97〜98 駅 伝 時 評

98 横浜国際女子駅伝
【 圧勝の4連勝 その強さは本物か ! 】

  駅伝の実況は午後2時5分からである。それまでは別大マラソンを観るか。
面白くなければ途中からラグビー(日本選手権の決勝)で時間をつなごうか…
…。2月1日、どういうわけかビッグなスポーツ放送が3つもある。どうやら
長野オリンピックのせいらしい。いずれにしても放送の時間帯がぶつかりあい、
何を中心に観ようか……と、いささか迷う日曜日であった。

 清水昭のものすごい追走がはじまってから、ラグビーはあきらめた。男子マラ
ソンにニュー・エース誕生か! 最近ではめずらしく清々しさを感じさせる走り
だった。とうとう駅伝のスタート直前まで別大マラソンを観てしまった。

 横浜国際女子駅伝、日本で生まれた「駅伝」をインターナショナルな競技へと
グレードアップさせた大会である。そういう意味で「都道府県女子駅伝」ととも
に、女子駅伝の振興に大きな役割を果たしてきたといえる。日本の中・長距離、
マラソンのトップランナーはほとんど例外なく、ナショナルチームの一員として、
この横浜を走っている。横浜でジャパンのユニフォームを着て走る……。ある時
期までそれは日本のトップランナーの証でもあった。

 発足当時からしばらく、日本のナショナル・チームは、都道府県女子で活躍し
た選手を中心に選抜された。その時点で考えられる最強のオーダー編成だったが、
ソ連やイギリス、オーストラリア、ルーマニア、中国などにとうていおよばなか
った。近年のナショナルチームはどうか。顔ぶれからみて、かならずしも最強と
はいえない。それでも今大会まで3連勝中である。やってくる外国チームの顔ぶ
れ、さらには選手のコンディションにも問題はあるだろう。けれども、それらを
割り引いても、この数年で日本女子の実力が飛躍的に向上したことは確かである。

 「横浜女子駅伝」開催の真のねらいは女子の中・長距離の強化だったろう。駅
伝ならば数多くのランナーが集められる。ソ連、アメリカ、イギリス、ルーマニ
ア、オーストラリア、中国……、最初のころは著名な実力あるランナーたちがや
ってきて、それぞれ感動の走りをみせてくれた。日本の女子が強くなったのは、
そういう世界のトップランナーたちを選手たちが、直かに眼にしたからだろうと
思う。

 4連覇をねらう日本のナショナルチームは1区から一人旅だった。中国もロシ
アもルーマニアも追いすがることができなかった。どんどん逃げてゆく日本のは
るか後ろで、優勝を争うとみられていた3強は、地域選抜チームとはげしく2位
を争っていた。中国やケニアのように今年の外国勢は風邪で体調を崩す選手が多
かったという。それにしても、今年は地域選抜の健闘がきわだっていた。2位の
九州選抜を筆頭にして、国内の地域代表が5チームまでも10位以内にきている
のである。

 最大のライバルと思われた中国は出遅れが致命的、ロシアはオバアちゃん選手
ばかりでパワー不足、驚異の的といわれたケニアは体調が万全でなく、2区で早
くも圏外に去ってしまった。ルーマニアもいまひとつ流れにのれなかった。日本
代表(平均年齢21.2歳)はほんとうに強かったのか。それとも今年の外国勢が弱
すぎたのか……。

 危なげなく4連覇をとげた日本は、6区間のうち5区間までを制覇している。
4区の菅原美和は惜しくも区間2位に終わったが、区間賞を獲ったロシアのコピ
トワとの差はわずか8秒でしかなかった。ほとんど完全優勝といっていい内容で
ある。今季になって急成長した永山育美(1区)、大南博美(2区)、田中めぐ
み(5区)などは、実績からみてうなずけるが、初出場の小鳥田貴子(3区)、
竹元久美子(6区)までが区間最高をマークするのだから、勢いというものは恐
ろしい。

 弱点とおもわれた4区の小鳥田、ところが区間新の快走である。独走態勢をか
ためた彼女の走りによって、日本の4連覇は決定的なものとなった。小鳥田、菅
原、竹元……。このレベルのランナーなら、地域選抜のなかにもたくさんいる。
彼女たち3人はたしかに今季絶好調だが、JAPANのユニフォームを着たとい
う緊張感が、むしろプラス面にはたらいたのだろうと思う。逆にいえば、ほかの
地域選抜のランナーたちもJAPANのユニフォームを着れば、小鳥田や竹元に
なりうるのだ。それほど現在の日本女子長距離界の選手層は分厚くなっていると
いうべきだろう。

 最優秀選手には永山育美が選ばれた。これまでの区間記録を25秒も短縮した
彼女の走りはきわだっていた。今大会だけでなく、今シーズンの女子駅伝を通じ
ての最優秀選手だといってもいい。永山は今シーズン3回(今大会のほか、全日
本実業団女子ー3区、都道府県女子ー1区)走って、すべて区間最高をマークし
ている。持ちまえの勝負強さにくわえて、どんどんと前に出てゆく積極的な走り
には、いかにも駅伝向きで、好感がもてるのである。

 目標のあるランナーは強いなあとつくづく思う。たとえば大南博美、大南敬美
(東海・北陸選抜)の双子の姉妹は、ともに2区に起用され、区間1、2位を占
めた。たがいにいい意味でのライバル心をかきたた結果によるものであろう。九
州選抜の5区、片山弘美の粘り強い走りも相手にめぐまれたからだった。本来の
走りではなかったとはいえ、中国のエース・劉世香は世界でも有数のランナーで
ある。最後は振りきられたが、激しい競り合いは自信につながるはずである。

 世界に追いつき追い越せ……。今や横浜国際駅伝の当初の目標を完全にクリア
した日本女子の長距離陣だが、それはあくまで団体競技の駅伝レベルでいえるこ
とである。個のランナーとして外国のトップランナーと互角に渡り合うには、ま
だまだ力不足だと思う。オリンピックも世界選手権もない、いわば狭間の今年か
ら、目標をさらに高く掲げて、再出発してほしい。(98/02/02)

総合成績
1 日   本 2:15:07
2 九   州 2:17:48
3 中   国 2:18:00
4 ロ シ ア 2:18:07
5 ルーマニア 2:19:04
6 近   畿 2:19:47
7 東海・北陸 2:19:52
8 関東・東京 2:19:55
9 中国・四国 2:21:18
10 英   国 2:21:59


区間優勝者
1区 5キロ 永山 育美(日本) 15:29
2区 10キロ 大南 博美(日本) 32:11
3区 6キロ 小鳥田貴子(日本) 19:10
4区 6.195 コピトワ (ロシア) 19:28
5区 10キロ 田中めぐみ(日本) 32:56
6区 5キロ 竹元久美子(日本) 15:45

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