福本武久の著書

疾走する家族 

筑摩書房
1998年12月10日刊行
定 価 1900円
ISBN4-480-80344-0  C0093
判型B6/222ページ
連作小説
『電車ごっこ停戦』にはじまる3部作の完結編。

 『疾走する家族』は「松島・ゆうらん」,「ホノルル・まらそん」,「信濃路・どらいぶ」の三部からなるオムニバス小説。
 それぞれ異なった障害を持つ三人の他者との出会いという趣向で構成されている。
 全盲の少女,ベトナム戦争で脊髄に達する重傷を負い神経系統にも異常が現れる初老の元アメリカ兵,自閉症の子供と妻を自動車事故で亡くしたペンションのオーナー。自閉症を媒介に家族は世界へと展かれてゆく、
 ここでもユーモアの感覚は一貫しているが,その世界は静謐な哀しみをも湛えている。前二作(『電車ごっこ停戦』『家族トライアングル』)に較べて透明感の深まりがある。
「よろしおま。ほなら,いきまっせ.お客さん」と“ほく”は息子のマサオに運転席から言いアクセルを踏み込む。時速150キロのスピードに,マサオは満足して穏やかな表情になる。
 家族は疾走する。その先に新たな出会いが待っている。福本はさらに豊饒な世界を拓くであろう。作家もまた疾走する。(評者 藤井徹)
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