オウム規制法案 秋の臨時国会に提出!?
1999/10/1
(毎日新聞より)
オウム真理教に対する「包囲網」作りが進んでいる。政府は9月8日、活動規制のための新規立法を秋の臨時国会で成立させる方針を表明、国会議員有志も新法を提出する見通しだ。一方、オウム問題に取り組む弁護士グループは夏以降、矢継ぎ早に対抗策を打ち出した。いずれも「住民の不安」を背景にしているが、規制法は基本的人権を制限する面もあるため内容は未確定な部分が多く、一気に不安を解消するのは難しそうだ。これに対しオウム真理教は29日、「対外活動休止」「名称の一時使用停止」などを表明したが、住民らは懐疑的だ。【オウム問題取材班】
◆知事会が「震源地」◆
政府の新立法案が公表される前の2日間、水面下で急激な動きがあった。「震源地は知事会だった」。法務省幹部は振り返る。
関係者によると、9月7日に開かれた全国都道府県知事会で、オウム真理教の進出トラブルに見舞われている知事らは、小渕恵三首相に早急な対策を迫った。これを受け、野中広務官房長官は同日午後の記者会見で、法務省の取り組みが遅れていることに不満を表明し、議員立法で対応する考えを示した。
法務省側はこの発言に慌てた。
北海道に出張中だった陣内孝雄法相が急きょ野中官房長官に電話を入れ、オウム規制の新法案提案の方針を伝えた。これを受けて、8日午後、野中官房長官が規制新法案を秋の臨時国会に提出する方針を公表することになった。7日の段階で法務当局は、検討を続けてきた破壊活動防止法(破防法)の改正をあきらめて、秋の臨時国会に新法案を提案する方針をほぼ固めていた。ただ公安調査庁長官が海外視察中のうえ、各政党に根回しをしておらず、最終決定に至っていなかったため、官邸サイドにも新法で対応する考えを伝えていなかったという。
法務省幹部は「知事会がすべてだった。それを受けた野中発言で(破防法か新法かという)若干の迷いも完全に吹っ飛んだ」と明かす。
突然の公表だっただけに、新法案の内容はまだ不透明だ。
これまでに明らかになった法案骨子によると、教団に活動内容の自己開示を求める「報告聴取」▽施設内の立ち入り検査の観察処分と、施設取得や信者勧誘、寄付を禁止する規制措置――が柱になる。しかし、解散指定がある破壊活動防止法(破防法)に対して結社の自由を侵すとの批判が強いことから、新法が国民の幅広い理解を得られるようにと、解散指定は盛り込まれない予定だ。住民の不安に接する知事らの切実な訴えが事態を急激に動かした格好だ。
◆積極的な議員有志◆
オウム真理教を念頭においた法案は、ひと足早く7月に、超党派の国会議員で組織する「オウム問題を考える議員の会」も作成していた。「過去15年以内に団体活動として、不特定多数の生命や身体に危害を加えたことがある」集団を対象にし、政府案と同様、事実上のオウム封じ込めだ。
都道府県の公安委員会は(1)人の意思を拘束して財産を取得する(2)脱退を妨害する(3)外部の人との接触を妨害する(4)報道に接することの妨害――をやめるよう命じることができ、違反者には1年以下の懲役や100万円以下の罰金刑を定めた。調査のため警察官に立ち入り権限も与える。
通信傍受法案など重要法案をめぐる駆け引きの余波を受けて先の国会に提出できなかったが、新たにオウムの収益を被害者補償に充てる新法も含め、臨時国会に提出しようと検討を重ねている。
代表世話人の石井紘基衆院議員(民主党)は「これまで自民党も法務省も『破防法の改正で』と言ってきた。新法提出に変わったのは一歩前進だが、破防法的なものなら公明党が同意できないだろう」と話し、政府案の動向を見極めながら、各党への働きかけを続ける考えだ。
こうした一連の動きについて、地下鉄サリン事件被害対策弁護団の中村裕二事務局長は「治安維持の観点でオウムを規制する新法作りが優先されているが、信者が地下に潜るだけで実効性があるか疑問が残る。オウムの収益を被害者への補償に充てる新法の方が、教団の基盤を失わせ一石二鳥の効果を生むのではないか」と話す。
◆現行法を駆使して◆
現行法を利用して教団に対抗する「包囲網」作りも進み、一部は“成果”を上げつつある。
教団広報部や法務部などの中枢部門が入居している東京都足立区谷中の教団施設は今年7月、ビル所有者が破産宣告を受けた。破産管財人となった阿部三郎・元日弁連会長が「賃貸借契約は無効」と立ち退きを求め、教団側はこの主張を受け入れ、1000万円の支払いと退去を表明した。
さらに、元宗教法人の破産管財人でもある阿部弁護士は8月、任意団体として活動している教団が元宗教法人の人格権や財産権を侵害していると判断し「オウム真理教」の名称使用と出版物販売などの禁止を求める通告書を教団側に郵送した。
これに対しオウム側は9月29日、教団幹部ら2人が信者を監禁したとして逮捕され、変わらぬ実態がうかがえる。オウム側は同日「対外活動休止」「名称の一時使用停止」を発表した。が、教団への警戒を続ける住民たちには「批判をかわすために言っているだけ」と映り、不安は消えない。