会場に入れるようになるのは午後1時、その30分前にワセオケの責任者集合が行われ、ステージからはステマネとサブステが参加する。当日の流れを確認するのだが、この時受付マネージャーからチケットの最終動員率が報告される、後に述べるがこれがステージにとって結構重要なのである。12時45分、ステージ全員と、1年生を中心とする運搬係(その名の通りティンパニー等の楽器やイス等をステージと一緒に運んでもらう係)の集合がある。この時ステージはみなスーツを着込んでいる。神聖なる舞台には正装して入らなくてはならないのだ。この原則を守るのはステージだけでよいが、コートを着たまま舞台に入ることはいくら寒くても許されないというのがワセオケの伝統である。
さて会場がオープンするとただちに舞台のセッティングに入る。 開演は夜7時からだが、2時40分に始まる団員集合までにはセッティングを終わらせなければならない。なんだ1時間40分もあると思われるかもしれないが実はそうでもないのである。セッティングは舞台の山台を作るところから始めなくてはいけない。奈落から山台を運んでくるのは大人数でも大変なものだ。山台を作り終えるとティンパニー、ピアノやチェレスタ、ハープ等の大型楽器とイス、譜面台を舞台に出してセットしていく。
さてステージの仕事で最も重要なのがこのセッテイングである。団員が快く演奏出来る舞台、つまり狭くなく、全員がコンサートマスター(今年はコンサートミストレス)、各自の首席と指揮者を観ることが出来、また譜面台が見やすい、「究極のセッテイング」というものを作るのである。ところで新宿文化センターのように広い舞台を持つホールであればいいのだが、大隈講堂のように狭いホールでは「究極のセッテイング」ところではなく、いかにしてオーケストラを舞台に詰み込むか悩まされる。ワールドツアーに行ったワセオケ、ステージに伝わる格言がある、即ち「大隈を制する者は世界を制する」と。つまり大隈講堂にオケを入れることが出来るなら、世界中どんなホールでもセッティング出来るということだ。
あっという間に2時40分。団員集合が行われる。団員はみな客席に座っている。ここでステマネが団員に演奏会でのパートの入場順等の確認をする。そして恒例のステージ紹介というものが行われる。これは本番中なにかあった時などのためステージの顔を覚えてもらうのが目的なのだが、そのためか”笑い”をとることが多いのである。この前は紹介のため舞台に入場する祭に、ステージは全員手をつないで出たのである。前述したがステージはみな男である。さらに言えば”覚えやすい”という目的のためステージの人選基準には”むさい”という項目があると噂されるほどで、それが手をつなぐというのはさぞ異様な光景だっただろう。
団員集合が終わるとすぐにステージリハーサル(ステリハ)が開始される。この間曲に乗っていないステージは舞台を見てセッティングに問題がないか確認しなくてはならない。ステリハが終わるのは5時頃。この後アナウンスや花束係の練習がある。この後も、究極のセッティング目指して微調整が続く。舞台上に不要なものがないか確認をして6時半開場。ここからは失敗は許されない、本当の仕事が始まる。本番である。
さて開演が迫っている。受付の方からは入場者が随時知らせてくる。この情報によってステマネが開演時間を最終決定しなくてはならない。無論7時が定時なのだが、入場者数があまりに少なかったり、反対にまだ会場の外に行列があったりすると、5分ほど開演を遅らせたりする。これはステマネが最終的な開演時刻の5分前に1ベルを出すことで全団員に知らされる。このあたりで最初のプログラムに乗っている人に舞台袖まで来て待機してもらう。開演直前。一瞬たりとも気の抜けない時である。出演する全員が舞台袖に来ているか何度も確認する。パート毎、入場順に並んでもらう。
団員に入場してもらう。最後に一人コンミスが入ってチューニングが始まる。この時にステマネ(ステマネが曲に乗っている時はサブステが、サブステも乗っていたら乗っていないステージが)指揮者を舞台袖まで呼びに行く。きわめて高いテンションにある指揮者と接する時は、こちらも大変緊張する。 「お願い致します」と指揮者を舞台へ送り出す。開演である。
とりあえずここまで。続きは2月下旬に載せる予定です。
管楽器、打楽器が乗っているひな壇のこと。N響ではコントラバスもこれに乗る。サントリーホールやウィーンのムジークフェラインでは舞台全体にこれがある。ホールによっては自動で山台が出てくるところもある。 戻る
山台やイスその他の舞台装置がしまってある舞台の下にある地下室のこと。舞台へエレベータのようにせり出す装置がついていることが多く、これは演劇等の演出で舞台に下から現れることに使われることもある。 戻る
今年ワセオケでは5月のスプリングコンサート(スプコン)、9月の秋期演奏会(秋演)で使わせてもらいました。5月のプログラムにはレスピーギのローマの松が含まれていて(つまりピアノ、ハープ3台、チェレスタ、バンダ、オルガン替えの金管と大編成な曲なので)セッティングが大変でした。 戻る
アナウンスの練習の目的は主に音の大きさを調整するためである。花束は演奏終了時に指揮者とコンミスにさし上げるもので、練習というのは花束係の入場経路の確認をするのである。なお、この練習の時指揮者とコンミスの替わりを務めるのはサブステかステージの仕事であり、男所帯のステージにとって女性である花束係(しかも美人を集めているとの評判である)から練習とはいえ花束をもらうのは、緊張尽くめの一日になくてはならない休息の時なのである。
(C)1997 Yoshida Taishi