デジタルビデオ画像による運動の分析



新潟南高等学校 笹川民雄



 デジタルビデオ画像をIEEE1394i.Link)でコンピュータに取り込みAVIファイルとし,これを用いて運動の分析を行う
ソフトを作成した。その活用事例とビデオ撮影および画像取り込み時の留意点について報告する。



1. はじめに

 パソコンのハード面の進化には目を見張るものがある。ノートパソコンでもCPUのクロックは1GHzほどになり,ハードディスクの容量は20GB以上になっている。このため,ビデオ映像の動画の再生においてコマ落ちの心配がなくなり,画像処理の速度も向上し,動画を利用したソフトを活用する環境が整ってきたといえる。また,文部科学省の「教育の情報化計画」によれば,2005年度までに教室にパソコンが2台設置され,いつでもインターネットにアクセスできるようになるという。これらのことを考えると,理科の授業において動画を利用した教材の活用がますます重要になるものと思われる。

 本稿ではデジタルビデオ画像を用いた運動の分析ソフトについて活用事例などを紹介し,あわせて活用上の留意点について報告する。



                      図1    「運動の分析」ソフト(斜方投射)


       図2  位置と時間の関係(斜方投射)



      図3 速度と時間の関係(斜方投射)



2.ビデオ画像の取り込みとソフトについて

 運動している物体をデジタルビデオで撮影し,その映像をインターフェースIEEE-1394(i.Link)を用いてパソコンに取り込み,AVIファイルとして保存する。この取り込みにはパソコン付属の「DVgate motion」(ソニー)や市販されている「Ulead VideoStudio」(Ulead)などのアプリケーションを用いた。

 運動の分析ソフトはVisual Basic 6.0で自作した。画像の再生,コマ送りなどはWindowsAPI関数を利用した1)。ビデオ再生画像はそのままでは加工できないので,それをビットマップファイルに変換し画像処理を行った。



3.ビデオ画像を利用した場合の利点

 物体の運動を調べる手段としては「記録タイマー」や,「光センサー」「超音波センサー」などを用いたコンピュータ計測があるが2),ビデオ画像を利用した場合の他にない特徴は,放物運動や単振り子などの2次元の運動や往復運動が分析できるということである。また,画像を直接目で見ながら調べられるので,運動の規則性を直感的に理解しやすいという利点がある。さらに教科書のストロボ写真にない動きがあり,また,コンピュータによる画像処理,データ処理ができるので解析にも時間がかからない。




4.ソフトの活用事例

(1)「運動の分析」ソフト

 図1が「運動の分析」ソフトの画面である。メニューの「ファイル」を選択し,AVIファイルを開く。ビデオ画像制御ボタンとして「コマ送り」,「コマ戻し」,「再生」,「一時停止」,「巻き戻し」がある。これらは通常のビデオの要領で操作できる。「コマ送り」ボタンを押した後「画像転送」ボタンを押し,左のビデオ画像をビットマップ画像に変換し右の画面に転送する。右の画面上で物体の位置をマウスでクリックし,○印を付ける。この操作を続けていく。このとき同時にクリックした点の水平(X軸),鉛直(Y軸)の物差しの位置に○印が現れる。また,クリックした点のX座標,Y座標が右下の2つのテキストボックスに表示される。これらの数値を使って運動の分析をしても良いが,「x,ytグラフ」,「v−tグラフ」のボタンを押すと自動的にそれぞれ図2,図3のような位置と時間のグラフ,速度と時間のグラフが得られる。ビデオ撮影するときに物体とともに長さのはっきりしたもの(物差しなど)を撮影しておけば,画面の物差しの一目盛りと実際の長さとの対応がつき,実際の速度や加速度が求まる。

 その他の例として,図4はおもりに引かれた台車の運動である。図5,図6はそれぞれその位置と時間,速度と時間のグラフである。これらのグラフから等加速度運動であることがわかる。



                                                                                                                    













  図4 「運動の分析」(おもりに引かれた台車)


 

          図5  位置と時間の関係(台車)



          図6 速度と時間の関係(台車)


(2)「流しカメラ」ソフト

 運動をより直感的にとらえるために,「流しカメラ」ソフトを作成した。図7がその画面である。メニューの「ファイル」によりAVIファイルを開き,左の画面下の“切り取り範囲領域”で切り取りたい範囲をマウスで2箇所指定して「切り取り画像の作成」ボタンを押すと右の画面に切り取られた画像が転送される。「コマ送り」ボタンを押しながらこれらの操作を繰り返すと流しカメラ写真的な画像が簡単にえられる。切り取る方向は垂直方向,水平方向から選択できる。この画像はいうまでもなく位置と時間のグラフを表している。

