玉山

ワンゲル有志台湾の山に登る


 この企画は、昨年(平成14年)の正月に、関東地区新春ハイキングで丹沢大山に登った折に、9期の吉本さんの奥さんの友人である鈴木さん(大阪女子大ワンゲル)が、台湾の山岳協会にコネがあるので、秋に玉山に登りませんか、と言うのが始まりだったと思います。それからどういう風に話が進んだのかは知りませんでしたが、今年(平成15年)の3月に、4期の漆戸さんから5月に玉山(新高山)に行きませんかと誘われた訳です。こういうことが出来るのも、元気で歩けるうちと思い、仲間に入りました。
ところが、5月に入って、香港で発生したSARSが中国周辺で猛威をふるう様になり、台湾行きも一時中断やむなしの状態となりました。夏になってようやくSARSが沈静化しましたので、9月に入って再度チャレンジしようということで、今回実現のはこびとなりました。
 実行計画は次のとおり。
 日程 10月24日  午後 成田 発   夕刻 台北 着   台北 泊
    10月25日  台北からチャーターバスで阿里山へ移動  阿里山泊
    10月26日  阿里山から登山口をへて排雲山荘へ    排雲山荘泊
    10月27日  排雲山荘発  玉山登頂  排雲山荘着  排雲山荘泊
    10月28日  下山   登山口よりバスで台北へ移動  台北 泊
    10月29日  午後 台北 発    夜 成田 着
 参加者  鈴木啓子   本件の発案者  大阪女子大ワンゲル
      漆戸啓二   ワンゲル  4期
      小松崎幸代子 ワンゲル  13期
      大寄浩志   ワンゲル  25期
      山本理雄   ワンゲル  3期
      郡成好    日本山岳会会員 小松崎さんの知り合い 最年長
 費用見積もり(一人当たり概算)
     山岳ガイド料           4000元
     バスチャーター料、運転手費用   5000元
     入山料、山岳保険、        1000元
     山小屋2泊、阿里山宿泊料     2000元
     食事料(弁当2食、昼1食)    1000元
     台北ホテル代 2泊        5000元
     その他雑費            2000元
     航空運賃 成田 台北 往復   40000円
 それで、現地の気候等の情報はいろいろの事情であまりはっきりしませんでしたので、とりあえず現地についてからという事で、いよいよ出発の日を迎えました。

 10月25日(土) いよいよ登山基地である阿里山への移動です。阿里山は台湾中部の山岳リゾートです。迎えのチャーターの中型バス(20人乗り)で一路阿里山へ出発です。運転手は曽さんと言う、見たところ30代半ばの大柄な青年でなかなか頼もしそうです。4日にわたって世話になる訳です。8時過ぎにホテルを出発し、高速道路を南へおよそ4時間で嘉義へ到着する。途中コンビニで缶ビールを買う、35元也。昼食は中信大飯店で台湾料理を食べる。味付けは比較的あっさりで、油もそれほどでもなく、日本人にも食べやすい。嘉義から阿里山へは阿里山公路を行く。高速道路の景色と異なり、亜熱帯の森が続く中をどんどん高度を上げて、午後4時ごろ阿里山に到着する。ここでガイドの林さんに会う。曽さんと異なり小柄で身の軽そうな印象であった。林さんは少し日本語が出来るので心配は無いだろう。おもちゃのような軽便鉄道の駅に近い阿里山閣大飯店に泊まる。標高2400mで台湾ヒノキの林に囲まれ、霧が深い。食事は台湾料理、その後、林さんの案内でウーロン茶の宣伝に付き合う、阿里山は茶の産地である。
 夜、どうも寝つきが悪いと思って理由を考えていると、布団の重さに気がついた。最近は軽い布団に慣れているので、ボディブロー的に重さがきいてくるのに気づくのが遅かったようである。あまり寝た気がしないまま、周囲が騒がしくなった。明け方4時頃、日の出を見るために出発する軽便鉄道に乗るために、泊り客がおきだしたのである。
阿里山ウーロン茶賞味 塔塔加手前


