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「クローン人間」のニュースを聞いて。

1997年3月5日 

 今日のニュースだったかでアメリカのクローン人間の研究に規制を加えるといったようなことを言っていた。そういえば、クローン羊やクローン牛、またクローン猿の実験が成功しているとも別 のニュースで聞いた。私はそれらについてまだ何も調べていないので、当然誤りもあるということを覚悟して敢えて感想を書いてみたい。  

 クローン人間に対して慎重になるべきという意見に異議を唱える気はない。しかし正直よくわからないのは、クローン人間を作れるようになるということは、ある農学者が例として挙げていたような「ヒットラーを複製できる」ことになるのかどうかである。確かにヒットラーと同じ遺伝子を持った人間は作れるのだろうが、だからと言ってひとりの人間としてのヒットラーを本当に作れるのだろうか。  

 クローン動物に関しては疑問は持たない。私は人間以外の動物は比較的忠実に遺伝子を受け継いで、それによる「行動の型」を守って生きているから、その見方に問題がないとは思わないがクローン動物は元の動物との間に決定的な違いを持たないと考えるのである。少なくとも人間が見る限りにおいてはクローン動物は元の動物と全く同じである。クローン羊やクローン牛を作ることに誰もヒットラーのような存在の出現を恐れず、畜産業などでの実用化を検討しているのもおそらくそのためだろう。  

 しかし、人間の場合どうだろうか。私はとても遺伝子を忠実に受け継いで、それによる「行動の型」を守って生きているとは思えないのである。岸田秀の言葉を借りれば、人間の本能は他の動物とは違って壊れているのである。だから、心配しなくてもユダヤ人の虐殺を先導したヒットラーの「行動の型」を受け継ぐクローン人間は作れないのではないか。たとえ忠実に遺伝情報をクローン人間に移植したとしても、その「行動の型」は再現されないのだから。人間はいいのか悪いのか生まれた後の環境に影響されて生きているから、元の人間と同じ生き方をさせない限り、クローン人間は元の人間と全く同じにはならないのではないか。もっとも第二次大戦時のヒットラーそのものがいきなり作れるというのなら話は別 である。私の考えはあくまでクローン人間が普通の人間と同じように母親の胎内を経て生まれてくればの話である。    

 どの程度遺伝情報がひとりの人間の人格に影響を持っているのか、どのようにクローン人間は生まれてくるのか、現在私のクローン人間の議論に対する疑問はこの2点である。そういえば、一流芸術家やスポーツ選手が2代に渡って才能を発揮するのかどうかについてもよくわからない。そんなことも知らないで文章を書くなと言われれば、ただただ平謝りするしかない。

 それでも私はヒットラーのクローン人間を複製できようができまいが、その影響を心配する前に「洗脳」や環境操作によってヒットラーと同じ「行動の型」を持たせることもできるという現状を考えたほうが良いと思っている。だから私自身はクローン人間の未来よりもむしろ「洗脳」の現状のほうに興味があるというのが本音だ。

(1997年4月29日加筆・修正)


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