VX殺人に懲役17年の判決
97/2/4
オウムウォッチャーA氏の法廷傍聴記
4日、立春の寒風が吹きつけた東京地方裁判所で、猛毒物質「VX」による三件の襲撃事件の実行役として、殺人罪などに問われたオ ウム真理教の元自衛官・山形明被告の判決公判が開かれた。
金谷暁裁判長は「暗殺の実行者としての自己の役割を 十分認識したうえ、繰り返し犯行に及んだ責任は重大」として、山形被告に懲役十七 年(求刑・無期懲役)の判決を言い渡した。
これまでのオウム裁判の中では最も重い量刑。
判決では、松本智津夫被告がVX三事件それぞれで殺害の計画、 指示を行ったと明確に認定した。
これで松本被告が起訴された十七の事件のうち十四事件については、共犯者の裁判で松本被告の関与が認定されたことになる。
判決によると、山形被告は九四年十二月、大阪市の会社員浜口忠仁さん(当時二十八歳)にVXをかけて殺害したほか、九五年一月にかけ、東京都中野区の駐車場経営・水野昇さん(84)と、「オウム真理教被害者の会」の永岡弘行会長(58)の二人にVXをかけて重体に陥らせた。
判決は、「犯行は教団にとって邪魔な存在と判断した者を暗殺という方法によって 排除しようとしたもので、その動機はあまりにも短絡的で反社会的」と、事件の悪質性を強調した。
判決には珍しい「暗殺」と言葉を使い、また、「この罪については無期懲役の選択もやむを得ない」とまで明言するなど、事件の悪質性・重大性を強く印象づける判決であった。
しかし、その一方で、山形被告については、VX事件が発覚していなかった段階で供述した ことをとらえ、「犯行のいずれについても自首が成立し、被告人の供述が犯行の解明につながったところも少なくないと推測される」と述べ、刑の減軽を認めた。
山形被告は事実関係を認め、「毒物が何かすら知らされず、実行だけを命じられた」 などと情状を訴えていた。
おびただしい数のオウム裁判も次々と判決が下され、残るのは殺人など凶悪重大事件に絞られてきている。今回このVX殺人事件で懲役17年が下されたということは、今後のそのほかの裁判にとっても大きな意味を持つものと思われる。
懲役17年というのは、有期懲役としては最高に重い部類であり、無期懲役とのギリギリの選択であったことが判決文からもうかがえる。一名殺害二名未遂に自首を認めて17年であるならば、三名を無惨に殺害した坂本事件や、さらにおびただしい数の死傷者を出した松本・地下鉄両サリン事件については相当数の被告人に無期から死刑の判決が言い渡されるであろう。
なお、このVX殺人事件については、上記三名の被害者だけでなく、漫画家の小林よりのり氏も「暗殺」の標的とされ、実行の着手スレスレまでいっていたらしいが、偶然にも難を逃れた。
ご存じの通り、小林氏は「ゴーマニズム宣言」の中で坂本事件を取り上げ、その真相を推理したところ、オウムから名誉毀損であると民事裁判に訴えられた。
そこで「東京救う会」のメンバーが中心となって12人のよしりん弁護団が結成され、正面から法廷闘争を開始したが、結局青山(元弁護士)が逮捕されると、オウムは他の代理人を立てられず、欠席のまま休止満了(呼び出しに応じないため取り下げと見なされる)で実質勝訴を勝ち得ている。
小林氏と坂本事件・オウムとの関わりについては、追って詳しく報告する予定。
(takizawa)