第6講 ブロックを組み立てる!
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前回の質問がたくさんとどいてます。だからまず質問からかたずけたいと思います。どういう内容の質問が多かったかというと、ようするに「何を書いていいか分からない……」というんだよね。つまり「書くテーマや内容」をどのようにして決めたらいいか。こいつを、さらに詳しく具体的に話してくれ……というのが多かったな。 何かを書こうとするとき、まず自分が書こうとする「テーマ」とか「題材」を、ビシッと決めなければならない。そうでしょう? そうでなくては、何も始まらない。テーマーはあらかじめ与えられている場合と、そんな規制や制限がいっさいなくて、何でもいいから自由に書いてください。「負んぶに抱っこ」ですべて、あなたにお任せします……というようなケースもある。 それじゃあ、まず課題としてテーマが与えられている場合から考えてみようか。これはどういうケースかというと、たとえば「最近の社会情勢」とか「恋愛について」とか、あらかじめ課題が与えられて、それについて自分の考えをまとめるというケースです。いいですか。本学の講義で試験のかわりにレポート提出をもとめられる。多くの場合は課題が決められているでしょう。まさに、それそのものですよ。入社試験の小論文なんかの場合もまったく同じですね。 前回、ぼくは「新島襄と私」について書いた経験をお話しました。そのときに、ぼくは〈どういう角度からテーマにアプローチしたらいいか〉を、まず考えたと話しましたよね。憶えてますか? そうして、あれこれをさんざん考えたすえに〈新島襄の生誕碑〉について書こうときめました。そうでしたね。 「新島襄と私」というテーマが課題として与えられていても、何を書いていいか分からない。これが現実なんです。課題として与えられたテーマというものは、非常に漠然としている。だから、そこで、自分が書けそうだと思う話題、自分が興味を持てる話題を探すことから始めなければならない。これが出発点なのです。 たとえば二つ目の課題として、「わが町(わが村)」を提示しました。まだ提出してない人が何人かいますよ。早く出してください。 この場合、要するに「自分の住んでいる町」について、何か書けというわけです。やっぱりテーマ自体が、ものすごく漠然としてますよね。そこで、自分の住んでいる町の人口とか、面積であるとか、立地であるとか、そんなものから書き始めたら、どうなりますか。キリがありませんよね。とてもじゃないけど、まとまらない。しかも原稿用紙2枚で書け……というわけですからね。ますます頭が混乱してくる。さて、どうしたら、いいか。 こういう場合、原稿を依頼した側、つまりぼく自身であるわけですが、ぼくはみなさんに何をもとめているかと言いますと、書く人それぞれが、自分の住んでいる町をどのようにとらえているか……ということなんです。 自分の住んでいる町は〈文化都市・ 〇〇〇〉なんて、市役所なんかがPRしているけど、バッタもんじゃないだろうか? ある人はそういうところからアプローチして、ルポ風の文章を書くかもしれない。 ある人は、町の〈名物じいさん〉について書くかもしれない。自分の近く住んでいるユニークなおじいさんに実際に会って、話を聞いたうえで、その名物ぶりを生き生きと書くという手もあります。 あるいは最近、信じられない事件が起こった。市のお役人や議員さんと業者の癒着問題が発覚した。それらについて自分の考えをまとめるという方法もいいでしょう。 こんなふうに、まず「わが町」というテーマで書けそうだと思われる「話題」や「題材」を見つけだすんです。そいつを全部、紙に書き出してみるんです。 何でもいい。思いついたものは全部、書き出してみるんです。書き出してみる……ということに、ものすごい意味があります。書き出して、それを見ていると、新しいアイディアがわいてくるという場合もありますからね。そのうえで、自分が興味ある問題、これならば、書けそうだという話題をとりあげます。 そのときに、あれもこれも……と欲ばらないこと。いいですか。ひとつの話題を、徹底的に掘りさげてゆく。そうすると、だいたい、うまく書けます。 それじゃ、今日の講義にはいりますよ。今日のテーマは「ブロックを組み立てる?」です。今日のレジメを見て、「それって、まるで建築現場じゃないですか?」と、誰か言ってましたよね。組み立てる……という意味では、建築と一脈通じるものがあります。文章というのは組み立てるんです。ヘルメットは被ってこなくていいけど、ブロックを組み立てをやりますから覚悟してください。 文章というのは、まるで水が流れるように、すうーっと筆先から出てくるものだと思ってたら、それはとんでもない大きな誤解です。もし、そういう人がいたとしたら、まちがいなしに天才でしょうね。プロでも、そうはゆかないんです。