98〜99 駅 伝 時 評

98 全国高校駅伝
【独り旅で連覇の西脇工、最終逆転で初制覇の田村!】

 全国高校駅伝が京都でひらかれるようになってから、今年で32年を数えると
いう。いまではすっかり師走の風物詩になった感がある。今年は男子は49回、
女子は10回の記念大会である。12月20日、男子は47校、女子は11の地区代表を
くわえて58校が西京極競技場に集い、選手たちはそれぞれ熱い思いを1本のタス
キにたくして、歳末の京都市街をひた走った。

 女子の場合はトップに登りつめても、監督の交代とともに一時代が終わるよう
である。仙台育英も2連覇で主役を去り、3連覇の埼玉栄も大森国夫監督なきあ
とは、もとの平凡なチームにもどってしまった。それにしても今年は32位、地
区大会で出場権を得た鳩山にも遅れるありさまはどうしたことなのか。あまりに
もだらしない。女子の駅伝は〈監督しだい〉ということの証左なのだろうか。そ
んなわけで今回は新しい女王の座を争うという意味で興味ある大会となった。

 予選タイムからみて、1時間8分台の諫早、西京、須磨女子、3千メートル平
均タイムで上位の立命館宇治、筑紫女学園などが第1グループにあげられていた。
ところが駅伝のレースは持ちタイムどおりに運ぶわけではない。優勝したのは予
選タイムでベスト10にも入れなかった田村だった。そして、県予選で敗れ、地区
代表枠で出場した熊本市商が2着にはいった。

 レース展開からみると最長区間の1区がポイントだった。スーパーエースを藤
永をもつ諫早のトップは予想どうりだったが、候補の西京は52秒差の14位、須磨
子も40秒差の10位と出遅れてしまった。そして、この時点でトップと19秒差の3
位という好位置につけた田村に勝機がめぐってきたのである。2区の鴫原でトッ
プに立った田村は、一時4区で熊本市商に交わされるのだが、最終5区の菅野で
あっさり逆転してしまう。下重監督は「3区を終わった時点で勝利を確信した」
というから、菅野の走りによほどの自信があったのだろう。

 初優勝・田村の伏線は東日本女子駅伝にある。今回に出場した5人のメンバー
のうち、渡辺、菅野、鴫原、阿部の4人までが福島チームの主力メンバーとして
出場、それぞれ好走している。とくに1区を走った渡辺芳子は、原万里子や菅原
美和などと競り合って区間賞の快走、区間新というオマケまでついた。2区の菅
野勝子も岡本由美子には競り負けたが区間新をマークしている。田村高の4人に
よって福島は最後まではげしく優勝を争っていた。最終的には4位に沈んだが、
それはアンカーに人材を欠いたからである。10キロ区間をきちっと走れるランナ
ーがいたら、福島は田村勢の活躍によってまちがいなく優勝していた。

 田村の選手たちはいずれも競り合いに強い。並ばれても、かんたんには抜かせ
ない。そういう勝負強さは、あの東日本女子駅伝で、大学生や実業団選手と競り
合った経験から生まれたのだろうと思う。渡辺芳子と菅野勝子は田村の2枚看板
だが、今大会では2区の鴫原美由紀が光った。タスキをつなぐ直前、立命館宇治
の桝本とのデッドヒートを制してトップに立った走りはチーム全体を勢いづけた
といっていい。

 優勝候補の1番手といわれた諫早は1区でリードをひろげられなかったのが敗
因。1区で19秒しか貯金ができずに、2区以降のランナーにプレッシャーをもた
らしてしまった。諫早にとって優勝するには前半のすべて……。区間新まちがい
なしと思われた藤永佳子の走りに微妙なくるいが出たのは、きっと彼女自身がそ
ういうチーム事情を知っていたからだろうと思う。1区で出遅れた西京、須磨女
子、筑紫女学園も2区から追い上げ、3区ではトップから32秒差の圏内にきて
いる。だが、それまでにエネルギーを使い果たしたようである。

 4区でトップに立った熊本市商は、私たちをアッといわせた。地区大会を勝ち
上がってきたチームだけにノーマークだったが、調べてみると昨年10位のチーム
なのである。県予選では信愛女学院(本大会8位)に敗れたが、大舞台では雪辱
した。男子ではこのところ5年つづきで兵庫県勢が全国制覇、兵庫を制する学校
が全国を制するというわれる。信愛女学院と熊本市商が競り合ってゆけば近い将
来、西脇工と報徳のような関係になるかもしれない。

