第14講 タイトルも大事な表現活動だ!

この講義も、いよいよ最終回になりました。最後にとりあげるテーマは「タイトル」についてです。タイトル、つまり題名をどうするか……ということです。ぼくが講義のテーマにとりあげるまえに、この問題についての質問がいくつか来ています。

 それでは、代表的なものをひとつだけ読んでみましょうか。「いったい題名をどう付けたらいいか。私はいつも悩んでしまいます。考えれば考えるほど、解らなくなってしまい、最後は『わが街について』などというように平凡なものになってしまうのです。どうすればいいでしょうか」

 どうすれば、いいでしょうか? なんて訊かれても困るんだよね。ぼく自身がいつもタイトルをつけるのに七転八倒の苦しみを味わっているんだからね。小説でもエッセイでも、とにかく最後に「題名」で悩むんです。自慢じゃないけど、すんなりと決まったケースはいちどもありません。

 自分の書いた文章に、どういうタイトルを付けるか。タイトルを考えるのも、実はたいへん重要な表現活動のひとつなのです。内容がよくわかり、それでいて読み手の注目を集める。面白そうだな、読んでみようか……。読み手にそのように思わせる魅力あるタイトルを考える。これも非常に大事な表現活動だと思ってください。

 みなさんがよく誤解するのが。「タイトル」と「テーマ」の関係です。「わが町」について書いてください……なんていうと、出てきたレポートの題名は、みんな「わが町」になっている。レポートの表紙をチラとみたら、「わが町」「わが町」「わが町」「わが町」……です。いいですか。テーマとタイトルはちがいますよ。たとえ「課題」「テーマ」が与えられている場合でも、それぞれが内容にふさわしい「題名・タイトル」をつけるようにしないと、良いレポートにはなりません。

 「わが町」というテーマで書いてください……という場合、題名も「わが町」では、まるで芸がない。内容をみるまでもなく、そのレポートはすでにして落第です。かならず自分の書いた内容にふさわしい題名を考えるようにしましょう。

 たとえば……。「わが町」という課題にこたえて、自分は福祉問題について書いたとしましょうか。固い題名にするなら、「わが〇〇市の福祉政策」というのも考えられます。もうすこし柔らかく、「お年寄りにやさしい町・〇〇」とか、あくまで内容がわかるようなタイトルをつける必要があります。必要ならサブタイトルもつけます。たとえば「わが〇〇市の福祉政策ー高齢化問題を中心に」とか、「花と緑の町……〇〇市」とか「うどん街道の名物オヤジ」とか「コスモス街道の秋」とか……。

 原稿用紙にして10枚をこえるレポートなら、段落ごとに適当な小見出しをつけると、さらに読みやすくなって効果的ですね。週刊誌や雑誌の特集記事なんか、みんなこのスタイルがとられてますね。新聞なんかも同じでしょう。小見出しをうまく使ってます。

 タイトルを考えるときも、「ああ……でもない」「こう……でもない」と頭のなかだけで考えるだけではダメです。思いついたら、何でもいいから、紙にどんどん書いてみるんです。そして眺めてみる。書いたものを眺めていると、また、新しいアイディアがわいてくる。そしたら、また書くんです。そういう作業を繰り返していると、思いがけないアイディアが浮かんでくることがあります。

 ぼくは自分の書いた小説のタイトルでいつも苦しんでいます。なかなか題名が決まらないのです。いままでで最も苦しんだのは『会津おんな戦記』でした。これは明治元年の戊辰戦争のものがたりです。薩長の新政府軍は最後に会津若松の鶴ケ城に集結した旧幕府軍を攻めました。そのとき男装して城にこもり銃や大砲で戦ったひとりの女性がいました。彼女の眼からとらえた会津戦争が作品のテーマになっています。

 出版社側は「会津」というのを、どこかに入れてくれ……という。編集部長さんは〈女性のものがたり〉ということが解るような題名がいいと言うんです。ぼくは「戦記」あるいは「戦争」という意味あいを含ませたい。さらに担当の編集者は漢字ばかりではイメージが固すぎる。どこかに平仮名をかませてください……。みんな好き勝手なことを言うんです。

「男装のおんな戦士」「鶴ヶ城の戦い」「会津戊辰戦記」……。とりあえずそんなふうにね、思いつくまま、原稿用紙のうえに書き出してみました。そうして、しばらく、二人で「うーん」と唸りながらながめていましたが、「それじゃ、こういうの、どうですか?」と、担当の編集者が、何やら鉛筆を動かし始めたんですね。かれがマルをつけた単語が「会津」「おんな」「戦記」だったというわけです。箇条書きのように書き出したいくつものタイトルの一部分だけひろって、ひょいとマルをつけただけですが、それらをつなぐと「会津おんな戦記」となって、タイトルとしてふさわしいかたちになっている。

 会津おんな戦記……。おっ……、いいじゃないの。それで行こう! 最後はあっけない幕切れでした。タイトルというものは、決まるまではたいへん苦しみますが、ひとたび決まってしまうと、もう、それ以外には考えられなく思えてくるから不思議なものです。

 頭のなかで考えているだけでは、なかなか、いいアイディアは出てきません。頭だけを働かせずに手も動かしてみる。思いついたことはなんでもいいから、紙の上に書き出してみるんです。不思議なもので、そんなことを繰り返しているうちに突破口がみつかるケースがたくさんあります。文章というものは頭のなかに浮かぶというよりも、手の先、ペンの先に浮かぶものであるというのは、私をモノ書きとして世に送り出してくれた一人である小説家・野間宏の持論ですが、手を使ってたくさん文章を書くことが何よりも基本であるということの証というものでしょう。

 はい、講義はこれでいちおう終わりです。あと何回か補講をやるつもりおりますが、今のところまだ予定が決まっておりません。今回みなさんから提出される質問のなかに、「これはぜひとも答えておかねば……」という重要なテーマがみつかれば、優先的のそれらをとりあげます。出欠はとりませんから、気が向いたらのぞいてください。それから、最終レポートは必ず提出してくださいよ。忘れないように……ね。


【課題 4】
  「小説・文章講座」を批評する!」

 (タイトルは例によって、別に適当なものを考えてください)
 (原稿の長さ)自由
 (送り先)takefuku@mars.dti.ne.jp


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