だから、文章を書き慣れていないみなさんがたは、まず文章というのは、「組み立てるものなんだ」という認識から出発しましょう。 さて「何を書くか」というテーマもきまった。次に何をするか。メモ・カードをつくるんです。いいですか? 「メモ」あるいは「カード」をつくるというわけです。 ぼくの場合は、たいていノートにメモするだけですませてますけどね。「カード」をつくるという方法も、なかなかいいところがありますよ。 選んだテーマにもとづいて「カード」をつくるんです。たとえば「わが町」というテーマで何か書いてくれといわれたとしましょうか。そこで自分は「わが町の福祉」について書いてやろうと考えた。そしたら、それにもとづいてカードをつくる。つまり福祉問題について「書いておきたいこと」「考えたこと」「見たこと」「感じたこと」、これらを全部カードに書いてみるんです。 「カード」といってもね、わざわざ市販のカードを買う必要なんかありませんよ。ノートやレポート用紙でも折り込み広告の裏でも何でもよろしい。手もとにある用紙を、手ごろな大きさに断裁してカードをつくれば、それで十分です。あまり大きなサイズはダメだね。文章が3行ぐらい書ける小さな紙きれなら理想的です。 あまり大きくないから、たくさんは書けません。小さな紙きれに書くというのがコツです。この「カード」1枚にひとつのことだけ書きます。まちがっても1枚にたくさんのことをぶちこまないこと。1件1葉で書くようにしてください。いいですね。 カードには現地取材したり、文献で調べたことなんかも全部書きこみます。たとえば「福祉問題」を書こうというのなら、自分の町には、どういう福祉施設があるのか。市当局は「うちは福祉都市なんだ」なんて、言ってるけど、駅とか公共施設をみたら、ひどいもんだ。老人や障害者にちっともやさしくはないじゃないか。そういう調べたことなんかも、みんなカードに書いちゃいましょう。 さて、カードができあがった。次にどうするか。カードを机のうえにならべるんです。そして、じっと眺めるんです。眺めていると、また新しいアイディアが浮かんでくることがある。そしたら、またカードに書いてならべましょう。眺めているだけでも、ものすごく効果がありますよ。 なぜかと言いますとね。こういうことなんですよ。たとえテーマがビシッと決まっても、書こうとすること、自分が言いたいことというのは、頭のなかでは、もつれた糸のようになってるんです。あれも書きたいな。これも書いておきたいな……とね。そして、どこから、どういうふうに書き出していいのか。サッパリと見えてこない。誰でもそうなんです。だから1件1葉でカードに書くというのは、自分の頭のなかにある何かを、カタチのあるものにしてさらけ出したことになります。そのうえで整理をしようじゃないか……というわけです。 第一にカードに書いておいたら、書きたいと思うことを忘れなくていい。頭のなかだけで整理して、実際に文章を書き始めたら、書きたいと思っていたいくつかの項目を忘れてしまうことがあります。カードに書いておいたら、少なくとも、そういう心配はなくなるというわけです。 カードを眺めてから、次はどうするのか?って。セッカチだね。キミたちは……。お願いだから、そんなに、せっつかないでくれるかな。ほんとうは……ね。それから先は自分で考えろよ……って、言いたいの。 梅棹忠夫さんの『知的生産の技術』ではね、カードを整理する方法が書いてあります。分類するんじゃなくて、論理的につながるモノを順にならべて、ひとまとまりにするように……って書いてある。いくつかのそういうブロックをつくって、文章の段落にせよ……というわけです。でも、細かく説明しはじめるとキリがないからやめます。これも理屈なんだよね。梅棹式でやっても、現実にはうまくゆくかどうか分からない。何事も本に書いてある通りにできたら、誰も苦労なんかしません。 とにかく、じっとカードを眺めていると、書こうとする文章の流れが、おぼろげに見えてきます。いくつかの話の筋道が出来上がってくるでしょう。そしたら、カードをならべかえたり、筋道と関係ないと思われるカードは思いきって捨てたりしながら、いわば全体の骨組みを考えればいいでしょう。 こんな作業をやってますとね、自分がいったい何をいいたいのか……が、だんだんとはっきりしてきます。そして、それは、最初に漠然と思っていたものとは全然ちがってしまっているかもしれない。つまり、さいしょに自分はこういうことを書きたい……と思っていた内容とまったく逆の方向へいってしまったというケースもありますよ。それは、それでいいのです。それこそが「書く」ことによる新しい発見というものなんです。 最初にこういう内容になるだろうと、漠然と考えていたものと、全然ちがった方向にいってしまった。それはイメージとしてとらえていた文章と、実際に言葉を一つひとつ選び、考えながら書いた文章との決定的なちがいなんですね。文章を書くことによる「発見」がそこにあります。 