98〜99 駅 伝 時 評

18th 全日本実業団女子駅伝
【 駅 伝 の お も し ろ さ を 満 喫! 】

いやあー、駅伝って、本当におもしろいですねえ……。
 かの映画解説者の名セリフを借りて、思わずそのように叫びたくなるようなレースだった。女子駅伝日本一を競う今年の女子実業団駅伝、ほんの一瞬たりとも眼はなしできないほど白熱の展開だった。区間ごとにめまぐるしく順位が動いた。1区ノーリツ、2区東海銀行、3区ノーリツ、4区NEC、5区東海銀行……。最終的には東海銀行が悲願の初優勝を果たしたが、とうとう最後までテレビの前をはなれられなかった。

 駅伝は走ってみなければ分からない……といわれるが、最初の第1区から波乱含みの展開だった。1区を制したのはノーリツ(小崎まり)、2位は川鉄千葉(玉虫智子)という展開、優勝候補の一角・東海銀行は手堅く3位につけたが、他の主力どころは大きく遅れた。3連覇を狙う沖電気宮崎は約20秒差の15位、京セラは23秒差の16位、積水化学は1分15秒差の28位と出遅れて、早くもこの段階で優勝圏外に去ってしまった。主力が追いかける展開になったために、レースはにわかに面白くなったのである。

 1区でモツレた優勝のゆくえも、東海銀行(橋口めぐみ)が2区でトップに立ち、3区以降は東海の主導でレースは進むものと思われた。ところが3区で、またまたモツレたのである。エース区間を受け持つ梁英が区間10位の凡走、ノーリツ(薫朝霞)、京セラ(永山育美)、NEC(竹元久美子)らに交わされ、トップから35秒差の5位まで落ちてしまった。天満屋も7位から4位まで押し上げ、優勝戦線に顔をのぞかせてきてた。東海がきちっと流れにのれなかったために、レースは再び乱戦模様になってしまった。

 最近の駅伝は、長い距離のエース区間よりも、むしろ繋ぎの区間といわれる短い距離の区間で明暗が分かれるケースが多い。このレースの勝負を決めたのも4区(4.1キロ)であった。東海の高成田のぞみが区間賞の快走、順位こそ1つしか上げられなかったが、トップと12秒差まで詰め、5区の大南敬美でトップに立つ足がかりをつくった。最後は川島亜希子が区間新の走りでしめくくった。5区、6区で優勝を決めたのだが、3区でひとたび失いかけた勝利のリズムを呼びもどしたのは高成田なのである。短い区間できちっと結果を出した2区の橋口、4区高成田、この2人こそが初優勝の殊勲者というべきであろう。

 最終結果だけを見ると、1区で出遅れた積水化学は5区高橋尚子の快走で3位、沖電気宮崎も5区川上優子のけんめいの走りで4位まであがってきた。けれども両チームとも優勝争いには絡んでこれなかった。優勝争いとは無縁の真空地帯で気楽に闘ったがゆえに最終的にそれぞれ3〜4位に来たのである。結果はまずまずかもしれないが、プロセスはまったく評価できない。

 最後まで優勝を争ったのは、京セラ(最終5位)、NEC(最終7位)と2位の天満屋である。とくに天満屋は4区、5区でトップに立つなど大健闘、5区を終わった時点でもトップ東海との差は、わずか12秒だった。京セラ、NECも最終結果では積水や沖電気に先んじられたが、優勝を争ったすえの結果だから、その健闘ぶりは着順以上に高く評価できる。ほかでは、いつのまにか6位まであがってきた「あさひ銀行」も大健闘の部類だろう。

 区間ごとの展開もみどころが多かった。とくに1区、3区、5区がおもしろかった。1区は小崎まり(ノーリツ)、玉虫智子(川鉄千葉)、大南博美(東海銀行)のデッドヒートは迫力があった。最後に小崎がトップを奪ったのは、千葉国際でJAPANのユニフォームを着た余韻が残っていたからだろう。3区は今年の女子MVP候補・竹元久美子と昨年のMVP・永山育美、さらに薫朝霞(ノーリツ)によるラスト300の争い。5区は4位からあがってきた東海・大南敬美と天満屋・山口衛里の8キロすぎからの駆け引き。それぞれ見応えがあった。

 個人にスポットを当てると、まずは日立のエスタ・ワンジロ(3区)である。31分10秒というタイムも凄いが、20人ぬきも新記録だという。下位でもごぼう抜きというドラマがあるから駅伝はおもしろい。最長区間の5区では、高橋尚子の走りが圧巻だった。トップと1分38秒遅れでタスキを受けた高橋は、9人抜きで一気に3位まであがり、タイム的にもトップと26秒差まで詰めている。アジア大会でも期待できそうである。

 優勝候補の呼び声高かった沖電気宮崎、積水化学、京セラ、東海銀行のビッグ4のうち、結果的に最もミスの少なかった東海が優勝したかたちである。他の3チームは今回にかぎってバラツキが大きすぎたようである。不運といえばそれまでだが、運気を引き寄せるのも実力のうちというべきだろう。

 それにしても女子駅伝の盛衰は実に激しいものがある。かつての王者リクルートは終始下位を低迷、ワコールや旭化成にいたっては、出場も出来ないありさまである。3年前に第6区で区間新をマークしたワコールの真木和が、テレビ中継のゲスト出演、まだまだ選手として老ける歳でもないのに、放送席にどっかりおさまっていた。あの華麗な走りを、ふたたび観ることはできないかもしれないと思うと、ちょっぴり寂しい気もする。女子の選手生命が総じで短いのは、駅伝に関するかぎり、男子にくらべて女子のほうが、はるかに消耗度がはげしい競技だということの証なのだろうか。

(1998/11/29 岐阜県長良川競技場発着)
☆東海銀行(大南博、橋口、梁、高成田、大南敬、川島亜)</PRE>

総合成績
東海銀行 2:15:13
天満屋 2:16:01
積水化学 2:16:19
沖電気宮崎 2:16:35
京セラ 2:16:48
あさひ銀行 2:17:26
NEC 2:17:52
ノーリツ 2:18:29
富士銀行 2:18:31
10 ダイハツ 2:18:56
11 デオデオ 2:19:21
12 川崎製鉄千葉 2:19:28
13 ラ ラ ラ 2:19:38
14 日本ケミコン 2:19:55
15 岩田屋 2:20:08
16 スズキ 20:20:12
17 日立 2:20:28
18 日本生命 2:21:03
19 横浜銀行 2:21:24
20 九電工 2:21:24

区間優勝者

6.6 小崎 まり(ノーリツ)  20:50
3.3 小林 雅代(天満屋)  10:18
10.0 エスタ・ワンジロ(日立)  31:10
4.1 高成田のぞみ(東海銀行)  12:56
11.6 高橋 尚子(積水化学)  36:31
6.595 川島亜希子(東海銀行)  20:44

もどる