98〜99 駅 伝 時 評

17th 全国都道府県対抗女子駅伝
【 無名のランナーが輝くとき! 】

 1月17日……。6400余人の生命を奪った阪神・淡路大震災からちょうど4年目
になるこの日、都道府県女子駅伝のおこなわれる京都は風もなく、冬晴れの穏や
かな天気にめぐまれた。(気温7.6度 湿度61% ) 大震災の追悼式のもようを見
ながら、偶然にも駅伝の開催日と重なっただけに、もし兵庫が優勝すれば、絵に
描いたようなドラマが完結、マスコミは大喜びするだろうな……と思った

 昨年も一昨年もそうだったが、女子駅伝のなかでも、この大会に関するかぎり、
顔ぶれもふくめて、実業団選手に精彩がなく、いまひとつ盛りあがりらない。実
業団のトップランナーも何人かは出場しているが、いずれもお付き合い的な出場
で、とてもベストのコンディションづくりをしているとは思えない。だから1区
で、こともあろうに高校1年生にボロ負けするのである。

 実業団のトップランナーたちにしてみれば、もはや会社の名前を背負わないレ
ースに出場して、自己アピールする必要はなくなっているのかもしれない。確か
にある種のハングリ精神がなくなっているのは事実だが、ながびく不況が女子駅
伝にも影を落としているように思えてならない。テレビでは高視聴率がとれ、企
業としては社名の露出度の高さをもって、走る広告塔といわれた女子駅伝の選手
たちにも、リストラの波が迫りつつある。松野明美を生んだあのニコニコドーが
すでに廃部、ほかにも休部、廃部を決断する企業が出てくるだろう。中学生や高
校生ランナーたちはまるでノーテンキーだが、社会人ランナーたちは、みんなき
びしい現実を背中に感じているだろう。

 最近の都道府県女子は走ってみなければわからない。とくに今年はまれにみる
混戦が予想された。あえて上位をあげれば、昨年3位の熊本、5位の兵庫が一歩
リード、つづいて昨年優勝の埼玉、僅差で福岡、長崎、鹿児島、宮城……あたり
とみていた。兵庫と熊本は社会人、中・高生のバランスがいい。埼玉は社会人が
強力、福岡、長崎は中・高生が充実している。勝敗はレースの流れしだいという
様相であった。

 事実、最終区ではトップから8位までがトラックに入ってくるという激戦だっ
たが、そのわりには優勝タイムは平凡だった。区間新記録は1つもなかった。そ
ういう意味ではきわめて低調におわった大会だったが、いくつかの見どころがあ
って、今年もおもしろく観戦することができた。

 最初のみどころは、やはり第1区である。今シーズン、ロードで絶好調だった
小崎まり(兵庫)にキレがなく、反応もにぶい。他の実業団ランナーもいまひと
つの走り。そのせいか超スローペースではじまった。4キロすぎて動いたのは高
校生である。長崎の藤永佳子(長崎)が集団をひっぱった。高校生が主導権をに
ぎり、阪田直子(京都)、渡辺芳子(福島)らがつづく。暮れの高校駅伝第1区
の再現である。あのときは藤永が18秒先んじたが、今回は阪田直子が高校1年生
らしからぬレース巧者ぶりを発揮した。終始、集団のなかにいてチャンスをうか
がい、ラスト500Mで一気にスパート、みごとに区間賞をもぎとって、藤永に借り
を返した。候補の熊本は29位、トップからは57秒差の出遅れ、この時点で早くも
圏外に去った。宮城も17位(31秒差)、鹿児島も25位(46秒差)とつまずいたの
が原因で、最後まで首位争いに加われなかった。

 主力どころが崩れるなかで、4区までは京都を中心に長崎、埼玉がトップを争
い、中盤の5区からは本命の兵庫が流れをつくった。8区からは福岡がトップを
奪い、優勝戦線に割りこんできた。最終区のランナーにタスキがわたったとき、
トップ福岡から、2位の兵庫、3位の京都まで、わずか30秒差、いわゆるアンカ
ー勝負に持ちこまれたのである。

