98〜99 駅 伝 時 評

43th 全日本実業団駅伝
【旭化成が3連覇 エスビーの3度目の正直ならず!】

  昨年12月6日の福岡国際マラソンから話をはじめよう。旭化成勢では佐藤信之
が2位、小島忠幸が3位、小島宗幸が5位であった。エスビー勢は、花田勝彦が
15位、期待の渡辺康幸は脚を痛めたらしく途中棄権した。次にアジア大会の長距
離をみてみよう。旭化成勢では10000M に出場した高尾憲司は優勝、5000Mに出場
した櫛部静二と平塚潤は、どこの馬の骨ともわからない無名のランナーに惨敗し
た。それが全日本実業団駅伝と何の関係があるのかと……いぶかる向きがあるか
もしれないが、実は大いに関係があるのである。

 第43回を数える全日本実業団駅伝は今年も全国の地区代表37チームが出場、7
区間86.4キロのコースで駅伝日本一を競い合った。この大会が前橋でおこなわれ
るようになってから12年目になるというが、上州という土地柄、名物の赤城おろ
しがレース展開を読めなくするケースもある。だが今年は比較的、穏やかで、風
の巧拙がレースのゆくえに影響をおよぼす度合いは少なかったようである。

 今大会のみどころは2つあった。ひとつは旭化成とエスビー食品の優勝争い、
もうひとつはダイエーなきあとの3位争い……である。今年の勢力を分析すると、
1位と2位の実力差よりも、2位と3位以下の実力差のほうが、はるかに大きい
というのである。

 ビッグ2による優勝争いも、来年以降のチャレンジャーとしての3位争いも、
熾烈な闘いがづづき、ともに最後まで眼がはなせなかった。97年は3秒差、98年
は15秒差で泣いている瀬古・エスビーにとって、今年は3度目の正直、絶対に負
けられない一戦だったはずである。だが結果的にみて、エスビーはこれといった
策もなく、またしても旭化成に軽くあしらわれてしまった。

 旭化成は3年連続、21回目の制覇、エスビーはまたしても敗れた。6区・花田
勝彦の奮起で、アンカー勝負という見せ場をつくりはしたが、すでにして戦うま
えから勝敗はみえていた。その伏線はエスビーのオーダーにあらわれていた。1
区・櫛部静二、4区・平塚潤はともかく3区には、あの渡辺康幸をもってきた。
今年は前半勝負に出てきたのか……と、思ったのだが、実際にはそうではなかっ
たようである。昨年は最終7区に配して、旭化成のアンカー・佐藤信之をはげし
く急追、あわや……と思わせるところまでいった。今年もほんとうは後半の勝負
区間である6区(18キロ)か7区(16.4キロ)に配したかったのだろう。だが、
「デキない」事情があった。それが福岡国際マラソンを途中棄権の原因となった
脚の故障だったのではないか。

 つまり渡辺の3区起用は、「前半勝負」という積極的策によるものではなく、
苦肉の策だったのである。切り札の渡辺を3区で使ったために、最終区には武井
隆次を使わなくてはならなくなってしまった。武井が凡庸なランナーだというつ
もりはないが、相手が歴戦の強者・川嶋伸次では分が悪い。宗茂は勝利インター
ビューで、アンカー勝負になったときの心境について、「少しぐらい負けていて
も、大丈夫だと思っていた」とコメントしている。第6中継点に花田と佐藤がほ
とんど同時にとびこんできたとき、髭面の川嶋は、一瞬ニタッと微笑んだが、あ
れは自信の笑顔だったのだろう。監督は川嶋に全幅の信頼をおき、本人もこの時
点で勝利を確信していたのではないか。