 図7はばね振り子の運動である。時間的に変位が正弦的に変化していることがよくわかる。また,図8はおもりに引かれた台車の運動であるが,この場合は切り取る方向を「水平方向」に指定していしている。このようにパソコンでの画像処理では通常の写真撮影に比べ,加工の自由度が増す。図8の車輪の軌跡から台車の進む距離と時間の関係が放物線的になることが直感的に把握できる。

 この「流しカメラ」ソフトは波動分野ではウェーブマシンを使った“波の重ね合わせ”や“波の反射(自由端反射,固定端反射)”の実験でも利用できそうである。



         図7  「流しカメラ」ソフト(ばね振り子)





  図8  「流しカメラ」ソフト(おもりにひかれた台車)



(3)   「合成」ソフト

 3つ目のソフトとして,「合成」ソフトを作成した。図9がその画面である。これはいわゆる通常のストロボ写真(多重露出写真)に相当するものである。メニューの「ファイル」でAVIファイルを開き,「コマ送り」ボタンを押し,続いて「画像合成」ボタンを押す。これを繰り返すことにより順次画像が重ねられていく。なお,物体が背景に比べ明るい(白い)場合は「合成方法の選択」で白優先ボタンを,逆の場合は黒優先ボタンを選択する。「合成」ソフトを利用する際にはビデオ撮影時,物体と背景との明暗の差がはっきりするようにそれぞれの色を設定する必要がある。

 運動が解析できるように,合成画像上にマウスポインタを置くとの右下にその座標x,yが,また,ドラッグすると変位Δx,Δyが表示される。画像合成は1ドット毎に新旧2枚のビットマップ画像の明暗を比較演算するので,実行にやや時間がかかる。速いマシンでの実行をすすめる。例として,図9は単振り子,図10は斜方投射である。



               図9    「合成ソフト」(単振り子)





           図10  「合成」ソフト(斜方投射)




5. 撮影および取り込み時の留意点

 デジタルビデオの録画方式には「インタレース方式」と「プログレッシブ方式」の2種類がある。前者は1/60秒毎に偶数線と奇数線をCCDから取り込み,それらを合成して1/30秒毎の画像を作り出す方式である。この方式で撮影すると図11のように運動物体が2重画像になるので,運動の分析には注意が必要である。それに対して後者は1/30秒毎に1画面の情報をCCDから一度に取り込むので運動物体の画像はブレない。このような理由で「プログレッシブ方式」の録画モードを持つデジタルビデオの使用をすすめる。

 次にビデオ撮影時の留意点として以下のようなことがあげられる。まず,三脚を使用し,シャッタースピードをマニュアル設定にし,なるべく高速にする。例えば,落下運動など速度の大きい運動でも像が流れないようにするためには1/250秒以上が要求される。また,高速シャッターを使用したときには明るい場所で撮影しないと映像が暗くなるので注意が必要である。























図11  インタレースモードでの撮影


それから,オートフォーカス機能や手ブレ防止機能を解除する。これらの機能が働くと物体の運動とともにビデオと物体間の距離が変わるので,それに合わせてフォーカスが変化し,画面が微妙に揺れるような感じに録画されるからである。また,運動物体と背景との明暗(白黒)の差をつけると画像合成のときに困らない。

 最後にAVIファイルの形式についての留意点がある。ソニーのパソコンに付属する「Dvgate motion」で保存したとき,AVIファイルは自動的にDV形式に保存されるので他社のパソコンでは再生できない。この場合は動画編集ソフト「Ulead VideoStudio」などで通常の形式に変換する必要がある。



6.おわりに

 デジタルビデオも普及し,ノートパソコンでもIEEE1394i.Link)端子が付属されるようになり,手軽に動画を扱える環境が整ってきた。授業に動画を取り入れてみてはどうでしょうか。

 ここに紹介したソフトは筆者のホームページURL http://www.mars.dti.ne.jp/~stamio/ からダウンロードできる。



参考文献

1)  互野恭治:Visual Basicでエンジョイプログラミング,CQ出版

2)  笹川民雄:高教研理科研究集録 33(1994) 1