 トップ福岡と兵庫はわずか14秒差……。福岡・藤丸麻美が逃げ、兵庫・上岡正
枝が追ってゆく。背後からは16秒差で京都・光畑早苗がつづく……。顔をゆがめ
ながら逃げる藤丸、端正な顔を振りながら懸命に追う上岡……。実力的には上岡
に分があった。心理的にも追うほうが断然有利なのだが、駅伝はデーターではな
い。西大路から五条通りへ、あと1キロで7秒差まで詰まったが、負けるものか
と藤丸は逃げる。トラックにはいっても藤丸はいちども振り返らなかった。そう
いう攻めつづける姿勢があればこそ、藤丸は逃げ切れたのだろうと思う。福岡・
白木監督は「血がたぎるようだった」というように、最終区10キロの攻防はまさ
に「走る格闘技」を思わせられた。

 福岡は悲願の初優勝、その原動力は中高生である。1区で15位と出遅れながら、
3区の仲西が5人抜き、8区では池田が区間賞の爆走で3位から一気に首位を奪
い、14秒差でアンカーにつないでいる。中学生(3K区間)の快走、高校生がつ
なぎ、その勢いもらった社会人ランナーが最後の仕上げをした。

 優勝候補ナンバー・ワンの兵庫は2位にあまんじた。高校生が期待通りの活躍
ぶりだったが、1区の小崎まり、9区の上岡正枝(区間14位)の両エースが思い
のほか不振だった。埼玉は田中めぐみ、竹元久美子という大砲がそれなりに結果
を出したが、高校生の地盤沈下がひびいた。3位は精一杯の結果だったろう。大
健闘は福島(4位)と長崎(5位)である。福島は暮れの高校駅伝を制した田村
高校勢が今回も快走した。

 わが京都は最終9位、過去最悪の結果だが、最後まで優勝にからんでいたから、
それなりに評価はできる。最終区での降着はしかたがない。10Kエース区間に光
畑を走らせる。残酷というほかはなく、結果ははじめからみえていた。もし、千
葉真子が「ふるさと選手」で走っていたら、ぶっちぎりの優勝である。熊本はま
さかの14位、優勝候補といわれながら、やはり1区で大きく出遅れて、リズムを
失ったのだろう。

 アンカーとしてテープを切れたのは一生の宝物……。藤丸麻美は、しみじみと
喜びをかみしめていた。 24歳、実業団・岩田屋の選手だが、1万メートルの持ち
タイムは33分台というから平凡である。先の実業団駅伝では3区のエース区間を
まかされたが、区間17位で順位を3つも落としている。都道府県女子駅伝は今年
をふくめ3年連続で9区を担当した。一昨年は2位でタスキをもらいながら、川
上優子、千葉真子に抜かれた。昨年も今回最後まで争った上岡正枝に抜かれてい
る。それだけに初めて32分台で走った今回は大健闘というべきだろう。藤丸のが
んばりは、社会人ランナーという環境的にみても、年齢的にみても、いわば崖っ
ぷちに立つ「無名のランナー」が、ぎりぎりのところでみせた自己アピールとい
うものではなかったか。

 駅伝では、とこかくこうした土壇場でみせる「火事場の馬鹿力」が勝利を呼び
込むことが多い。名もない並のランナーでも輝くときがある……。彼女の走りは、
同輩のランナーたちだけでなく、不況でしょぼくれ、自信を失いかけている世の
男たちにも元気をもたらしたのではないか。

☆福岡チーム
尾崎佐知恵(岩田屋)、長尾育子(筑紫女)、仲西千幸(志摩中)、山中洋美
(筑紫女)、中山多美子(戸畑商高)、磯部知子(岩田屋)、村上紀子(九州
国際大附高)、池田麻美(比良待松中)、藤丸麻美(岩田屋)

総合成績
福 岡 2:18:16
兵 庫 2:18:25
埼 玉 2:18:35
福 島 2:18:44
長 崎 2:18:55
宮 城 2:19:01
鹿児島 2:19:07
広 島 2:19:20
京 都 2:19:34
10 愛 知 2:19:57
11 千 葉 2:20:00
12 熊 本 2:20:25
13 山 形 2:20:28
14 愛 媛 2:21:16
15 茨 城 2:21:22

区間優勝者
1区 6キロ 阪田 直子(京都) 19:35
2区 4キロ 田中めぐみ(埼玉) 12:33
3区 3キロ 田顔 朋美(静岡) 09:20
4区 4キロ 松岡 理恵(兵庫) 13:01
5区 4.1075 高橋 知子(宮城) 13:23
6区 4.0875 堀江 知佳(兵庫) 12:55
7区 4キロ 吉丸 愛(広島) 12:39
8区 3キロ 池田 麻美(福岡) 10:02
9区 10キロ 川島亜希子(愛知) 31:42
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