97〜98 駅 伝 時 評

42th 全日本実業団駅伝
【 マラソンの延長に駅伝がある!  】

 旭化成をひきいる宗茂とヱスビー食品をひきいる瀬古利彦といえば、現役時代
から宿命のライバルだが、いまも指導者として熱い闘いを演じている。レースの
はじまる直前、テレビの取材を受けた二人は、インタービュアのもとめに応じて
握手するという珍しいシーンがあった。にこやかな笑みを浮かべて手を差し出し
た宗茂に較べて、瀬古の表情はどことなく硬くて、「おやっ」と思った。

 陸上の第42回全日本実業団対抗駅伝競走大会は今年も1月1日、前橋市の群
馬県庁前を発着点とする7区間86.3キロのコースに37チームが参加して開
催された。

 ヱスビー食品が昨年の痛恨をバネにすることができるか。それが今年のみどこ
ろであった。昨年は旭化成とエスビー食品は5区からマッチレースの展開となり、
アンカー勝負で旭化成が2秒先んじた。結果的に旭化成はその前年、カネボウに
僅差で敗れた痛恨をエスビー相手に晴らした格好になった。敗れたヱスビーは、
まる一年、その悔しさをどのように圧縮させたのか。そして今年は、あの渡辺が
もどってきた。いろんな意味から、宿命の対決に興味がそそられた。

 結果的にみると、勝負のポイントは2区と6区にあったといえる。2区(8.4
キロ)の櫛部と小島宗、6区の花田と川島の勝負が勝敗を決定づけたとみる。旭
化成優勝の足がかりをつくったのは2区の小島宗である。短い区間ながら4人ぬ
きでトップに立ち、以降はエスビーを優勝争いから撥ねとばした。6区の川島も
区間新の力走、この時点でエスビーの希望を断ち切ってしまったのである。

 旭化成の優勝タイムは4時間6分28秒、エスビーは4時間6分43秒……。
タイム差だけからみれば、わずか15秒差だが、内容的には旭化成の圧勝であっ
た。2年連続20回目の優勝をねらう旭化成に、はげしく肉迫したチームは皆無
だった。渡辺がもどってきてヱスビーは、確かに昨年よりレベルアップしていた
が、旭化成はさらにハイレベルのチームになっていた。ヱスビーは最初から後手
に回らされ、終始優勝争いに絡むことができなかった。

 群馬にしてはめずらしく風もなく、穏やかな天候、ヱスビーは6区の花田のス
ピードに最後の望みをつないだ。タスキを受けるまえ、31歳になるという川島
は、いかにもベテランらしい落ち着きで、「もっと風が吹いてほしい」と冗談ま
じりに苦笑いしていた。しかし……である。風がなくても川島は強かった。6区
を終わった時点で逆に7秒も差をひろげてしまったのである。タイム差が47秒
もあっては、故障あがりの渡辺には、どうにもならなかったようである。

 旭化成の選手たちの走りは、みんな力強く、勝負強い。ヱスビーの選手たちは、
どこか反応がにぶいように思った。2強対決といわれながら、2位まで押しあげ
るのに4区までかかってしまってはどうしようもない。旭化成は小島宗、佐保、
高尾の三人が区間賞、6区の川島はギタヒについで2位だったが、区間新の快走
ぶりをみせた。それに比較してエスビーで区間賞をとったのは故障あがりの渡辺
だけというありさまが、勝敗の結果をよくものがたっている。

 旭化成の強さを思い知らされたレースだったが、ほかに、みどころもたくさん
ある大会でもあった。前半でもヤクルト、富士通、コニカ、中国電力の健闘、中
盤から後半にかけてのダイエー、日清食品の猛追、さらにはギタヒ(日清食品)
の15人ぬき、混戦を制した一区奥山(ヤクルト)の力走など……。

 すべて計算どおり……と、言いたげな宗茂がふともらした「マラソンの延長に
駅伝がある……」という台詞が妙に印象に残った。そういえば今回走った旭化成
の選手たちのほとんどは、マラソンも走っている。マラソンのときはマラソンの
走り……が。駅伝のときは駅伝の走り……が、できるように日頃からトレーニン
グしているというわけなのか。最初にマラソンありき……というところから出発
しているから、走りこみの量もちがうのかもしれない。圧倒的な強さの秘密はそ
んなところにあるのかも……。あるいは昨今の駅伝偏重の長距離界のありかたを
暗に揶揄した一言なのかもしれない。いずれにしても、いろいろ考えさせられる
意味深長な台詞だと思った。

総合成績
旭化成 4:06:28
ヱスビー食品 4:06:43
ダイエー 4:10:07
鐘紡 4:10:33
中国電力 4:11:32
日清食品 4:12:22
コニカ 4:12:37
富士通 4:12:49
NEC 4:14:16
10 本田技研 4:14:25


区間優勝者
1区 12.1キロ 奥山光弘(ヤクルト) 34:15
2区 8.4 小島宗幸(旭化成) 23:40
3区 13.7 ジェフ・シープラ(NEC) 38:22
4区 10.3 佐保 希(旭化成) 29:43
5区 7.4 高尾憲司(旭化成) 20:26
6区 18.0 ジュリアス・ギタヒ(日清食品) 50:30
7区 16.4 渡辺康幸(エスビー食品) 47:15

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