98〜99 駅 伝 時 評

30th 全日本大学駅伝
【 駒 澤 時 代 の 到 来 か ! 】

 昨年そして今年の学生長距離界は絶対的なエースがいない。全体的なレベルは
向上しているようだが、たとえば、かつての渡辺康幸やオツオリ、マヤカのよう
にスーパー・スターは見あたらない。各大学ともに科学的なトレーニング・シス
テムを導入しているから、昔のような大ブレーキというのも少なくなった。だか
ら上位争いでのゴボウぬきや最終区での大逆転というシーンもみられなくなった。
たとえば今年の神奈川大である。あれほどの実力がありながら、1区のつまずき
を最後までリカバリーできなかった。

 実力は紙一重なのだから、勝負のゆくえは当日のコンディションやレース展開
に大きく左右される。そして選手の1人ひとりが、いかに精神的でタフであるか
……が、最後の決め手になってくる。そういう意味で競技スポーツとしての駅伝
は、選手にとってますますハードになってゆくのではないか。

 第30回を数える今年の「全日本大学駅伝対校選手権」(11/01 熱田神宮〜伊
勢神宮=8区間106・8キロ)は、出雲を制した駒澤大、3連覇を狙う神奈川
大、そして山梨学を加えた3強に新興勢力の拓殖大、古豪・中央大がどのように
絡んでくるか。さらには出雲で健闘した京産大が上位の一角をくずすか。みどこ
ろはいくつもあった。

 私の興味は出雲でいまひとつだった神奈川大の動向にあった。昨年のように圧
倒的な力での巻き返しがなるのか。神奈川大をモノサシにして、昨年とは一味ち
がう駒澤の寸法を測ってみたかった。

 実力は「ヨコならび」、絶対的なエース不在……。ならばスタートでリズムを
つかんだチームが有利になる。やはり出雲と同じように、1、2区の流れが勝負
のゆくえを決めるだろうとみていたが、初優勝をめざす駒澤と3連覇を狙う神奈
川、スタートの1区で明暗がはっきりしてしまった。

 第1区で11キロ付近で神奈川の飯島は遅れはじめた。駒澤と山梨の対決……
そういう構図が、この時点ではっきりみえてしまったのである。駒澤は3区大西
雄三でトップに立ち、追ってくる山梨に56秒をつけて独走態勢をきずいたが、
駒澤初優勝の流れをつくったのは2区の佐藤裕之である。3秒差の2位でタスキ
をうけた佐藤は、すぐに先をゆく京産大の前田貴史をとらえた。2人は併走して
いるように見えたが、佐藤のほうが主導権をにぎっていた。まるで京産大など眼
中にないといわんばかりに、終始自分のペースでレースを創っていた。相手は後
ろからくる山梨だとみての沈着なレース運び、心理的な闘いで完全に一歩先んじ
ていた。

 1区で11位と予想外の遅れをとった神奈川は、勝負の流れに乗りそこなった
ときのモロさをさらけだす格好になった。中盤から追いあげ最終区では5位まで
押しあげたが、トップ駒澤には5分26秒も遅れ、発展途上の拓大にもおいてゆ
かれた。箱根連覇にも赤信号が点滅しはじめたとみるべきか。

 3年連続2位の山梨は終始40〜50秒差で追走していたが、5区のワチーラ
も追いきれず、最終区の古田哲弘にいたってはかえって離されるありさま、絶好
のポジションにつけながら、全般的に流れにのってゆけなかった。チームのまと
まりという点ではいまひとつ疑問がのこる。

 だが、ようやくにして古田哲弘に復活の兆しがみえはじめた。山梨にとっては
明るい材料のひとつだろう。今年の古田は出雲のときから髪をのばして登場して
きた。丸坊主の風貌がいかにも個性的だっただけに「おやっ」と思った。けれど
も、はっきり言って、似合っていない。まるでカツラをつけて出てきたようで、
どこか迫力を欠き、風貌からオーラが感じられないのである。もういちど丸坊主
にして、あの相手を威圧するような風貌と鋭い眼光をとりもどしてほしいと思う
のだが、いかがなものだろうか。とにかく箱根では爆走を期待したい。

 2度目の出場で3位にとびこんだ拓大は大健闘。1区から終始5位以内につけ
ての堅実なレースぶりは箱根でも驚異になるだろう。そのほかでは中央大にいく
らか復活の兆しがみえ、1週間まえに箱根の予選会を走ったばかりの東海大は7
位ながら、順天堂、早稲田に先着、底力を感じさせられた。

 関東の大学以外では、ひそかに3強の一角崩しをねらっていた京産大だろう。
1区・細川道隆の区間賞で奪首、3区の途中までトップに立って前半をもりあげ
た。最後は6位に終わったが、来年以降に期待感をもたせるレースぶりだった。
わずかの差で2区の区間賞を駒澤の佐藤に奪われた前田貴史は、レース後のイン
タービューで、「ぼくたちには箱根がないから、来年のインカレでお返しをする
……」と言い放った。関東勢と互角に戦えるところまで、あと一息のところまで
きている。

 駒澤の勝因は4年生の充実に加えて、揖斐祐治や神屋伸行など新戦力がうまく
かみあって、チーム全体が活性化されたからだろう。終わってみれば8区のうち
5区まで区間賞をとっていた。まさに圧勝である。レース後のインタービューで
監督の森本葵は「千載一遇のチャンス! 他校がやれなかったことを1年でやる」
と、きっぱり言いきった。その強気な発言の裏側には、神奈川であろうと山梨で
あろうと、もう怖くも何ともない……という傲慢さが見え隠れしている。

 全日本大学駅伝といえども、関東の各大学にとっては「箱根に向けて各校の実
力を探る」大会と位置づけである。そういう意味で神奈川も山梨も、ベストで臨
んできたとはいえないだろう。戦力をととのえて、本戦では確実に巻き返してほ
しい。再び「言いたい放題」の餌食にならないように……。

総合成績
順位
チーム名
記 録
1 駒澤大学 5:17:48
2 山梨学院大学 5:19:14
3 拓殖大学 5:21:58
4 神奈川大学 5:23:14
5 中央大学 5:26:09
6 京都産業大学 5:26:36
7 東海大学 5:27:49
8 順天堂大学 5:29:20
9 早稲田大学 5:29:57
10 第一工業大学 5:34:17
11 大東文化大学 5:34:52
12 広島経済大学 5:35:02
13 鹿屋体育大学 5:35:31
14 名古屋商科大学 5:42:12
15 福岡大学 5:44:08
16 龍谷大学 5:47:35
17 奈良産業大学 5:48:04
18 名古屋大学 5:49:28
19 徳山大学 5:49:54
20 中京大学 5:51:02


区間優勝者
区間 チーム名 選 手 名 記録
第1区(14.6) 京産大 細川 道隆 0:43:44
第2区(13.2) 駒大 佐藤 裕之 0:38:16
第3区(09.5) 駒大 大西 雄三 0:27:33
第4区(14.0) 第一工大 ドリウッジ 0:41:21
第5区(11.6) 駒大 北田 初男 0:34:46
第6区(12.3) 駒大 神屋 伸行 0:36:37
第7区(11.9) 山学大 大崎 悟史 0:36:05
第8区(19.7) 駒大 藤田 敦史 0:58:17

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