彼女のひとりごと:紙飛行機にのせて編



                        photo:garland


 彼女が待つ人は、遙か海を渡ったあの大陸
 彼のいない誕生日、ノイシュは紙飛行機に想いを託す
きっとこの想いあの人のとどくから

 「あ、いけない、いつの間にか寝ちゃったのね」
 彼女は机からゆっくりと体を起こし そして、目の前のランプを見つめた
 今まで見ていた夢をもう一回思い出して見たかったから
 その夢にはあの人が微笑んで私の前に現れてくれたから
 腕には大きなバラの花束を抱えて

 時計を見ると午前一時
 彼女がささやかな眠りに落ちている間に
 日は一日先に進んでいた
 今日は彼女の誕生日、そして降誕祭

 友達とのパーティーから帰った後
 彼女はいつものように手紙を書いていた
 机に向かい、想いをそのまま便せんに綴る
 いつでも、その想い途切れることなく

 でも、彼女のその手紙は一度も出されることがなかった
 きっとその手紙に書かれた彼女の想いは
 彼に見せたくない彼女の甘え
 不意に心を襲う彼女の悲しみ

 手紙を書いては机の中にしまい込む
 悲しいときになぜ泣けないの
 それは、彼女の寂しさをはらんだ瞳を見た 友達の言葉

 彼女はそんな思いも便せんに挟み込み
 机にしまい込んでいる
 涙で滲んだその手紙も
 募る寂しさに耐えかねて破いてしまったその手紙も

 ちぎっては、苦手なジグソーパズルを解く彼女
 パズルの得意なあの人を思い出す

 窓を見ると
 さっきまで月明かりで照らされていたカーテンには
 その面影が無く、ランプの光のみ残している
 きっと眠っている間に月は隠れてしまったのだろう

 カーテンを開け、曇った窓を手で拭く
 外には大粒の雪が蝶のように舞っていた
 彼女は窓を開け、遠く離れたあの人を想う

 すーっと外の空気を吸い込み
 寂しさに押しつぶされそうな胸を
 刺すような冷たさの空気で満たした

 ゆっくりその吐息を空に返す
 それと一緒に、抱えていた 押しつぶされそうな想いも、空に返した気がした
「私はここにいて、あなたはそこにいる」 
 たったそれだけのこと、たったそれだけの
 そう思うと、ゆっくりと心が晴れていくようだった

 そして彼女は、このひととき、あの人の言葉を聞いた
 「大丈夫、やっていけるよ」

 彼女は机の上の書きかけの手紙を手に取る
 彼女はその手紙で紙飛行機を折った 窓に向かい、その飛行機を手に雪に祈る
 この想いを切符にして
 あなたの元にとどきますように

 彼女は窓からその紙飛行機を
 緩やかに雪の舞う、その空に放つ
 飛行機は闇に消え、そしてあの人の元に
 届けこの想い、あの飛行機に乗せて

 飛行機が闇に消えると、彼女はゆっくり窓を閉めた
 部屋はその暖かさを取り戻し 彼女を優しく包み込む
 机に向かい彼女はまた手紙を書く
 勇気を与えてくれたあの人に 
 優しさを教えてくれたあの人に

 外は雪
 降誕祭の夜、静かに、静かに、降り積もる
 長い夜、永い夜
 彼女の持つペンは優しい線を描いた

 外は雪
 そして冷たい夜
 
 あの人の声がまた彼女を包んだ
 
 朝がくるまで
 彼女の夢がさめるまで


あなたの折る紙飛行機、それはどんな想いを乗せて飛びますか?


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