97〜98 駅 伝 時 評

19th 全日本大学女子駅伝
【 遅 咲 き の 花 た ち に 声 援 を ! 】

 トップでやってきたランナーが長居競技場にとびこむ直前だった。緊張ぎみだ
った顔の表情が、とつぜんほころんだ。おやっ……と思うまもなく、顔ぜんたい
に清々しい笑みがひろがった。もう、だいじょうぶ……という安堵感、そしてト
ップでうけたタスキをまもりぬいたという充足感が、まだどこかあどけない笑顔
にはちきれていた。京都産業大の二年生アンカー中井、区間賞こそ逃したが、ラ
スト2キロでペース・アップした走りは新鮮で爽やかだった。

 御堂筋、中之島、森ノ宮界隈……。かつて大阪に通勤していたころ、私にとっ
て日常の風景だった。ランナーが駈けぬける背景ともいうべき大阪の街なみ、か
つて親しんだ街のたたずまいが、現在どのように活きづいているのか。毎年、テ
レビ観戦しながら、私はレースのなりゆきとは別に、もうひとつの楽しみを見い
だしている。

 第19回をかぞえる全日本大学女子駅伝、京都産業大の4連覇がなるか。今年
は関東勢にもチャンスがあるのではないか。昨年2位で曽谷のいる城西大を筆頭
にして、岡本、菅原のいる筑波大も期待ができそうな気配……。スピードアップ
著しい女子駅伝、今年はどこまでタイムがのびるか。みどころはいくつもあった。

 最近の駅伝はほとんど前半で勝負が決まる。スタートの1区、2区でいかにし
てリズムある「流れ」をつくれるか……が、大きなポイントになっている。とく
に今大会はその典型的なレースだったのではあるまいか。1区と2区で、勝負の
ゆくえは、ほぼ見えてしまっていた。

 大会新記録というオマケつきで4連覇をはたした京都産業大は1区(柴田)2
区(佐藤)にエース級を投入、城西や筑波に走りのリズムをつくらせなかった。
城西大はエース曽谷をアンカーに配したが、京産大はあえて佐藤を2区にまわし
ている。佐藤は今シーズンの女子5000Mでベスト5に入るほどの傑出したラ
ンナーである。もし1区で出遅れても2区では確実に首位をうばうというもくろ
みがありありと見えている。京産大の1区・柴田が2位という好位置につけられ
たのは、そういう手がたい布陣の心理的効果のせいもあっただろう。京産大がエ
ース佐藤で予定どおりトップに立ったとき、すでにして勝負は決していた。

 城西大は最後までもたもたしていた。1区大石がそこそこにつけていたが、2
区のもたつきで「流れ」にのりそこなった。京産大を追うどころか、終始受け身
に回ってしまい、筑波との2位争いにも遅れをとってしまった。筑波大2位は健
闘といえるが、1区の遅出遅れがなかったなら、きわどく優勝を争う展開になっ
ていたかもしれない。2区の岡本(久)、3区の岡本(由)の姉妹、4区の菅原
の爆走がひときわ光るだけに、なおさら惜しまれるのである。

 京産大は3区から最終6区まで、まったく安定していた。4区の佐野いがいは
駅伝初めての選手たちだが、それでいて区間記録をみるといずれも上位にきてい
る。繋ぎ区間の選手たちが、本番でも計算どおりの「走り」をする。選手層の分
厚さが勝利に結びついたようである。

 京都産業大の選手たちのほとんどは、中学・高校のころ無名の選手だったとい
う。昨年までいた木村泰子にしても同じである。高校時代はそれほど目立たなか
った選手たちが、大学生になって指導者にもめぐまれ、眠れる能力を一息に開花
させた。もしかしたら「大学女子駅伝」の存在価値は、そんなところにあるので
はなかろうか。

 陸上長距離界の地図をみるかぎり、男子と女子ではまったく様相がちがってい
る。男子の場合、有望な高校生の選手たちは、箱根に出場可能な東京の大学に進
み、卒業後は<実業団>で選手生活をつづける。女子の場合、高校時代のトップ
ランナー、素質のあるランナーのほとんどは、いきなり実業団にゆくケースが多
い。それゆえに女子に関するかぎり、大学の長距離選手は、名実ともに傍流に位
置づけられてきた感もある。

 実業団で活躍する高校時代からトップランナーは、いわば早咲きの花である。
高校時代は無名だったが、大学生になってトップに躍り出るランナーは遅咲きの
花というべきだろう。そういう意味で大学女子駅伝は遅咲きの花たちが颯爽とデ
ビューするレースではないか。遅咲きの花はそれゆえに息ながく咲きつづける。
有森裕子の例をみるまでもないだろう。人間としても世界に通用する大型のラン
ナーは、むしろ<遅咲き>から生まれるような予感がする。

 早咲きの花とはひと味ちがう強かな大人のランナー、精神的にもタフで自立し
たランナーが「大学女子駅伝」からどんどんと育ってほしいと思う。

総合成績
京産大 2:07:56
筑波大 2:09:50
城西大 2:09:59
上海体育学院 2:10:27
東農大 2:11:41
中央大 2:14:17
順天大 2:15:22
名商大 2:15:42
中京大 2:15:43
10 白鴎大 2:16:27

区間優勝者

1区 8.5 菫朝霞(上海体育学院) 27:16
2区 6.2 佐藤由美(京産大) 21:03
3区 3.8 岡本由美子(筑波大) 12:35
4区 7.5 菅原美和(筑波大) 24:08
5区 4.0 オリガ゙・コミアゲイナ(レスガフト大) 12:45
6区 9.0 曽谷真理(城西大) 28:46

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