97〜98 駅 伝 時 評

16th 全国都道府県対抗女子駅伝
【 長距離王国・埼玉の幕あけ! 】

 現在の駅伝ブームのきっかけをつくったのが、都道府県対抗形式の本大会であ
る。15年前の1983年が第1回だから、今年で16回を数える。全日本実業団女
子駅伝はその翌年から始まっている。現在、女子駅伝の最高峰といえば全日本実
業団だろうが、7〜8年前までは「都道府県女子」のほうが、名実ともはるかに
格上の大会であった。

 最近の都道府県女子は、どちらかというと女子駅伝のシーズン最後を飾るエキ
ビジョン的要素が強くなった。実業団のトップクラスの選手は、あまり出てこな
いようである。むしろ発展途上の中学生、高校生中心の大会といっていいだろう。
第7回大会ぐらいまでは、日本の長距離のトップランナーたちの顔がそろってい
た。彼女たちは、いずれもこの大会を目標にして、ベストの状態でのぞんできた
ように思う。

 そこで第1回から第7回までの大会記録をさかのぼってみた。区間賞を獲得し
た選手たちの名を眼で追いながら、そこにはものすごいランナーたちがまじって
いることに、あらためて驚いてしまう。深尾真美、佐々木七恵、小島和江、荒木
久美、山下佐知子、鈴木博美、吉田直美、松野明美、朝比奈美代子……。いずれ
も日本を代表するマラソンランナーたちである。昨年の世界選手権で優勝した鈴
木博美は、4回、6〜7回と三度も区間賞をとっているが、最初の4回大会のと
きは高校生(市立船橋)だった。6回大会の吉田直美も高校3年(京都・網野高
校)だった。彼女たちの多くは、この大会をきっかけにして日本のトップランナ
ーに巣立っていったのである。そういう意味で「都道府県女子」は、日本の長距
離界のスターたちを生み出してきた大会であった。

 京都に生まれ育ち、現在は埼玉在住……。そんなわけで、このレースも年末の
高校駅伝(女子)と同じように、熱くなって観てしまった。1区では鹿児島が奪
首したが2区では埼玉がトップに立ち、3区からは埼玉と京都のマッチレースの
様相となった。埼玉栄と立命館宇治が再び対決……。高校生同士の勝負がモロに
最終成績にも反映されたレースだったと思う。

 埼玉の初優勝の立役者は1区・小島江実子(埼玉栄)だろう。暮れの高校駅伝
と同じように競技場を出てから、積極的にトップ集団に食いつき、高橋千恵美
(宮城)や岡本幸子(宮崎)など実業団のトップランナーをまとめて切りすてた。
今シーズン絶好調の永山育美(鹿児島ー京セラ)にこそ遅れたが、区間新の快走
である。そして2区の田中梨沙(埼玉栄)で、やすやすとトップに立ってしまう。
二人とも高校駅伝3連覇の勢いをそのまま持ち込んだ凄みある走りであった。

 埼玉の大森国男監督は、6区で区間賞の小塚文乃(あさひ銀行)が先行する京
都に追いついたときに勝利を確信したという。レースのポイントになる1区を高
校生で乗りきり、中盤の要所に実業団の小塚を配することのできる選手層の厚さ、
埼玉は2重、3重に勝利への伏線を張りめぐらしていた。

 2位の京都は結果的に駒が1枚足りなかった。それを承知のうえで1区に早狩
実紀(三和銀行)2区に志水見千子(リクルート)を配し、実績のある両実業団
選手でトップに立ち、中盤までに貯金をつくる作戦だったろう。早狩も志水も悪
くなかったが、それ以上に埼玉のデキがよすぎた。だが15秒遅れの2位は健闘
の部類だろう。8区を終わってトップをゆく埼玉とのタイム差は、わずか10秒
……、埼玉のアンカーは、今季急成長の田中めぐみである。中井美々子(京産大)
では、きっと大差をつけられるだろうと思っていた。田中のデキはいまひとつだ
ったが、5秒遅れの粘走はなかなかのものだと思う。京都は区間賞こそなかった
ものの、全員それぞれが安定した走りでタスキをつないだ。地の利もあるだろう
が京都の総合力を評価したい。

 昨年優勝の熊本は、オーダーからみて今年は苦戦とみていたが、終わってみる
と3位にきている。4位の宮城ともども、その底力はさすがである。5位兵庫、
6位鹿児島、7位広島、8位福岡、9位愛知、10位山口……とうのは、まずま
ず順当なところか。そのほかでは13位には福島、15位には山形がくいこんだ。
ともに大健闘というべきだろう。

 テレビの映像ならばこそのみどころもいくつかあった。たとえば2区でのトッ
プ争い。逃げる鹿児島・里村桂(京セラ)と追う埼玉・田中梨沙のデッドヒート、
その背後からひたひたと迫る宮城・菅原美和……。迫力満点のシーンであった。
里村と田中は埼玉栄の先輩と後輩の争い、そういう意味でも興味深いものがった。
埼玉・小塚文乃と京都・桝本絵美のトップ争いも眼がはなせなかった。追う小塚
はタスキ渡しのときにようやく追いついたが、桝本は最後までトップをゆずらな
かった。高校一年生(立命館宇治)ながら、粘りのある走りに将来性を感じさせ
るものがあった。そのほかテレビにはあまり写らなかったが、9区での岐阜・高
橋尚子(積水化学)の10人抜きもみごとだった。「ふるさと選手」として出場
した弘山晴美(徳島)や高橋千恵美(宮城)などトップ選手たちが今ひとつ精彩
を欠いていただけに、高橋尚子の走りにはひときわ光るものがあった。

 埼玉の大森監督は「長距離王国・埼玉の幕開け……」ときっぱり言いきった。
埼玉のメンバー構成をみると9人のうち6人までが、埼玉栄(卒業生二人をふく
む)の選手たちである。今回の優勝は、いわば<オール埼玉栄>でもぎとったも
のである。さらに同日おこなわれた埼玉駅伝では、京都にこなかった1、2年生
だけで圧勝している。大森監督の言うように、このままでは埼玉の王座は当分ゆ
るがないかもしれない。会社の名前を戴いて走る大会ではないから……と、敬遠
するのではなく、実業団のトップ選手たちの多くが、ベストの状態で出場してほ
しい。そして「ふるさと選手」として感動の走りをみせ、埼玉を脅かしてほしい
と思うのだが、それは無いモノねだりか……。
(98/01/12)                                                           

総合成績
埼 玉 2:16:54
京 都 2:17:09
熊 本 2:18:34
宮 城 2:18:51
兵 庫 2:19:11
鹿児島 2:19:16
広 島 2:19:25
福 岡 2:19:36
愛 知 2:19:59
10 山 口 2:20:02
11 大 阪 2:20:33
12 長 崎 2:20:40
13 福 島 2:20:52
14 岐 阜 2:21:15
15 山 形 2:21:18

区間優勝者
1区 6キロ 永山 育美(鹿児島) 19:00
2区 4キロ 菅原 美和(宮城) 12:29
3区 3キロ 土屋 玲子(静岡) 09:33
4区 4キロ 竹元久美子(埼玉) 12:59
5区 4.1075 三田有貴子(千葉) 13:14
6区 4.0875 小塚 文乃(埼玉) 12:54
7区 4キロ 橋本 知子(埼玉) 12:31
8区 3キロ 田顔 朋美(静岡) 10:03
9区 10キロ 大南 博美(愛知)
高橋 尚子(岐阜)
31:44
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