97〜98 駅 伝 時 評

29th 全日本大学対抗駅伝
【 攻めの姿勢で、悔いを残さないように ! 】

 朝7時に起き、晩秋の朝陽のなかを6キロばかり走った。透き通った朝の空は
すでに冬のものだ。11月になると、早朝はさすがに冷えこんで、いつしか吐く
息も白くなっている。それでも、ほんの少し肌寒いぐらいがランニング日和。秋
ならば10月から11月半ばあたりまで、春先ならば蕗のとうが頭を出すあたり
から、桜のつぼみがほころぶころまで……。今朝も道路わきには咲ききった薄桃
色の秋桜が風にゆれ、野菊がひそやかに白や黄色の小さな花をつけていた。

 日本列島は駅伝の季節まっただなかである。青森から出発した「東日本縦断駅
伝」は今日が最終日、三日前からは「九州一周駅伝」が始まっている。そして今
日、「全日本大学駅伝」が日本列島のどまんなか(熱田神宮から伊勢神宮まで、
106.8キロ、8区間)でおこなわれた。ひた走る選手たちには季節の風物を
眼にとどめる余裕などとてもないだろうな……。ランニングを終えたあと、家に
とびこんで、テレビの前で汗をぬぐいながら、わけもなくふとそう思った。

「攻めの姿勢で……。悔いを残さないような走りを……」
 第一区の区間賞をとった高津(神奈川大学)はテレビのインタビューを通じて、
後続のメンバーに語りかけていた。
 今大会で「攻めの姿勢」を貫いたのは、意外にも早稲田であった。二区・梅木
の思いきった仕掛けによってレースはゆっくりと動きはじめたのである。3区か
ら5区までレースの主導権は完全に早稲田の手中にあった。久しぶりにトップを
走るエンジのユニフォームを神奈川大、山梨学院大、駒沢大、拓殖大などが前後
しながら追うという展開だったのである。

 神奈川大はあわてなかった。5区で岩原がようやくトップに立つと、持ちまえ
の地力を発揮、後続をじりじりと引き離した。最終8区の中継時点で、二位の山
梨におよそ1分40秒の差をつけ、この時点で勝負をきめていた。5区から7区
まで、とくに目立った選手はいなかったが、一人ひとりの力の集積で相手を圧倒
してしまった。終わってみれば、5時間17分18秒の大会新、二位の山梨に1
分秒差をつけての大会二連勝である。

 とくに二年生アンカーの小松直人の走りは鮮やか。前半は山梨のワチーラに約
40秒差まで追われたが、後半にペースアップして突き放した。後半のリズム感
ゆたかな軽快な走りに眼をみはらされた。あらてめて神奈川大層の厚さというも
のを感じさせられた。

 山梨学院大は後半はげしく神奈川を追ったが、いまひとつ流れにのりきれなか
ったようである。それはエース古田が完全に復調していないせいもあるだろう。
完全に流れにのって実力以上の結果を出してのが早稲田、駒沢を押さえての3位
は大健闘である。逆に流れにのりそこなったのが、出雲を制した駒沢である。各
選手ともどこか走りにリズム感というものがなかった。初出場の拓殖大は大健闘。
先週の箱根の予選につづいての大レースにもかかわらず5位にくいこんだ。もし
かしたら箱根では台風の目になるかもしれない。

 全日本規模の駅伝とはいうものの、今年も終始レースは関東勢中心で展開され
た。私の出身が関西だからというわけではないが、ひそかに京都産業大に注目し
ていた。だが、今年は昨年よりも悪くて7位。関東と関西の実力差はさらにひろ
がりつつあるのではないか。こうなれば今年も全日本女子駅伝がんばってもらう
ほかはないようだ。

 駅伝はタイムを競うレースではない。タスキをつないで順位を競うレースであ
る。だから「繰り上げスタート」というのはやめてもらいたい。今年もたしか5
区と7区、二回も繰り上げがあった。二度目は10校もが繰り上げの対象になっ
てっしまった。顔をゆがめて中継所にとびこんできたランナー、だがタスキをわ
たすべき仲間の姿はない。ウロウロと周囲を見回しているうちに、ようやく繰り
上げスタートになっている事実を知る。首や肩をすくめたその後姿には、なんと
も居心地悪そうな哀感がただようのである。

 「繰り上げスタート」がうまれたのは交通事情のせいだというが、駅伝の開催
日は半日ぐらい、関係車両のみにして一般車両は通行止めにしてはどうか。大き
な神社の祭礼や市や町の「なんとかフェステイバル」では、街のメインストリー
トを終日ストップするケースが少なくない。それを駅伝にも適用していただきた
い。当日走行が許されるのは駅伝関係の車両のみ。ガソリンの使用は厳禁、燃料
はすべてアルコール使用を義務づければいい。

 駅伝開催日はほどんど日曜・祭日だから、いっそのこと「ノー・カー・デイ」
にしてはどうだろうか。この12月、おりから「地球温暖化防止京都会議」がお
こなわれるが、排ガスによる二酸化炭素の増加が温暖化の元凶なのである。クル
マにのれない日が一日ぐらいあってもいいだろう。せめて駅伝の開催日ぐらいは、
排気ガスをまきちらすことなく、ランナーにとって「走りやすい街」になるよう
配慮すべきではないか。そうすれば「都市」で開催されるマラソンや駅伝が「地
球環境」というものの意識昂揚に一役買うことにもなると思うのだが、いかがな
ものだろう。

総合成績
順位
チーム名
記 録
1 神奈川大 5:17:18
2 山梨学院大 5:18:22
3 早 大 5::20:06
4 駒 大 5:20:48
5 拓 大 5:23:29
6 順 大 5:24:11
7 京産大 5:24:32
8 大東大 5:26:52
9 東海大 5:28:06
10 中 大 5:28:30

区間優勝者

14.6キロ 高津(神奈川大) 43:03
13.2キロ 梅木(早大) 38:05
9.5キロ 中村(早大) 27:31
14キロ 藤田幸(駒大) 41:22
11.6キロ 岩原(神奈川大) 34:28
12.3キロ 野々口(神奈川大) 36:11
11.9キロ 大崎(山梨学院大) 35:37
19.7キロ ワチーラ(山梨学院大) 59:12

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