文章を書くことによる発見は二つあります。ひとつは書きあげられた内容についての発見です。もうひとつは、最初に思いもしなかった内容の文章を書いてしまった……という驚きまじりの発見です。つまり新しい自分の発見です。 そんなわけで、自分が書こうとするおおまかな筋道を考えた。そのうえで、いよいよ下書きする段階にはいります。カードやメモを見ながら文章にしてゆく作業にはいるわけですが、そのまえに、いくつかの話の流れ(ブロック)を、どういうふうな順序に配列するかを考えます。それを「構成」とよんでいます。 構成にはいくつかのパターンがあります。文章読本や文章作法の本なんかでは、「起・承・転・結」とか「序・破・急」なんていう方法があるなんて書いてあります。でも、この講義ではあえて解説しません。なぜかというと理屈だからです。構成のパターンを知ったところで、実際にはあまり役に立たない。それで文章を書けるようになるわけではないのです。もし、どうしても知りたいという人は、<文章の書き方>に類する本を買って、読んでください。 短い作品は、だいたい3つか4つの段落(文章の固まり)で、出来あがっていますが、最初から構成をというものを、あまり強く意識する必要はありません。あくまで「話しの流れ(ブロック)」を、どういう順序でつなぐかを中心に考えればいいでしょう。 さて、いよいよ原稿用紙やワープロの画面に向かって、実際に書き始めることになります。まとめたカードやメモを見ながら、文章にしてゆく作業にはいるわけですが、最初から順を追って書き進めてゆく必要はありません。 たとえば、自分が書こうとする文章を3つの段落で書こうときめた。「書き出し」「展開」「結び」、こういう3つの構成でまとめることにしたとしたら、どこから先に書いてもいいのです。かならずしも「書き出し」の部分から書きはじめなくてもいい。「結び」から先に書いてもいい。「展開」の部分から書いてもかまわないのです。三つの段落を別々に書いてみる。そのうえで三つをつないで、最後に3枚半なら3枚半にまとめるという方法をとります。映画やテレビドラマにたとえて言えば、カットをつなぐという手法です。 文章というものは、高きから低きへながれる水のように、最初から順を追って書くものだとされてきました。みなさんもそのように考えてきたかもしれないけど、それは、間違っているとはっきり言っておきましょう。 たとえば3枚半でレポートを書かねばならない。そのときに最初から順を追って書き始める。どうなると思います。3枚半におさまりますか。プロなら3枚半にビタッとおさめますけど、書き慣れてないみなさんの場合、そうはゆかないでしょう。自然と残りのスペースを気にしながら書くようになる。その結果、最後は尻切れトンボになってしまう。どうですか? そういう経験、あるでしょう。 だから、最初に3つの段落でまとめると決めたら、最初に書きやすいところから書き始め、三つを別個に文章化します。そのときに枚数を合計すると3枚半をこえているかもしれない。それは、それでかまいません。その3つの文章の塊をつなぐ、つまり編集するときにオーバーしている部分を削るのです。そうして最後に3枚半きっちりに仕上げる。そうすれば尻切れトンボになるという欠点も防げるというわけです。 文章のプロたちが、どんなふうにブロックをつないでいるか。実例をあげて分析したいのですがね。新聞のコラムにしても全文を引用すれば、著作権法にひっかかってしまうから、ダメなんだよね。仕方がないから、ぼくの文章をひとつだけあげておきましょう。
ある新聞に頼まれて書いた作品です。読んでみれば、すぐに解ると思いますが、3つの段落からできあがっています。 〈書き出し〉 日常化していた祇園祭と自分の関係 (10行) 〈 展 開 〉 小学校4年のときの想い出 (32行) 〈 結 び 〉 男同士の秘密 (12行) 三つの段落のうち、最初に脳裏に浮かんだのは、二つ目の〈展開〉の段落でした。まず最初に文章化したのもその部分です。そのうえで後の二つの段落を書いて、繋いだというわけです。 第1と第3の段落が少なくて、第2のブロックのボリュームが多い。これが3段型の構成でもっともポピュラーなパターンです。料理にたとえれば、一点豪華型です。 このパターンの構成は、みなさんがレポートとか小論文を書かねばならないときに非常に参考になりますから、よく憶えておいてください。入社試験の小論文にも応用できます。 文章というものは、繭から糸をつむぐように、次々と出てくるものではない。カードやメモから、ブロックをつくり、ブロックごとに文章化して、最後にそれらをつないで仕上げる。〈組み立てる〉ものだということを、最後にもういちど、声を大にして繰り返しておきたいと思います。 はい。今日は時間がありませんから、質問カードは次回にまわします。 目次に戻るにはブラウザの「戻る」ボタンを押して下さい。 |
(C)Takehisa Fukumoto 2001 |