 女子の選手たちの多くは、来年1月17日の全国都道府県女子駅伝のメンバー
として、また京都にやってくるだろう。藤永の区間新の快走は、そのときまでお
預けというわけか。

 大牟田と西脇工のビッグ2対決……。男子は予想どうりの展開になった。駅伝
はタイムではない……というのは、西脇工・渡辺監督の持論だが、昨年につづい
て予選タイムでトップに立った大牟田がまたしても敗れたのである。

 男子の場合も最長区間の1区がすべてだった。野村佳史(大牟田)と中尾栄二
(西脇工)の競り合いでレースの先がみえてしまった。仙台育英のワイナイナー
の飛び出し、野村と中尾が追う展開も予想通り。だが4キロすぎて、野村の脱落
は思いがけなかった。この時点でライバルに33秒も遅れてしまっては、どうし
ようもない。

 野村と中尾は実力的にほぼ互角である。にもかかわらず33秒もの大差がつい
てしまう。それが駅伝である。大牟田は2年連続で兵庫県勢に敗れ、7年も優勝
から遠ざかっている。チーム全体の「勝ちたい」という意識が、野村の走りに固
さをもたらしたのではないかと思う。

 西脇工は3区でトップに立つと、あとはまったくの独り旅であった。4区以降
のランナたちは、いずれもゴールに向かってタスキを運んでゆくだけ……とうい
う感じであった。みんな気楽に走って自分の力を出しきった。渡辺監督が「ふだ
んどおりの走り……」というように、7人全員が自分に与えられた役割をきっち
り果たし、2年連続7回目の優勝を達成した。

 大牟田と西脇工、宿命の対決ばかりに目を奪われていたが、3着争いも最後ま
でもつれて面白かった。最終7区の佐久長聖、洛南、東農大二、鎮西の競り合い
は見ごたえがあった。最後は地元の応援を味方につけた洛南がぬけだしたが、初
出場で4位入賞の佐久長聖の戦いぶりも光っていた。とくに2区を走ったアジア
大会帰りの佐藤清治は、驚異的な区間新記録をマーク、迫力満点の走りに目を奪
われた。

 「故障者なし、病気もなし、全員が自分のもてる力を出し切れた」と言う西脇
工・渡辺公二監督は、「平常心でふだんどおりの走りができた」とつづけ、「そ
れぞれの区間できちんと仕事をすれば、それなりの結果が出る」とも言っている。
いずれも意味深長、含みのある物言いである。要するに「みんなが、ゆとりをも
って、平常心で走れるように、誰からがどこかでそれだけのリードを奪ってこい」
ということの裏返しである。同じことを言うにしても、あえてストレートに言わ
ない。間接話法でやんわりと説く……。渡辺マジックの一端をみる思いがした。

☆西脇工(中尾、藤原、清水将、藤井、清水智、中谷、森口)
☆田村(渡辺、鴫原、橘内、阿部、菅野)

総合成績(男子)
西脇工(兵庫) 2:03:32
大牟田(福岡) 2:05:24
洛 南(京都) 2:06:22
佐久長聖(長野) 2:06:30
埼玉栄(埼玉) 2:06:37
鎮 西(熊本) 2:96:42
東農大二(群馬) 2:06:50
有田工(佐賀) 2:07:12
米子商(鳥取) 2:07:33
10 仙台育英(宮城) 2:08:13


区間優勝者

1区 10キロ ワイナイナ(仙台育英) 29:24
2区 佐藤 清治(佐久長聖) 07:55
3区 8.1075 清水将也(西脇工) 21:25
4区 8.0875 藤井周一(西脇工) 23:27
5区 吉橋 慧(大牟田) 08:58
6区 尾田 賢典(大牟田) 14:31
7区 森口 祐介(西脇工) 13:58

総合成績(女子)
田 村(福島) 1:07:56
熊本市商(南九州) 1:08:41
諫 早(長崎) 1:08:45
西 京(山口) 1:09:07
須磨女子(兵庫) 1:09:12
筑紫女学園(福岡) 1:09:32
愛工大名電(愛知) 1:09:42
信愛女学院(熊本) 1:09:51
立命館宇治(京都) 1:09:58
10 夙川学院(近畿) 1:10:02


区間優勝者
1区 6キロ 藤永 佳子(諫早) 19:16
2区 4.0975 小林 優子(西京) 12:57
3区 山中 洋美(筑紫女学園) 09:45
4区 渡辺 美紗(熊本市商) 09:26
5区 菅野 勝子(田村) 15:31

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