彼女のひとりごと:ルージュ編


一人きりのカフェテラス
ロシアンティーのほろ苦さ
彼女は一人、あの人を思い出す




「私はね、私のために綺麗なのよ」
 一人きりのカフェテラス、小さな声で彼女はそうつぶやく
 つぶやく彼女の唇にひかれた真っ赤なルージュは、彼女の強い意志をあらわしているようだった
 テーブルの上に置かれたティーカップ、紅茶の湯気が晴れ渡る自由な空に帰っていく 
 彼女は、その紅茶にジャムを溶かし、甘さ、ほろ苦さに少し顔をしかめた
 
 いつもひとり、ひとりぼっち
 でも、それは彼女の選んだこと、誰にも干渉されない、誰にも関わらない
 彼女はそうやって、変わっていく自分にブレーキをかけていた
 変わらない自分、それは思いをとげられないあの人のため?
 彼女ですら、その明確な答えを持たなかった

 彼女は、隣の席に座る見知らぬ男に声をかける
「ねえ、たばこ持ってない?」
 男はジャケットからジタンを取り出す
 彼女が一本手に取ると、男はなれた手つきで火を付ける
「ありがとう」
 彼女は、そう言ったきりその男の方を見なかった
 男は彼女の前に座り、一言、誘いの言葉をはく
 彼女は表情を変えないままこう答える
「じゃまよ」
 男はその一言を聞くと、静かに席を立っていった

 たばこの煙が空に帰っていく
 それを遠いまなざしで見つめ彼女、きっと同じ空の下にいるあの人を想っている
 やわらかな風が彼女を包む、座る彼女のスカートがワルツを踊る
 彼女は、かすかに聞こえるヴァイオリンの音色につま先でリズムをとった
 どんどんその色を赤くしていく陽の光に、彼女は一人、心でダンスを踊る
 ダンスの相手は、きっと・・・あの人
 想いをとげられない恋に、またため息をつく

 とおくから金髪のあのこがやってくる
 彼女の前に座ると、少し息を切らした声でこう言った
「ごめんねエルツ、遅くなっちゃって」
「エルツ・・・泣いてるの?」
「ううん、違うの・・・たばこの煙が目に・・・しみただけよ」
 ノイシュは、エルツのその強い意志で作られた美しい横顔を見て、訳もなくため息をついた
 人の少なくなったカフェテラス、二人のため息が、暮れかかる空に帰っていった
 秋の終わりの、ある午後の出来事だった



こんな雰囲気の彼女たち、あなたならどう声をかけますか?

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