはっきりと異なることである。

次に「倍音の合成」ボタンを押すと図2のフォームが開き,何倍音まで合成するかを水平スクロールバーで入力し,「倍音描画」ボタンを押すと合成波形が表示され,「再生」ボタンを押すとその波形の音が出力される。内蔵スピーカーでは300Hz以下の低音域が出にくいので外部スピーカーの使用を勧めたい。重ね合わせる倍音の数を増やしていくとしだいに元の音に近づくことが確認できる。「移動」ボタンは合成波形を元の波形と比較するためにフォームの移動するためのものである。ボタンを押すたびにフォームが上下に移動する。

図2 28倍音までの合成と再生


3 声紋の測定例

 フーリエ変換の棒グラフからでは1つの母音の分析しかできないが,母音ごとのフォルマントの位置や全波形のフーリエ成分の様子を連続してみるために声紋(サウンドスペクトログラム)を表示する機能を付け加えた。図1の「声紋」ボタンを押すとフォームが開き,「表示」ボタンで声紋グラフが表示される。声紋グラフを縦方向、横方向に拡大、縮小したい場合は「拡大」「縮小」ボタンをクリックする。ただし、拡大、縮小には限界がある。

この声紋機能により,ヒトの音声や各種楽器の楽音などについて,その特徴の詳細な分析ができる。

(1) ヒトの発声音

図4は男性の「あいうえお」の声紋である。色の濃い周波数成分ほど強く含まれることを表す。母音によりフォルマントの位置がはっきりと違っている様子が一目瞭然にわかる。のどの声帯で作られた音源が,舌の位置や口の開き方の違いにより,口腔内で共鳴を起こし,特定の周波数成分が強調されたり,抑制されたりするのである。それによってフォルマントが生ずる。各母音にはいくつかのフォルマントがあり,低周波数のものから,それぞれ第1フォルマントF1,第2フォルマントF2,第3フォルマントF3と呼ばれている。図4の場合,各母音のフォルマントの周波数は図の下にある表のようである。

 図5は女性の「あいうえお」の声紋である。声紋のパターンは男性の場合とよく似ている。各音のフォルマントの周波数は図の下にある表のようである。

      図4 「あいうえお」(男性)

     図5 「あいうえお」(女性) 

     図6 「おはようございます」(男性) 

 女性の場合,基本周波数は男性の約2倍であるが,各母音のフォルマントの周波数は男性より高くなる傾向にあるが,それほど男性と変わらないことがわかる。フォルマントは口腔内の共鳴に関係するので,これは納得のいくことである。口腔の大きさは男女によってそう差はないからである。このことから推論すると子供の口腔の大きさは小さいのでフォルマントの位置は高周波数にずれることが予想される。

図6は男性の「おはようございます」である。ここでの特徴は0.3秒,0.8秒,1.21.4秒付近に,それぞれ「は」,「ざ」,「す」の子音の摩擦音が高周波数域に現れていることである。これらは母音と異なり倍音構造はなく,雑音に近い音であることがよくわかる。

(2) 管楽器の音

 吹奏楽部の協力で二、三の管楽器について吹き方を変えた場合,含まれる周波数成分がどのように変化するかを声紋で分析してみた。

        

 

            

 




図7 フルート強弱

図7はフルートである。吹き方が弱いと開管の理論通り,整数倍音が現れているが,強く吹くと2,4,6,8倍音と2倍音の整数倍の音のみが生ずる。この場合もオルガン管と同様,あたかも2倍音を基本音とした別な管楽器に変化したかのようである

図8はクラリネットである。口でくわえるリードの部分が節で閉管的特徴がでると予想される。実際,声紋をみてみると弱く吹いた場合は基本音,3,4倍音が,強く吹いた場合は基本音,3,5,7倍音が強く現れる。強く吹いた方がより完全な閉管に近い振る舞いをすることがわかる。

図8 クラリネット強弱

(3) 音階とクラシック音楽

 楽器の奏でる音楽の少し複雑な声紋の様子をみてみる。音楽の基本は音階であるが,図9はピアノの音階でハ長調の「ドレミファソラシド」である。はっきりと音階と周波数の関係が読みとれる。基本振動数で比較すると最初の「ド」の振動数は約250Hz,1オクターブ上の「ド」の振動数は約500Hzで2倍になっている。倍音成分では,「ラシド」の高音部で4〜5倍振動以上が弱まり,波形の変化が起こっていることがわかる。

 

      図9 ピアノ「ドレミファソラシド」

図10はフルートの名曲,ビゼーの組曲「アルルの女」より「メヌエット」である。750Hzから始まる主旋律のメロディー「シシラソラシドレシレシソレソレシ」(ハ長調の音階で)がはっきりとでている。このソフトでは録音した曲を「再生」ボタンで聞けるので何度でも確かめられる。

その他、ヴァイオリン、チェロなど弦楽器特有の高倍音における音の揺らぎ、演歌歌手のこぶしなども分析できた。

         図10 ビゼー「メヌエット」

4 おわりに

 A/D変換器など特別な機器を必要とせず,手軽にかつ、詳細に音の分析・合成の実験ができるので物理、生物の演示実験、課題研究,あるいは新課程の総合学習などに役立つものと考えている。また、小鳥のさえずりの文法分析など認知科学分野でも利用できる。

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参考文献

1)川田徹:Visual Basic4.0活用研究

I/O別冊 工学社

2)トランジスタ技術1996 vol.12

Windows時代のハードウェア制御

3)日本音響学会編:音のなんでも小事典

  講談社ブルーバックス

4)橋本尚:楽器の科学

講談社ブルーバックス

5)山田恒夫:英語リスニング科学的上達法 

  講談社ブルーバックス