全国高校駅伝は男子が第48回、女子が第9回を数える。今年も21日に男女
とも47都道府県の代表が京都市・西京極陸上競技場に集まった。高校駅伝が京
都で開催されるようになってから、もう31年になるという。かつて京都に住ん
でいたころ、大会前になると街のあちこちで全国からやってきたランナーたちの
姿をみることができた。朝の出かけに東本願寺のそばを通りかかると、きまって
ジャージ姿のかれらに出会った。きっと近くのどこかに宿所があったのだろう。
門前の大きな銀杏の樹のある噴水広場で、選手たちが輪になってストレッチをし
ている風景を見るたびに、今年もいよいよ暮れてゆくのか……と、あらためて思
ったものである。
あのころは、まだテレビ放映がなかった。いつもラジオの実況に耳をこらして
いた。所用で外出するときもラジオとイヤホーンをバッグに入れて家を出た記憶
がある。現在は男子、女子ともに、テレビ実況がある。全国どこにいてもリアル
タイムで観戦することができる。テレビ画面を通じて、<京都の街なみ><力走
する選手たち>を眼で追いつつ、いつも去りゆく年と故郷をはなれた年月に想い
を馳せている。
京都に生まれ育ち、現在は埼玉住まい……。そのせいもあってか、いつも無意
識のうちに京都、そして埼玉代表の動きに注目している。両県の代表校がテレビ
画面から遠く消えてしまうと、もっぱら画面の背景を流れる京都の街なみを楽し
んでいるが、今年はそんな余裕はなかった。女子では最初から埼玉栄が独走、立
命館宇治もつねに好位置をキープ、男子でも埼玉栄が最後まで上位にからんでい
たからである。
5区間(21・0975キロ)の女子は、第1区から埼玉栄が飛び出し、とう
とう最後までトップをゆずらなかった。予選タイムでもトップ、3千メートルの
平均タイムでも断然トップという実力をまざまざと見せつけた。他の46校など
最初から眼中になく、選手それぞれがひたすら自分イメージどおりの走りに専念
したにだけ……。ともかく埼玉栄の選手たちは誰もが、「軽快で」、「力強く」、
そして「美しく」、「楽しそうに」走っていた。史上初の三連覇というオマケつ
きの圧勝、その道筋をつくったのは1区で果敢にとびだした小島だが、小島をあ
えて1区に起用、「すべて計算どおりだった」という大森国男監督こそが真の立
て役者というべきだろう。
レースの面白さは、むしろ2位、3位争いにあった。諫早(長崎)、西京(山
口)立命館宇治(京都)、筑紫女(福岡)、須磨女(兵庫)、田村(福島)など、
熊本市商をのぞいて、予選あるい3千メートルの平均タイム上位校は、いずれも
上位にからんできて、眼がなせない展開だった。混戦を制したのは西京、そして
地元の立命館宇治が3位にとびこんだ。とくに西京のアンカーの走りはみごとだ
ったが、それは一年前の悔しさを忘れなかったからだろう。昨年は3位で競技場
までやってきながら、トラック勝負で田村(福岡)に敗れ、4位に甘んじたので
ある。正念場になったとき、そういう「悔しさ」がとかく<火事場の馬鹿力>を
産む原動力になるようである。
一年前の「痛恨」を活かすことができずに、またしても涙をのんだのが、男子
の大牟田だった。女子にくらべて男子の場合は、7区間(42・195キロ)で
ある。1区(10キロ)、4区(8.1キロ)、5区(8キロ)と、長い距離の区
間が3つもあって、観戦する側からいえば、レースそのものにメリハリというも
のがある。
西脇工(兵庫)と大牟田(福岡)のマッチレースというのが前評判。予選タイ
ムからみれば大牟田がトップ、ついで埼玉栄、熊本工とつづき、西脇工は4位で
ある。けれども5千メートルの平均タイムをみると、西脇工がトップ、大牟田が
つづいている。総合的に見て、この両校がやや図ぬけた存在といえた。
その図ぬけた両校が出遅れた。第一区では仙台育英のワイナイナがトップ、西
脇工はなんと9位である。ところが当面のライバル・大牟田も8位と遅れをとっ
てしまった。結果的にみて、仲良く調子を合わせたことが、西脇工には有利に働
いたといえる。もし大牟田が出遅れのおつきあいをしないで、はるか先んじてい
たら、レースの展開はまったくちがったものになっていただろう。さすがの西脇
工はあんなに悠長にかまえていられなかったはずだから……。
勝負のゆくえを決めたのは第3区であった。大牟田の土谷、西脇工の中尾、倉
敷の山本、土岐商の虎沢がならんで2位の埼玉栄の星野をとらえ、5校がならん
でトップをゆく仙台育英の山川を追っかける展開……は、今年いちばんの見どこ
ろであった。最後は中尾がぬけだして集団を粉砕、この時点でレースの流れを完
全に西脇工にひきよせてしまった。4区以降は西脇工の強さばかりが眼についた
レースだった。
通算6度目の優勝を飾った西脇工は3区以降の区間賞を独占、だから2時間3
分18秒という高校最高記録も当然の結果といえる。それにしても2位の大牟田、
3位の土岐商、4位の埼玉栄までが2時間4分台というきわめてハイレベルの大
会となった。上位争いを予想された学校は、終わってみればいずれも上位にきて
いるが、なかでもとくに私の印象にのこったのは土岐商の粘走であった。
西脇工の渡辺監督は「敵はわが心にあり」と説き、埼玉栄の大森監督は「自己
管理の大切さ」を力説する。くしくも両監督ともに精神的な問題をとりあげてい
る。それは、なみはずれの実力を誇る両校の監督なればこそ口にできる台詞だろ
う。けれども指導者の責務というのは、「いかにして、選手たちを動機づけるか
……」にあるという点では一致している。記録や小手先の技術的な問題よりも、
競技者としての「心」をいかに育てるかこそが何より大事なのだ……と、両監督
は言外にほのめかしているように思われた。
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