98〜99 駅 伝 時 評

14th 東日本女子駅伝
【遅咲きのランナーと高校生軍団が活躍!】

 福島県・三春町に「滝桜」という桜の巨木がある。3年ほどまえ、東北道をす
っとばして、同地の知人を訪ねたことがある。桜はほとんど散っていたが、樹齢
500年とも700年ともいわれるその老巨木の壮大さは、ぼくの想像をはるか
に超えていた。勤めを休んで付き合ってくれた知人が、「これ、ぼくの出た高校
……」と言って、クルマを止めたのが田村高校の前だった。自然にめぐまれた山
あいの静かな町に息きづく田村高校、その生徒たちが今年の東日本女子駅伝をも
りあげた。

 第14回東日本駅伝(福島市・信夫ヶ丘競技場発着、9区間 42.195キロ)は、
11月8日(日)、関東の18都道府県のチームが参加して行われた。ローカル
駅伝だから……と、あまり期待していなかったが、終始テレビのまえから離れら
れなかった。トップがめまぐるしく入れ替わる。思いがけず面白いレースにめぐ
りあったという感じであった。

 各チームのオーダーからすれば、やはり原万里子・竹元久美子が名をつらねる
東京が1枚抜けた存在、さらに対抗の宮城が高橋千恵美を欠いているだけに、圧
勝するだろうと思われた。そんな楽勝ムードの東京を慌てさせたのが、要所に実
業団選手をならべる宮城でも千葉でもなかった。田村高校の生徒を中心にした地
元の福島であった。最終10キロ区間の駒不足で4位が終わったが、福島はレー
スのほとんどを支配していた。

 最初のみどころはスタートの1区(6キロ)。3キロあたりで抜け出した東京
の原万里子、宮城の菅原美和、福島の渡辺芳子の先頭争いは迫力があった。ちょ
っと右向きかげんのフォームで正確にピッチをきざむ原、ひたむきに前をみつめ
る菅原のリズミカルな走り、柔らかく、それでいてシャープな渡辺、個性的で好
対照をなす組み合わせであった。4.6キロで原がスパート、渡辺は追ったが、
菅原は遅れた。5.3キロで、こんどは渡辺がスパートしてトップに立つ。とこ
ろが中継点直前で、それまで遅れていた菅原がもりかえして原をとらえ、最後は
渡辺に2秒差まで迫った。大学生の意地というべきか。

 原と菅原をあっさり葬った高校生・渡辺、最後は区間新記録というオマケまで
ついた。何よりも名前負けしなかったところが頼もしい。この渡辺の激走によっ
て、福島は一気に流れに乗った。2区の菅野勝子は宮城の岡本由美子3.8キロ
付近で交わされるが、区間新の快走、6区まで宮城とはげしくトップを奪い合う
という展開になる。田村高校の選手たちは全員が好走、暮れの高校駅伝での期待
が高まった。

 優勝候補の東京は前半から中盤にかけて、まったくリズムをつくれなかった。
3位〜4位に付けてはいたが、最終区までは区間賞もなく、いまひとつ精彩を欠
いていた。福島とトップを奪い合っていた宮城も、6区では30秒、8区では1
分30秒も遅れ、勝負どころで伸びなかった。中盤から後半になかえて健闘した
のは千葉である。1区6位と出遅れ、3区では7位に落ちたが、4区の秦理恵、
5区の熊谷順子が区間賞で追いあげ、7区では東京を抜いて3位、総合2位の足
ががかりを築いた。

 ほかでは3区で11位から6人抜きで長野を5位まで押し上げた中学一年の下
村茜、その迫力あふれる走りに眼を奪われた。中学生の区間は4、8区だが、あ
えてこの区間に出て、区間賞の快走である。テレビでは一瞬しか映らなかったが、
大人顔負けの力感あふれる走りとは裏腹に、全身からは少女というより、こども
らしいあどけなさが匂い立っていて、そのミスマッチぐあいが妙におかしかった。

 最大のみどころは奇しくも最終の9区にやってきた。トップ福島(島貫美由紀)
を1分30秒遅れで宮城(田中梨沙)と千葉(熊谷真由美)が、1分45秒遅れ
で東京(竹元久美子)が追うという展開である。勝負のゆくえはその時点ではっ
きりみえた。後続の3強がいつ、どのように福島をとらえるか。とくに昨年から
頭角を現し、今年にはいって大ブレイクした東京の竹元久美子がいつ動き出すか。
興味はその一点にしぼられた。

 竹元は2.7キロで前をゆく宮城、千葉をとらえるのだが、すぐには前に出な
い。中間点まで併走しながら力を溜め、5キロすぎて少しずつピッチをあげて、
5.9キロでやっとトップに立った。とても実業団2年目、19歳の若手ランナ
ーとは思えないレース巧者ぶりであった。この竹元の冷静な勝負勘によって、東
京はやっと勝利を手中にしたのであった。千葉と宮城の2位争いは最後までもつ
れたが、最後に千葉・熊谷が社会人1年目の宮城・田中を振りきった

 競技場に竹元久美子がとびこんできたとき、彼女の顔から一瞬笑みがこぼれた。
勝者の笑顔はいつも透明感にあふれていて、独特の美しさがある。埼玉栄時代は
下積みに終始、インターハイも国体も高校駅伝にも縁がなかったランナーが、今
年になって、にわかに主役候補のひとりになりつつある。昨年の永山育美のよう
な活躍を期待したい。

 この大会は静岡以北の都道府県対抗駅伝のかたちをとっている。それゆえ、す
べての参加チームがベストメンバーで出てきてほしい。だが日程的な問題で、そ
れがかなわないようだ。昨年もそうだったが、同じ日に東京、埼玉、千葉、静岡
で高校駅伝の予選会が行われている。最強軍団・埼玉栄をもつ埼玉が最下位にな
るようなチームでしか出場してこない。これでは、大会そのものが今ひとつもり
あがりを欠くように思う。何か名案はないものか。
総合成績
順位
チーム名
記 録
1 東   京 2:21:24
2 千   葉 2:21:53
3 宮   城 2:22:15
4 福   島 2:22:33
5 茨   城 2:24:16
6 栃   木 2:24:29
7 北 海 道 2:25:01
8 神 奈 川 2:25:09
9 長   野 2:26:03
10 山   梨 2:26:19

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