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(1996年度秋学期開講 陸の生態系 課題レポートより)

課題

日本あるいは近隣諸国で現在起こっている環境問題(人間の活動が原因となって、現在あるいは近未来の人間の肉体的・精神的な生活環境を悪化させると予想されることがら)のひとつをとりあげ、その問題の実態とそれが起きている理由あるいはメカニズムを生態学的な観点から2000字程度にまとめよ。解決法の提案ができればより望ましい。

 

「産業廃棄物処理問題の生態学的考察」

5217 生島 卓也

 人間の活動が原因となって、人間の生活環境を悪化させると考えられることが らとして、ゴミ処理問題、中でも産業廃棄物処理問題を挙げ、考察する。

問題の実態

問題のメカニズム

問題の解決法


問題の実態

 工場などの事業活動によって排出される産業廃棄物は年々増え、どのように処 分するかという問題は年々深刻化している。1990年度の産業廃棄物の排出量は3 億9473万トンで、家庭のゴミの約7倍となっている。その量は1985年と比べ8300 万トン増加している。内訳は、汚泥(43.1%)、家畜糞尿(19.8%)、建設廃材 (13.9%)、鉱さい(10.8%)で、特に建設廃材や汚泥は急増している。産業廃 棄物処理法(1970年)では、燃え殻、汚泥、廃酸、廃アルカリ、鉱さい、煤塵な ど19種類について、工場や事業所による処分方法を規制している。

 しかし実際には最 終処分場のスペースが限界状況に達しつつあり、現実の状況に十分に対処できているとは言いがたい。厚生省の調査によると、産業廃 棄物の最終処分場は1991年4月の時点で、すでに1.7年後に満杯になり、少なくと も93年度末には満杯になると試算している。また、1992年の産業廃棄物処理促進 法によって規制が強められているものの、不法投棄も年々増加している。さらに 産業廃棄物処理場から出される煙などからも有害物質が検出されており、ゴミ焼 却施設の焼却灰や集じん灰から検出されるダイオキシンも問題になっている。産 業廃棄物の増加傾向も現在のところ続くと予想されており、事態はま すます深刻になると考えられる。人間の生活環境は我々が処理されないゴミによ って埋もれること、有害物質の流出などによって著しく悪化すると考えられるのであ る。


問題のメカニズム

 この問題の根本にあると考えられるのは、人間が作ったものが今まで自然にあ ったもの、生み出されてきたものと大きく異なるということである。自然界で は、廃棄物は連鎖の中で循環しているが、人間が作ったものによって生み出され る廃棄物は、そのままでは循環することはないのである。循環させるためには人 間が補完的に処理場を作るなりして循環できるレベルまで廃棄物を分解すること が必要であるが、特に最近ではすべての廃棄物を分解できているわけではない。  

 もう少し詳しく考えると、自然界ではほとんどの廃棄物が腐食連鎖によって循 環している。生産者、第1次消費者、第2次生産者、第3次消費者によって行わ れる生食連鎖は土壌に廃棄物を残すが、植物や動物の死骸などの有機的な廃棄物 は分解者によってCO2、H2O、NH3などの無機質に分解され、再び生産者に返され る。そこでまた、分解された廃棄物は生産者の栄養となって生食連鎖の中に組み 入れられるのである。この食物連鎖と呼ばれるシステムによって廃棄物は実際に は最初の廃棄物としての形を残さないのである。  

 しかし、人間によって生み出される廃棄物、特に産業廃棄物の場合は必ずしも そうではない。人間の出す廃棄物には分解者が分解しきれないものが多いのであ る。先に挙げたような汚泥、廃酸、廃アルカリなど人工物から出てくる有機的な 廃棄物はどういうわけかそのままの状態では分解者によって分解されない。その 詳しいメカニズムと理由は資料を集められなかったため、ここで述べることはで きないが、私なりにその理由を考えてみる。  

 私は汚泥、廃酸、廃アルカリ、ダイオキシンのような人間の様々な合成に よって作られた、今までの自然界になかった有機物は、急激な環境変化への適応 能力に欠けている生態系の中に組み入れられなかったからだと考える。また人間 の出す有機物量は、自然界の生産量から考えても、異常に多いからだとも考えら れる。自然界の有機物は生産者、第1次消費者、第2次生産者、第3次消費者の 順に多く、この順は現存量において逆転することはあっても、生産量において逆 転することはない。しかし、第3次消費者に属すると考えられる人間の出す廃棄 物は現在人間そのものよりも多くなっており、生産量の逆転が起こっていると考えられる。人間によって生み出 された廃棄物、有機物量は少なくとも今までの自然界にあった姿とは違うのである。  

 ここで人間は自分達が快適に暮らしていくために、自分達の力で補完的に有機 物を分解するか、分解可能な有機物にするシステムを作らざるを得ないのである が、それも必ずしも十分ではない。1995年にも三田市の産業廃棄物処理場から出さ れる煙によって、体の不調を訴えた人がいたように、処理場ですら分解可能な有 機物や無機物にはできていないのである。


問題の解決法  

 この問題の解決法は人間の有機物処理能力にかかっていると考えられる。自然 界に人間の出す廃棄物に対する適応は望めそうにない。人間がこれからも有機物を分解する補完システムをなんとか作っていく必要があるのである。

 ただ、現在増え続ける有機物を 処理し切れていないことを考えると、処理場を作るという補完方法だけでは足り ないと考える。必要なのは、人間の作る有機物そのものに対する見直しと、有機 物量のコントロールである。それらは当然自然科学の力によるところが大きいと 考えられるが、それに加えて大量の産業廃棄物を出していることの一端を担って いる我々の生活を自然界のシステムと照らし合わせてみることも大きな意味を持 つと考える。我々は人工物が我々の生活のために必要なものであるのかを常 に見極めていくべきではないか。

(1997年3月31日 加筆・修正)

 


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