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(1996年春学期開講 文化人類学テスト原稿より)

日本人のアジア観

5217 生島卓也

はじめに

内部と外部、スケープゴートをキーワードに日本人のアジア観を考えたい。日本人はアジアを自分達の属する同じグループ、内部に感じていながらも実際には自分達とは違うグループ、外部だと捉えている、またスケープゴートにもしているということを述べたい。

 ここで述べようとすることは日本人の特殊性を強調しようとするものではなく、それが特殊であるか普遍であるかを問おうとするものでもなく、日本人の「型」に見られる性質をただ観察しようとするものである。

 まずそもそもアジアとは何であるのか、どの範囲を指すのかということを明らかにする必要がある。一般 にアジアとは国のひとつ上にある分類の仕方による帰属集団であると考えられるが、ここでは日本が歴史的に何らかのかかわりを持ってきた近隣諸国、主に韓国、中国、東南アジア諸国をアジアと想定する。

 日本人のアジアに対する態度が表れていると思われる太平洋戦争時と現在に近い状況として日本企業の行動を取り上げる。

1 太平洋戦争時の日本人の態度

 当時の日本のアジアへの侵攻、侵略は西欧近代の植民地思想と共通 していると言える。自分達の利益のためにWe Groupに他者を強引に取り込んでいくことによって広げていく思想である。確かに当時の日本は国内の資源不足をアジアに求めて侵攻し、自分達のグループを広げようとしたのであるが、西欧近代の思想とは異なる点がある。それは「大東亜共栄圏」という言葉を当時の日本人が使っていたということである。自分達のやっていることはアジアの発展のためであり、西欧の侵略からアジアを守ることであるという主張があった。その主張と実際にアジアで日本人のしていたことの違いに日本のアジア観がはっきり表れている。つまり、西欧の植民地思想が全く自分達とは違う他者を侵略しているという感覚を持っていたと考えられるのに対して、日本人は一見アジアを一体のものと捉えていながらも、結局アジアを自分達の外に出し、スケープゴートにしているのである。当時の日本人の根底にあった思想とは「大東亜共栄圏」ではなく、むしろ「脱亜入欧」であったのではないだろうか。

2 現在の日本企業が見せる態度

 現在の日本企業のアジア進出の理由にはよくアジア全体の経済の発展に貢献するということが掲げられている。アジアと「共存」していくという思想と言えるだろう。しかし、実際には日本企業がアジアに進出しているのはただ安い社会資本、安い賃金にあると言えるのではないか。例えば、かつて韓国には多くの日本企業が進出していたが、韓国が経済発展し、賃金が上がるにつれて進出する企業が激減している。

日本企業にしてもアジアを建前上内部とおくことはあっても、決して内部においてはいないのである。

おわりに

 以上のように太平洋戦争時の日本人のアジア観と現在のアジア観はアジアを自分達のグループの外に出すという点で根本的には変わっていない、むしろ一貫していると言えるのではないだろうか。日本人はアジアという言葉を使って「共存」を訴えながらもアジアを決して内部とは考えていないと言えるのである。その根底に流れるのはアジアを結局のところスケープゴートにしてしまう精神性、島の外にいる他者との相互関係を作ることに不器用な幼児性、自己中心性にあるのではないかと考える。ただ、その点を明らかにするにはここでは足りない。様々な角度からの考察、そのときに使う「虫眼鏡」も対象に入れた考察が必要であろう。

(1997年4月10日 加筆・修正)


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