松本智津夫被告第89回公判
98/9/4
(毎日新聞より)



 オウム真理教の松本智津夫(麻原彰晃)被告(43)の第89回公判は4日、東京地裁(阿部文洋裁判長)で開かれ、松本サリン事件で噴霧車の製造にかかわったとされる藤永孝三被告(37)に対する3回目の弁護側反対尋問が行われた。傍聴希望者は110人だった。

 ◆出廷者◆
裁判長:阿部文洋(53)
陪席裁判官:(48)
陪席裁判官:(41)
補充裁判官:(36)
検察官:西村逸夫(47)=東京地検公判部副部長ら4人
弁護人:渡辺脩(64)=弁護団長
    大崎康博(64)=副弁護団長ら11人
被告:松本智津夫(43)
検察側証人:藤永孝三(37)=元教団「科学技術省」次官
(敬称・呼称略)


 午前9時58分、松本被告が入廷する。3日と同じ白いTシャツ姿。落ち着きなく法廷内を見回した後、小声で何かをつぶやき始め、刑務官にも話しかける。グレーのジャケットを着た藤永被告が法廷に入り、審理が始まる。

 弁護人「前回に続けて(サリンの)噴霧車について聞きます。タンクの重量はどのくらいか」
 証人「はっきりとは分かりません。持てる重さです」
 部品に関する細かい質問が続き、藤永被告が「何の長さか、きちんと聞いてください」といら立った様子を見せる場面も。
 弁護人がエアバルブとエアタンクの接続部分の拡大図を書くよう求め、阿部裁判長が「そんな細かいこと、いるんですか」と疑問をさしはさむが、弁護人は引き下がらない。藤永被告がペンを走らせる。
 弁護人は再度、図を見ながら構造を尋ねた。傍聴席の男性から「常識じゃないか」と怒ったような小声が漏れた。
 弁護人はなお、図を示しながらファンの数などを質問するが、時間に押されて午前中の審理は終わる。11時57分休廷。

 午後1時17分、再開。
 弁護人は噴霧器の実験について質問していく。
 弁護人「前々回の公判で『(1993年7月か8月に)松本と横浜に同行した車は円盤型(噴霧器)のもの』と証言しているが、この『松本』は松本市のことか、それとも麻原さんのことか」
 証人「麻原のことです」
 弁護人「麻原さんと実際に一緒に行ったのか」
 証人「はい」
 弁護人「同じ車で?」
 証人「いいえ」
 弁護人「噴霧車に乗っていたのが麻原さん?」
 藤永被告は記憶の底を探る。「えー……(松本被告が)助手席に乗りました」
 弁護人「噴霧車を運転していたのは」
 証人「記憶があいまいですが、新実(智光被告)さんです」
 弁護人「あなたは別の車を運転していたのか」
 証人「はい」
 弁護人「ほかにはだれか」
 証人「ちょっと名前が出てこない……上祐(史浩元被告)さんです」
 弁護人「『噴霧器を作れ』という指示は、同行した何日ぐらい前でしたか」
 証人「1カ月ぐらいあったかもしれません」
 弁護人「指示はだれから」
 証人「直接の作業の指示は上祐さんからです」
 弁護人「科学班の責任者は村井(秀夫元幹部=故人)ですね。このことを村井は知ってましたか」
 証人「知っていたと思います」
 弁護人「それはなぜ」
 証人「科学班と上祐らが入り交じって作業していましたから」
 弁護人「製造現場に上祐は来たのか」
 証人「それはあった」
 弁護人「上祐から作れと言われた時、何のために作るか聞いたか」
 証人「なかった」
 弁護人「噴霧器とは思ったか」
 証人「分かった。上祐が実際に噴霧器を回転させていた」
 ◇実験「麻原さんも同行」
 弁護人が証人に噴霧器を付けた車の図面を描かせながら質問する。
 弁護人「麻原さんは助手席に乗っていたのですか」
 証人「はい」
 弁護人「横浜まで同行しろとだれに言われたのですか」
 証人「上祐さんに言われた」
 弁護人「途中で何かあったのですか」
 証人「麻原さんが乗った状態で円盤の回転を上祐さんがチェックしていた」
 弁護人「場所はどの辺ですか」
 証人「(国道)16号沿いの東名を降りて、ある程度進んだところの工事現場の空き地だった」
 弁護人「円盤を回した時に麻原さんはどこにいたのですか」
 証人「4トントラックの助手席」
 弁護人「顔にかかったのか」
 証人「かかりました」
 弁護人「どこで」
 証人「車の後ろで荷台に手をかけている状態だった」
 弁護人「上祐さんにもかかったのか」
 証人「かかったと思う」
 弁護人「水みたいなものを浴びたのですか」
 証人「そうです」
 弁護人「何か異常は」
 証人「ありません」
 弁護人「においは」
 証人「臭かった。亀戸の時と同じようなヌカミソのようなにおいだった」
 弁護人が質問を変える。
 弁護人「元信者がね、『93年8月ごろに噴霧車を造った』と言っている。調書によるとね、ウイングタイプの10トン車3台を造ったと言っていますが、その製造にかかわったことはあったのですか」
 証人「あったと思います」
 弁護人「その後、上祐さんが運転席に乗って噴霧実験をしたと元信者が言っていますが、見たことありますか」
 証人「あったかも分かりません」
 じっと聞いていた松本被告が隣の刑務官に何事か話しかける。
 弁護人「松本サリン事件の前の段階で、何台ぐらい噴霧車を製造したか。1台や2台じゃないですね」
 証人「そうですね」
 弁護人「亀戸異臭事件があった平成5(93)年が一番多かった」
 証人「そうではなかったか、と思います」
 弁護人「噴霧車を製造したことについて説法の中で触れられていないのか」
 証人「記憶はない」
 主任弁護人が座ると、裁判長が「今日中に終わりますね」と主任弁護人にくぎを刺した。3時3分、休廷。3時22分再開。
 弁護人「94年11月に、村井さんから指示を受けて噴霧車を解体しましたね。強制捜査が入るかもしれないということで」
 証人「はい」
 弁護人「この時点で、松本に毒ガスがまかれて人がいっぱい死んだということは知っていましたか」
 証人「はい」
 弁護人「オウムがかかわっているということは」
 証人「疑念を持っていました」
 弁護人「いつごろから関与したと思うようになりましたか」
 証人「新聞、報道機関で言われて、教団内の壁新聞に書いてあることはどうなんだろうと、外の社会のニュースとの関係で、こうなんだろうと思いました。疑念を持って、ちょっと怖くなりました」

 この後も弁護人の噴霧車についての細かい質問が続いた。検察官も最後に質問しようとしたが、裁判長は「もういいでしょう。終わりにしましょう」と遮った。

 藤永被告への尋問は終わった。続いて尋問が予定されていた青山吉伸被告が入廷し、「きょうはできませんので、次回朝から来てください」と阿部裁判長から告げられる。
 5時30分、閉廷。