彼女のひとりごと:冒険編


雨傘の中、あのときの自分が駆けだした
いつも笑顔の彼女だけど
今日はちょっと複雑な気分・・・


私、雨って好きよ!」
 彼女はそう言って、雨傘を手に雨降る町を歩き出した
 雨音は、すれ違う人々の声を曇らせ、雨傘の中だけが自分の世界になるから
 それに・・・

 彼女の前を、一人の少女が駆け出す
 彼女は想う、あのときの私のようだわ
 
 ひそかに降り出した通り雨の中
 あなたはわたしの名を呼び、そっと雨傘さしてくれた
「だいじょうぶよ、これくらい!」
 いつものわたしなら、きっとこう言ったけれど
 この時なぜか素直になった、あなたの笑顔に負けたから?

 向こうから近づく見覚えのある雨傘
 一つの雨傘の中、金髪のあのことあなたは歩く
 あのときの私のように

 いつもなら、元気に挨拶するけれど
 歩く速度はゆるまるばかり
 いつもバーケットにつき会ってくれるあの人
 でも、こんな気分を感じるようになったのは
 一つの雨傘のなか、あなたの腕の暖かさ感じたから?

 自分の雨傘で表情を隠す彼女、なぜ隠すのか彼女にも分からない
 見覚えのあるあの雨傘が近づくと、彼女は締め付けられる心にとまどった
 あの雨傘がすれ違うまで、心の中でカウントダウン

 よん・・さん・・にい・・いち・・・

 すれ違う瞬間、彼女は息を止め立ち止まる
 雨傘は、それに気づかず遠ざかっていく、金髪のあのこと二人で

 彼女はすーと息を吸い、湿った空気で心を冷やした
 彼女が初めて、ささやかな恋の冒険をした瞬間だった


彼女と一緒の雨傘の中、あなたはどんな冒険を夢見ますか?

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