 10月26日(日) 6時起床で、いよいよこれから登山にかかるわけである。林さんの話では、排雲山荘では水が得られるとの事で、本日の飲料水だけで間に合うようで助かる。7時半頃出発、8時25分、登山口塔塔加ビジターセンターでバスを降り、林道を歩き始める。10分ほどで警察駐在所に登山届けを出して、塔塔加鞍部へ向かう。途中、巨大な大鉄杉の林を見る。9時30分、塔塔加鞍部登山口(標高2600m)より東を見ると、左手の前山をずっとトラバースしていく道筋が望まれ、そのかなたに玉山から南へ連なる小南山が正面に見える。
 ここから山道に入り、排雲山荘まで8.5kmの行程である。天気は快晴である。どうやら雨の心配はないようで助かる。1時間で孟祿亭断崖に至る(標高2840m)。11時半前山登山口で昼食となる。阿里山より持参の中華巻き寿司弁当半分食べる。12時発、前山を巻き玉山西峰の麓をトラバースする様に進む。松や冷杉の林が続く中、午後2時頃、巨大な一枚岩大峭壁に至る。午後3時半、最後の急登を何とか頑張って玉山西峰の中腹にある排雲山荘(標高3450m)に到着する。途中、下山するパーティーから、加油(チャーヨウ)、辛苦了(シンクラ)と声をかけられる。ニイハオ、コンニチハ等適当に反応していると、若い女性から、日本人ガンバッテとハッパを掛けられる。
林さんはコーヒーが好きらしく、携帯用のエスプレッソのコーヒーメーカーを持参である。到着早々エスプレッソが飲めるのは驚きでした。山荘では山の水がタンクに引いてあり、自由に利用できることも大変ありがたい。
 排雲山荘は、比較的こじんまりとしているが、コンクリートで出来ているようで、頑丈である。宿泊場所は2段ベッド式で、持参の寝袋でねる。およそ80人くらいが限度のようである。過剰の場合は小屋の所有するテント(6人用)を利用する。元々入山が規制されているので、あぶれることはないが、今日は日曜日のため混み合っておりましたが、鈴木さん、小松崎さん、大寄さんと私は小屋に泊まることが出来ました。
 夕刻、高度の所為か、まったく食欲なし。薄暮時を過ぎ、夜8時頃になると、空は満点の星でした。小屋前のベンチで、漆戸さん、鈴木さん、小松崎さんと、成田で入手したウイスキーを山の水割りで飲む。こうなると標高3450mも気にならない。少し星座のことでも勉強していれば、もっと夜空が楽しめるであろうと思ったが、とにかくすごい星である。南十字星がみえるのでは、と思っていましたがわからずじまいでした。
 小屋では、午前3時頃から、山頂での日の出を見る為か、殆どのパーティが出発の準備を始める。外はまだ満天の星で、天候もよさそうである。気温はおよそ摂氏5度。そんなに冷えた感じではない。

排雲山荘間近 排雲山荘到着

夕暮れの雲海 玉山北峰


 10月27日(月) 5時起床、いよいよ本日は玉山山頂をめざす。持参の即席スパゲッティ、リゾットの朝食後、6時半出発。頂上までおよそ2.6km、どんどん高度を上げる。冷杉の林を抜け、這い松ならぬ這い杉などの低木地帯を登りつづけると、森林限界が3600から3700mあたりに見られる。出発2時間ほどで、尾根筋北峰との分岐点、標高およそ3800mの風口に至る。頭上に山頂が見える。森林限界を超えてからは、登山道は、谷側から頭上にかけて鉄柵がトンネル様にかけられたり、随所に鎖がつけられたり、安全によく配慮されている。風口から最後の登りとなる、なんとか9時10分玉山主峰の山頂に到着する。
 早朝に発ったパーティはすでに下山中か縦走中で、山頂は我々だけである、360度の展望である。北にははるか台湾第二の高峰雪山(次高山)が遠望できる。東、南は山また山の展望で、西方は昨日きた阿里山の山並みのむこうに台湾海峡のあたりは水平線にかすんでいる。頂上には石碑があり、玉山主峰 標高3952公尺と 心清如玉 義重如山 の文字が刻まれている。今回の登山はまことに無風快晴のおだやかな天候に恵まれたこと感謝する。玉山は主峰を中心に北峰、東峰、南峰、西峰と東西南北に四つの手を伸ばしたように子峰が連なっている。
 ガイドの林さんのすすめで北峰を目指して行動する。10時山頂発で、風口へ20分で下る。ここから北峰へは急なガレ場を高度差約200mほど一気に下り、這い杉と石楠花でうめられた尾根伝いに歩く。東側は八通關へ下るややゆるめの傾斜が続いている。緑があざやかなのが印象的である。風口から3.5kmで北峰へ12時10分に着く。ここには気象観測所が置かれている。コンクリートの立派な建物である。南側には先ほど登った主峰とそれに連なる東峰が正面に荒々しい姿をみせている。この山は主に頁岩からなっているそうで、壊れやすい鋭さが感じられる。パンフレット等に見られる玉山が多くはこの位置から撮影されている事は良く理解できる。林さんのエスプレッソをいただく、行動食を摂って下山にかかる。
 午後1時発、風口へのガレ場の登りはバテバテで呼吸も荒く鎖にぶら下がったような格好で這い上がる。午後2時55分風口着。それにしても、私以外のメンバーは全く疲れた顔も見せず、元気で体力の違いを感じさせられました。風口から排雲山荘へは朝登った道を一気に下る。午後4時山荘着で本日の行動は終了した。
 夕食はレトルトのすき焼き丼である。夜7時頃、満天の星を見ながら、漆戸さんが担ぎ上げた紹興酒を小松崎さんと三人でのむ。後は下るだけという安心感と台湾の自然の素晴らしさを感じながらのアルコールは大変心地良いものでした。今日は全員テントで寝る。私も寝袋一つ持ってきただけでしたが、寒さを感じることなく寝ることが出来ました。朝3時頃目が覚めた折、山荘の寒暖計は摂氏5度を示していました。

