98〜99　駅 伝 時 評

「箱根は遠かった！」
　国士舘・小川くんの涙声が画面の向こうから聞こえてくるようであった。テー
ピングした右足をひきずりながら顔をゆがめて走るかれの姿は悲壮感にみちてい
た。かれにとって箱根はおろか、その日のゴール地点すらも信じられないほど遠
かっただろう。

　第７５回箱根駅伝予選会は１０月２５日、大井埠頭の周回コースでおこなわれ
た。４５校、５１３人のランナーが「同じ舞台に立ちたい」という思いをこめて、
いつもながら相手のみえない駅伝を走った。だが……。出場権を獲得した６校を
のぞいて、３９校の選手たちにとって、箱根は遠かった。およそ４５０人ぐらい
の選手たちがあの小川くんと同じ悔しさを味わったのである。

　下馬評では今年の箱根１０位以下の６チーム（東洋・日体・専修・関東学院・
東海・帝京）がやはり有力、だが居残り組の亜細亜・国士・法政も巻き返しも侮
れない。さらには中央学院あたりも絡んできてくるだろうと予測された。

　例年を上回る大激戦のすえに、東海、帝京、東洋、中央学院、日体、法政が出
場権を獲得、４年ぶりの復活をめざした小川くんの国士舘は１１位、９回連続出
場の専修も９位に沈んだ。東海、帝京、東洋、日体の４校は終始上位につけ危な
げなかった。中央学院は団体走に徹して、１５キロ地点で圏内にとびこんだ。法
政は１５キロ地点で、圏内まで２７秒差の８位だったが、最後の５キロで追いあ
げ、国士舘、亜細亜をぬいて６位にとびこんだ。

　惜しかったのは帯刀の亜細亜と小川の国士舘である。国士舘は５キロで３位、
１０キロで５位、１５キロでも圏内まで１９秒差の７位につけていたが、最後の
５キロを踏ん張れなかった。亜細亜も１５キロまで６位につけていたが、やはり
最後の５キロがのびなかった。昨年、亜細亜はわずか２７秒差で泣いているから、
エース帯刀にとって期するものがあったろうが、今年も箱根は遠かったようであ
る。

　大健闘は中央学院と法政だろう。中央学院は個人１７位が最高だが、総合では
４位にはいり、７１回大会以来４年ぶり３度目の本戦出場を果たした。法政は２
年ぶりの復活である。とくに個人で５位にはいった坪田（３年）のがんばりが印
象に残った。

　本戦出場をかけた熾烈な闘いを横目にみながら、もうひとつの土俵で闘ってい
た孤独なランナーたちもいる。５８分３８秒の予選会最高タイムで、個人の部３
連覇を果たしたダニエル・ジェンガ（流通経済大）である。ジェンガは１６キロ
あたりでカーニー（平国大）とともにスパート、併走していた諏訪（東海）、帯
刀（亜細亜）をあっさり振り切った。最後は粘るカーニーを力でねじふせ、抜群
の実力をみせつけた。本戦には縁のなかったジェンガにとっては、この予選会こ
そが「箱根」だったというべきだろう。本戦に出るだけが「箱根」ではない……、
ひたむきな走りで、かれはそのように語りかけているようであった。

　予選会を勝ちあがった６校のうちでは、やはり東海が一枚ぬけている。もとも
と東海の予選会まわりは、何かの間違いだったというべきだろう。二度目の帝京
もあなどれない。本戦ではこの２校がシード校を食う可能性があるとみた。食わ
れるのは早稲田、日大、大東、順天あたりか……。

　聞くところによると、今年から参加校（選手）の資格に「５０００ｍ１８分以
内の公認記録を持つ者」という条件が付されたようである。そういえば昨年に比
べて、今年は参加校が９校、出場選手が１１０人減少している。参加資格の制限
は、予選会出場校の増加を抑えるのが狙いなのだろうか？　いずれにしても、そ
の意図がいまひとつはっきりしない。

　だいたい何を根拠にして「５０００ｍ１８分以内」なのだろうか。１８分とい
う数字にどういう意味があるのか。１７分、１９分とのあいだに、どれほどの有
意差があるのか。18分にこだわるのなら、はっきりさせるべきだろう。

　短距離選手などを登録して参加してくる学校や、予選会だけに出てくる学校の
排除……という見方もあるが、それなら、あまりにも了見がせますぎる。短距離
選手が出てきて、どこが悪いのか。短距離や中距離の選手でも、思いがけない走
りをするケースだって皆無とはいえないだろう。本戦は１５校という固定枠があ
るのだから、せめて予選会ぐらいは、もっと、ひろく門戸を開放してもいいいの
ではないか。