 6区の佐藤をのぞいて、すべて予定通りの走り……と、宗茂はレースを振り返
っている。旭化成の選手たちはすべて自分の果たすべき役割をしっかりわきまえ
ていた。初出場の1区(12.25キロ)・木庭啓は手堅く3秒差の2位につけると、
2区(8.35キロ)の小島忠幸が予定通りにトップに立つ。前半のエース区間の3
区 (13.70キロ)には初出場の川越衛を起用して周囲を驚かせた。川越はNEC
のシーブラとエスビーの渡辺に追い上げられ、最後は2秒差の3位でたすきをつ
ないだが、やすやすとは抜かせなかった。川越の闘志あふれる走りが勝因のひと
つかもしれない。 4区(10.30キロ)の高尾憲司は区間新の快走でエスビ・平塚
潤をあっさりと葬った。アジア大会での勢いの差が、ここではっきり出たという
べきだろう。5区(7.40キロ)の三木弘も区間新の快走で、エスビーとの差は一
気に39秒にひろがった。つなぎの区間の2区や5区に小島宗幸(福岡国際マラソ
ン3位)や三木のようなランナーを使えるのだから旭化成は強い。

 前半勝負に出たエスビーは、すべて目算が外れた。1区・櫛部、4区・平塚は
アジア大会組の走りは、いまひとつ切れを欠き、3区の渡辺は区間4位というあ
りさま。これでは先手をとれるわけがない。エスビーが勝つには4区・平塚まで
に、最低でも1分ぐらいの貯金が必要だったが、逆に12秒も置いてゆかれては、
どうしょうもない。

 もうひとつの見どころ、ポスト・ダイエーをめぐる3位争いは中国電力が混戦
を制した。元ダイエーの主力4人を受け入れた富士通が有力と思われたが、5位
まで押しあげるのがやっとだった。新メンバーはいずれも力のある選手ばかりだ
が、いまだタスキ1本で、たがいの心をつなぐほどチームになじんでないという
わけか。駅伝はレースに至るプロセスが、はっきり結果に反映される。だから、
怖くもあり、おもしろくもある。

 テレビ観戦で最も迫力があったのは3区であった。14秒差でトップに立つ川越
衛(旭化成)に渡辺康幸(エスビー)と国近友昭 (NTT中国)、五十嵐範暁(中
国電力)が襲いかかる。3キロ付近から併走となり、6キロ地点から、シーブラ
(NEC)が追いついて、はげしいトップ争いとなる。背の高いシーブラと渡辺
の間にはさまれて、身長158センチしかない川越がストライドをのばして、必
死にくらいつく姿が清々しかった。だが区間1位は激しいトップ争いをしていた
シーブラでも渡辺でもなく、はるか後方で今年も13人抜きの爆走、独自の闘いを
つづけていたギタヒ(日清食品)だった。

 それにしてもエスビーはどうして旭化成に勝てないのだろう。選手個々の力の
比較では、勝るとも劣らない。櫛部静二、渡辺康幸、平塚潤、花田勝彦など、オ
リンピック、アジア大会の代表になるような大砲を抱えている。にもかかわらず
3年もつづけて、あっさりと負けてしまうのだから不思議である。仏の顔も3度
まで、瀬古利彦には、監督としてのオーラが足りないせいとしか言いようがない。
今は亡き師の名言「天才は有限、努力は無限」の意味するところを、もういちど
とっくり噛みしめる必要がありそうだ。

 ☆旭化成チーム
 木庭啓、小島忠幸、川越衛、高尾憲司、三木弘、佐藤裕之、川嶋伸次

総合成績
旭化成 4:11:34
ヱスビー食品 4:12:24
中国電力 4:14:54
NEC 4:16:23
富士通 4:16:40
トヨタ自動車 4:17:21
NTT中国 4:17:21
本田技研浜松 4:17:23
日清食品 4:17:24
10 積水化学 4:17:32


区間優勝者
1区 12.25キロ 大川久之(山陽特殊鋼) 34:57
2区 8.35 小島忠幸(旭化成) 23:14
3区 13.70 ジュリアス・ギタヒ(日清食品) 37:23
4区 10.30 高尾憲司(旭化成) 29:07
5区 7.40 三木 弘(旭化成) 19:59
6区 18.00 花田勝彦(エスビー食品) 54:46
7区 16.40 川嶋伸次(旭化成) 50:24

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