SSU課題研究T特別講演
・SSU課題研究Tとは
SSU課題研究Tは,2年生理系のSSHクラスの生徒32名がテーマごとにグループに分かれ,大学の研究室での指導や校内での指導を受けながら,1年間で一つのテーマについて課題研究を完成させるという科目です。
大学での実験・実習に先立って,4月から各研究テーマの内容を大学の先生方からSSHクラス全員を対象にわかりすく講演していただきました。
第1回 平成16年4月14日
@「数学における「数え上げ」」
新潟大学工学部情報工学科 講師 小島秀雄
1.「数える」ことと「数え上げること」
2.「分割の問題」に現れる数
3.図形に関する数え上げ問題
4.オイラー関数
1,2,3,・・・と「数える」ことは易しいが,さいころ(正六面体)の展開図が何種類あるかなど見落としや重複なく全ての場合を「数え上げる」ことは難しい。数学における「数え上げの問題」は無数に存在する。
n個のものをk個に分ける方法を求める問題を「分割の問題」という。例えば,自然数nをいくつかの自然数の和に分解する方法の総数をnの「分割数」といい,p(n)で表す。また,自然数nをk個の自然数の和に分割する方法をqk(n)と表し,自然数n−kをk以下の自然数の和に分割する方法の個数をpk (n−k)と表す。このときqk(n)=pk
(n−k)は成り立つのだろうか?
n個の要素からなる集合をどれも空集合ではないk個の部分集合に分割する方法の総数を第2種スターリング数といい,S(n,k)で表す。例えば,S(4,2)=7である。一般に第2種スターリング数を求めることは大変であるが,実は微分・積分の知識を用いるとこの数の一般的性質を調べることができる。
nを2以上の自然数とする。このとき,1からn−1までの自然数のうち,nと互いに素となるものの個数をφ(n)で表す。ここで,1はnと互いに素であると考える。φは自然数nに自然数φ(n)を対応させる関数でオイラー関数と呼ばれる。このとき次の定理(オイラーの定理)が成り立つ。「nを3以上の自然数,aをnと互いに素な自然数とする。このときaのφ(n)乗をnで割った余りは1になる。」
このように「数え上げ」についていろいろ研究していくと,高校・大学の数学の分野が関係していることが実感できる。また,今までに誰にも知られていない定理を発見することも可能である。
A「水―アルコール混合液体の音速の測定と超音波の性質」(水の密度の秘密)
新潟大学理学部物理学科 教授 土屋良海
1.はじめに
2.固体,液体,気体(物質の状態変化)
3.液体テルル
4.液体の構造
5.温度を変えたときの水の構造変化
6.まとめ
水の密度は4℃で最大になる。水以外のほとんどの液体は温度を上げると密度は小さくなるだけである。水もアルコールを10パーセント以上混ぜると性質が変わり温度とともに密度が単調に小さくなる。他の液体で水のように温度を上げると密度が小さくなるものにテルル(融点450℃)がある。今までに10種ほどの水と同じ性質を示すテルルの化合物や合金が発見された。
一般に液体は状態としては固体に近く,温度を上げると自由に動き回る原子(分子)が増えるので原子間距離は広がっていき,体積が大きくなり密度が減少していくのにそれに反して,なぜ密度がある温度で最大になるのか?
液体テルルは融点以下でも過冷却液体となり実験可能であるが,融点付近(450℃)で体積が最小(密度最大)となるが,熱膨張率は過冷却温度域の356℃で極小となり,その温度で圧縮率と定圧モル比熱が極大となる。このことから356℃付近でテルル構造の変化が著しく変化するといえる。水についてもそれぞれの物理量は同じような変化をしているが,極値はまだ観測されていない。水の場合も温度変化とともに分子配置や配位数などの構造が変わり,その結果密度の最大が現れると考えられる。
液体の原子(分子)構造を調べるにはX線回折や中性子線回折がある。X線(中性子線)を液体に照射し,散乱されたX線(中性子線)の強度を観測する角度を変えながら測定する。固体ではある角度ごとに鋭いピークが観測される。これは結晶中では原子が規則正しく並んでいることを示す。これに対し,液体では連続的に振動しながらピークが減衰する。ピークはある程度原子が規則正しく並んでいることを示す。
液体の場合,この結果から中心から等距離にある球殻内の原子数が距離の関数(動径分布関数)として求められるだけである。動径分布関数からは原子と原子の間の距離(原子間距離)と中心に原子を置いたときまわりにある原子の数(配位数)がわかるだけです。水は水素原子と酸素原子からできているので1種類の原子からなる液体よりも複雑である。X線は原子中の電子で散乱されるので電子を多く持つ酸素原子についての情報を調べることができる。水素原子については中性子線を用いて調べる。
過冷却(0℃以下)の水について調べてみると,温度を下げていくと水の構造はアモルファス(非結晶)氷の構造に近づいていく。この氷の配列は1個の酸素原子を他分子の4個の水素原子が取り囲む構造(水素結合)となっている。この構造は大変すき間の多い構造である。氷が溶けると水素結合の70%くらいが壊れてすき間の多い構造も壊れる。これが水の方が密度の大きいという理由である。一方温度上げていくと,分子運動が激しくなり熱膨張が大きくなる。この二つの効果の競い合いによって,4℃で密度が最大になるのである。
