彼女のひとりごと:渡せないセーター編
poto:garland
毎年編む彼のためのセーター
でもいつも渡せず自分に着せている彼女
でも今年は必ず・・・
だって、あの雪にお願いしたから
「今年は渡せるかしら」
彼女は一人、ため息混じりにセーターを編む
きっと今年こそ、いつもそう心に誓っているのに
去年も彼女は、編んだセーターを自分に着せていた
自分のつむぐ物語では、降誕祭の夜
彼女はいつも、勇気を振り絞ってあの人に渡しているのに
現実はいつも渡せないまま
シナリオどうりに行かない自分に、彼女はまたため息を付く
深く、そして、せつなく
彼女は想う、今年の降誕祭には雪が降るかしら
そしたらあの人と、雪の街を歩きたい
そしたらあの人と・・・ それが彼女の素直な想い
でも、彼女の想いは、雪のようにふりつもるばかり
音も無く、ただひっそりと
片思いを知り、そしてそれに慣れてしまった彼女
彼女は、そんな自分自身を嫌っていた
あのもの語りの、あの姫のように
あの本の、おてんばな少女のように
彼女はページをめくり、いつも本当の自分自身から逃れ
本の中のあの子になっている
あの眠り姫のように、100年のまどろみを私に与えてくれたら
あの人は、迎えに来てくれるかしら?
心に綴る彼女の物語、彼女はそんなことを思いながら毛糸をたどる
編む手を止め、窓を見る
曇った窓ガラスを拭き、窓の外をのぞく彼女
「わぁ、雪だわ」
久しぶりに見る雪に、彼女は思わず声を上げた
彼女は、静かに窓を開ける
雪は窓からの光を受け、ひらひら回転しながら白く輝き
そして、闇に消えていく
彼女はひととき、その雪を見ていた
「あの、一つ一つが私の想いみたいね」
寒さを忘れ、そんなことを想う彼女
出来ることなら、ずっと輝いていたいの
でもそれがだめなら、降誕祭の夜、あの人の前では輝かせて
彼女は、そっと目をつぶり、雪に願った
雪は黙ったまま、彼女の前を通り過ぎる
音もなく、ひとときの輝きを残しながら
「さっ、がんばんなくっちゃ!」
そう言いながら窓を閉め、彼女は彼のためのセーターを編み始めた
今年はあの人に渡せる
きっと、あの雪に願った想いはかなうはずだから
彼女の顔に笑顔が開く、彼女の指に優しさがともる
「もう一回、シナリオを作り直さなくちゃね」
そんなことを口ずさみながら、優しく毛糸をたどる
外は雪、彼女のささやかな歌声が部屋にみちた
彼女の想いは、編まれていくセーターに綴られる
この雪を降らすせいれいたちよ
どうか、ささやかな幸せを彼女に
降誕祭を前にした
ひそやかな雪の降る
ある夜の出来事だった
雪の降る夜、あなたは誰の幸せを祈りますか?