玉山山頂記念撮影 玉山山頂より南峰

玉山主峰から北峰へ 玉山北峰より主峰と東峰

北峰より主峰への道からみた東峰 夕焼け


 10月28日(火) 下山の日を迎えました。5時起床、朝食もちを食べる。テントをしまい、7時排雲山荘を後にする。10時15分に8.5kmを歩いて塔塔加鞍部に到着する。一昨日登った道すじを思い出しながら下ったわけですが、途中、登山道整備用の資材を運んでいる人達と何度かすれ違う。中には100kgを越す鉄材や角材も沢山あり、裏方の仕事の大変さが伺えました。それにしても、登山道が良く整備されているのには感心しました。11時10分塔塔加ビジターセンターに到着しました。この途中、アサギマダラ蝶を何度か見かけました、日本の蝶にくらべ飛翔力が強いようです。
 曽さん運んでくれた缶ビールで無事下山出来た事を祝って乾杯しました。弁当を食べた後台北へ出発です。途中、東埔温泉へ寄ることにしたので、新中部横貫景観公路を東埔温泉へ向かう。ガイドブックを見ていると、山岳道路は落石がごろごろしており、車はその間を縫うように走るなどと書かれているが、全くそういうことは無く極めてスムースに走る。車は右に背中にずっと玉山を見ながらどんどん高度を下げていく。この道路はまさに玉山を見るために作られたものである。午後2時頃東埔温泉に着く。沙里仙リゾートホテルの温泉に入る、入浴料は200元也。日本と同様の屋上露天風呂である。台湾では水泳パンツが入浴に必要のようですが、他に客が居ないので、我々は日本式入浴で登山の汗を流すことが出来た。湯はぬるめの弱アルカリ泉のようでした。
 午後3時頃東埔温泉を出て台北へ向かう。途中、台中まで山間部では果樹が色々目につく。熱帯果樹が主体だと思いますが、意外なのは葡萄畑が結構多いことです。一部にはまだ実をつけていました。台中手前で、高速道路が工事中ということで、台北への帰着が遅れそうなので、台中で食事をすることとする。林さんの案内で屋台もどきの店にはいる。ビーフンのそばと餃子を食べる、ビールは近くのコンビニで調達する、全部あわせて一人170元くらい、結構うまい。
台北を除いて、往路もそうですが帰路も町を通ると目につくのが檳榔売りの店です、特に台中では、セクシーな衣装の看板娘が目につく。檳榔とは檳榔樹の実で噛むとある種の覚醒作用があるそうです。
 午後9時頃台北のホテルに着く。それから中華民国山岳協会を訪問する。到着が遅れたにもかかわらず、皆さん待ってられた。今回の登山で世話をいただいた礼を述べて帰る。この後、林さんの案内で士林の夜市を見る。林さん最後のガイドとなる。最近の日本では見られない光景である。屋台で豆腐料理をつまんでホテルへ戻る。最後まで付き合ってもらった林さんに謝謝。

   翌29日(水)午後の便で予定どうり帰国しました。

今回の玉山登山旅行を記憶をたどりながら書いてみました。トラブルも無く登山できたことは、季節的に登山に適した時期で好天に恵まれたこととメンバーの皆さんのおかげで、体調を崩すことなく行動できたことに尽きると思います。メンバーの皆様には色々お世話になり有難うございました。
 帰って、この原稿を書いておりますと、天気予報では台風19号が台湾に接近しているようでした。一週間計画がずれていれば台風に遭遇していたかも知れません。改めて運のよさを感じた次第です。
                                    山本理雄