第2回 平成16年4月21日
「生ゴミの堆肥中での微生物の動態解析」
新潟薬科大学薬学部 教授 高木正道
・本来,地球生態系は循環型社会であった。
35億年の進化の歴史に学ぶ
・現代では循環型社会が崩れている
農業・工業・生活において化石資源への依存が高すぎる
・応用微生物学者として何ができるか
微生物の力を借りて解決したい
・バイオマスの利用
バイオマスジャパン:国家プロジェクト
・その一つとして生ゴミの堆肥への利用を科学する
文部科学省からの研究費
「生ゴミ堆肥化における微生物の動態」
・新潟県生ゴミ処理研究会:現在約35社
小中学校の給食からの生ゴミの堆肥化と微生物(コロニーの形成)
・共進化モデルとしての昆虫と花の構造
共進化の分子モデルとしての蛋白質合成の場:リボゾーム
・リボゾームのRNAをコードする遺伝子の配列比較
PCRによる遺伝子の増幅と配列解析(遺伝子の増幅と配列解析)
・微生物の同定・系統分類と機能解析(配列から微生物の同定)
よりよい堆肥化プロセスの提案
第3回 平成16年4月28日
@「エンジンの製作と効率測定」
新潟大学工学部機械システム工学科 助教授 松原幸治
1.エンジンとは
2.エンジンの歴史
3.エンジンの利用
4.模型エンジン
・スターリングエンジンのしくみ
・ヘロンエンジンのしくみ
7.エンジン出力の測定法
8.課題
エンジンとは燃焼などによる熱エネルギーを力学的エネルギーに変換する機械である。エンジンの歴史は紀元前のヘロンのエンジンまでさかのぼることができる。その後18世紀後半にワットが蒸気機関(外燃式)を発明し,19世紀前半にスターリングがスターリングエンジン(内燃式)を発明した。また,19世紀後半に自動車などに現在多く使われている内燃式エンジンがオットー,ディーゼルらにより発明された。
スターリングエンジンの特徴は外燃式エンジンで燃料を選ばないことと,安全性が高く静粛性に優れていることである。そのしくみは加熱側を冷却側の温度差を利用して空気を膨張・収縮させ,それによりピストンが動き,それとともに空気の移動によりディスプレーサがピストンと反対向きに運動する。この両者の往復運動を回転運動として取り出すというものである。
ヘロンエンジンは水を加熱し蒸気を作り,その蒸気を管から外に噴射させることにより回転力を作り出すというものである。
エンジンの出力を測定するには軸出力(軸の仕事率)を測定すればよい。軸の半径をr,ベルトなど負荷への力をf,回転の角速度をωとすると,軸出力はfrω=Tωである。ここでTはトルク(力のモーメント)である。このことを利用したものにベルトなど摩擦負荷を利用した測定法や空気抵抗の負荷を利用した測定法(ファンブレーキによる方法)がある。また,他に小型発電機を回転させ発電出力を測定する方法もある。模型エンジンの場合,出力が小さいのでファンブレーキによる方法が適している。
今回の課題として模型エンジンを製作し,ファンブレーキによる出力測定を行う。また,小型発電機による出力電力(ジュール熱/秒)を放射温度計で測定する。
A「レーザ半導体を用いた光計測」
新潟大学工学部電気電子工学科 助教授 鈴木孝昌
1.光についての基礎知識
2.干渉計測
3.干渉計のしくみ
4.干渉計を使った計測例
5.まとめ
光は電磁波の一つで,可視光の波長領域は電磁波の中のわずかな領域である。また,自然光はいろいろな波長の光が乱雑な位相で混じっている。一方,レーザ光は単一の波長の光が同位相であり,可干渉(干渉しやすい性質)や指向性(集光しやすい性質)がその特徴である。
半導体レーザには光を発信するLD(レーザダイオード)と受信するPD(フォトダイオード)からなる。光を特徴づける量は振幅,波長,周期(周波数)3つであり,赤色レーザの波長は680nm,周波数は440THzである。光は電波とことなり,いかなるセンサを用いてもその波形を観測することはできない。ただ,明るいか暗いか(振幅が大きいか小さいか)が観測できるだけである。
干渉とは2つの波が重なり合い,強め合ったり弱め合ったりする現象である。強め合うと明るくなり,弱め合うと暗くなる。位相がαだけ異なる2つの光cos(x)とcos(x+α)を重ね合わせると2cos(α/2)cos(x+α/2)となり,振幅が2cos(α/2)となる。明るさは振幅の2乗なので2つの光を干渉させた場合,その明るさから経路差が半波長の以下の形状や変位の測定ができることになる。
干渉計はレーザ光を半透鏡(ハーフミラー)で2つに分け,一方を参照鏡に他方を測定物体にあてそれぞれの反射光を干渉させその明るさを光検出器で測定するものである。測定例として,正弦波の振動を測定物体に加えたときの計測例とダイヤモンドで研磨された磁気デバイスの表面形状を示す。
課題研究では,どうすればノイズを除去できるか,また,位相の値を検出するにはどうすればよいか,さらに,測定の精度はどの程度かを研究してもらう予定である。