97〜98 駅 伝 時 評

15th 全日本実業団女子駅伝
【沖電気宮崎、真価を問われるのは来年だ! 】

 第5区の6.5キロあたりだったろうか。肩を接するようにはげしく併走しな
がらトップをうかがう川上優子(沖電気宮崎)と里村桂(京セラ)の向こう側…
…。歩道ぞいを懸命に併走するオジさんがいた。ジャージ姿で何やらわめくよう
に声をかけている。沖電気宮崎の広島日出国監督である。かつての日本を代表す
るマラソン・ランナーのなりふりかまわぬ姿、まるでかわいい孫娘をみつめる爺
さまのような眼ざしがそこにあった。

 岐阜でひらかれる全日本実業団女子駅伝がはじまったのは15年まえであった。
初回の参加は15チームぐらいいだったと思う。記念大会のせいとはいえ、今年
は35チームが参加、それは女子駅伝という競技の底辺のひろがりを象徴的にも
のがたっている。

 15年まえといえば、今大会でルーキーとして健闘した里村桂(京セラ)、山
元愛(沖電気宮崎)は、まだ4歳である。現在、各チームの中軸を占める選手の
ほとんども小学生になったばかりのころだろう。女子の駅伝人気に火をつけたの
は、京都の全国都道府県対抗駅伝だが、ビッグな観戦スポーツとしての地位を動
かぬものにしたのは、バルセロナ・オリンピック直前の10年ぐらいまえからで
ある。そのきっかけは、おりから衝撃のデビューを飾った松野明美の登場だった。
小柄な体躯に似合わぬ大きな走り、何よりもあのひたむきな姿は、いかにも日本
人にウケそうなタイプだった。松野の走りに感動を覚えて、長距離をめざした小
学生や中学生ランナーも多かったのではないか。

 最近の日本女子の長距離での活躍はたしかにめざまじいものがある。世界陸上
ではマラソンで鈴木博美が優勝、1万と5千では千葉と志水がそれぞれ入賞、さ
きの千葉国際駅伝ではぶっちぎり、東京国際マラソンでは伊藤貴美子が優勝……。
女子長距離の選手層が分厚くなり、レースのたびにどんどんと新しいホープが現
れる。そういう熱い雰囲気のなかで今大会は幕あけた。レースそのものは、それ
なりに面白かった。けれども、何か物足りない大会だったように思える。

 今年は戦国駅伝の様相……。それが大会前の下馬評であった。優勝候補として
は、昨年優勝の沖電気宮崎のほか、京セラ、東海銀行、日立……などの名があが
り、天満屋、積水化学、あさひ銀行あたりも侮れない存在だった。けれども、い
ずれにしても決め手に乏しく、いわば中心不在であった。その遠因のひとつには
千葉真子の旭化成、真木和らのワコール、弘山晴美の資生堂の欠場があげられる。
横綱・大関クラスのチームが偶然とはいえ3つも出てこなかった。しかも予選で
敗退したわけではなく、地区予選に出場もしていないのである。さらにはリクル
ートから、積水化学が核分裂、つねに優勝候補の一角を占めていた強豪の大幅な
戦力低下もよけいに優勝のゆくえを不透明にしてしまったといえそうである。

 一昨年優勝の王者・ワコールは昨年、予選の淡路で優勝しながら、本戦では欠
場してしまった。3年前も予選で圧勝しながら、本戦には出てこられなかった。
今年は淡路でさえも欠場している。風の噂によれば主力の2選手が退社したせい
だという。かつて圧倒的な実力を誇ったチームが、故障などの物理的な要因でな
く、泥臭い人間関係のゴタゴタなどで自己崩壊してしまったのはきわめて残念で
ある。

 ともかくも伝統チームの欠場によって、たとえば千葉真子と川上優子の若きラ
イバル同士の対決、さらには若さの千葉、川上と円熟・弘山のリーダーシップ争
いなど……。最初から優勝争いとは別のみどころも失われていた。記念大会のわ
りには、もうひとつ盛りあがりというものを欠いていたのは、そのせいもあるだ
ろう。

 一区でトップに立ったのはニコニコドー、二区ではNEC、本命不在だけにレ
ースは最初から波乱ぶくみの展開にようにみえた。事実、この時点で関東地区予
選で勝った日立と東海銀行は大きく出遅れている。東海銀行は5区の楊思菊と6
区の大南敬美の激走で、きわどく追いあげるのだが、二区ですでにして圏外に去
っていたと見るべきだろう。

 優勝のゆくえは一区・二区で好位につけていた京セラと沖電気宮崎にしぼられ、
3区以降はマッチレースの様相であった。3区・永山育美(京セラ)の快走ぶり、
5区・川上優子(沖電気宮崎)の勝負感の鋭さはみごたえがあった。勝負が決め
たのは5区のエース川上だが、3区の岡本幸子の粘走、4区の大宅美鈴の闘志あ
ふれる力走が逆転の下地をつくった。あえて優勝の立役者をひとりあげるならば、
54秒差を一気に射程距離までつめた大宅ではないかと思う。

 混戦といわれながら終わってみれば、沖電気宮崎の二連勝である。沖電気のチ
ーム力はたしかに充実していた。女子駅伝もいよいよ主役交代、沖電気時代の到
来か? しかし……である。それは、まだ、ちょっと早い。ワコール、旭化成、
資生堂のいない、いわば真空地帯で優勝したにすぎないからである。王者・ワコ
ールを沖電気が圧倒的な力でねじふせたとき、初めて新しい時代が幕あける。そ
のために来年はワコールはもちろん旭化成も資生堂も、ベストのチーム造りをし
て出場してほしいと思う。

 沖電気宮崎、東海銀行、積水化学、天満屋などの新勢力にワコール、旭化成、
資生堂、リクルートなどの旧勢力、さらには復活組の京セラ、川鉄千葉がからん
での激しいつばぜり合い……。それが来年のみどころになるだろう。

総合成績
沖電気宮崎 2:16:24
東海銀行 2:16:39
京セラ 2:16:47
川鉄千葉 2:17:26
三井海上 2:17:35
積水化学 2:17:56
天満屋 2:18:16
あさひ銀行 2:18:29
日本ケミコン 2:19:16
10 日立 2:19:21


区間優勝者

1区 6.6キロ 王明霞(ニコニコドー) 20:07
2区 3.3 鳥海裕子(京セラ) 10:14
3区 10 永山育美(京セラ) 32:27
4区 4.1 戸田東世(川鉄千葉) 12:54
5区 11.6 エスタ・ワンジロ(日立) 36:35
6区 6.595 大南敬美(東海銀行) 20:50

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