松本智津夫被告第117回公判
1999/4/23
(毎日新聞より)


 オウム真理教の松本智津夫(麻原彰晃)被告(44)の第117回公判は23日、東京地裁(阿部文洋裁判長)で開かれた。松本サリン事件に関し、実行役の一人とされる元教団幹部、遠藤誠一被告(38)に対する2回目の弁護側反対尋問が行われた。傍聴希望者は100人だった。
 ◆出廷者◆
 裁判長・阿部文洋(53)▽陪席裁判官(49)▽同(41)▽補充裁判官(36)▽検察官・西村逸夫(48)=東京地検公判部副部長ら5人▽弁護人・渡辺脩(65)=弁護団長、大崎康博(65)=副弁護団長ら11人▽被告・松本智津夫(44)▽検察側証人・遠藤誠一(38)=元教団「厚生省」大臣(敬称・呼称略) ◇LSD合成に関与−

−松本サリン事件、遠藤被告が認める
 ◇噴霧「麻原さんの指示」
 紺のトレーナー姿の松本被告に続いて遠藤被告が入廷し、午前10時4分開廷。弁護人は前日に続き、サリンが製造された第7サティアンの様子を尋ねた。
 弁護人「初めて入ったのは?」
 証人「1994年春だと思う」
 弁護人「内部は?」
 証人「何もなかったような気がする」
 弁護人「後にサリンプラントがつくられるが、そのことは聞いていたか」
 証人「第7サティアンにいた人に用事があり、たびたび中に入った。そういう施設は目についた」
 弁護人「だれに用事があったのか」
 証人「中川(智正被告)さんとか村井(秀夫元幹部=故人)さん」
 弁護人「94年秋の内部の様子は?」
 証人「どういう機械か分からないが、吹き抜けのようなのがあるのは気づいた。寝泊まりの場所もあった」
 弁護人「調書で『中国旅行の後、東京のホテルに幹部が集まり、今後のワークについて麻原さんから指示を受けた』とあるが」
 証人「LSDに関する話が出た」
 弁護人「実際にLSDの合成をしたのですね」
 証人「関与しました」
 弁護人「LSDとキリストのイニシエーションはつながるのか」
 証人「つながります」
 弁護人「救済計画のスピード化ということか」
 証人「そこまでは考えていないと思う。LSDをつくる前、麻原さんは『薬物を使っての神秘体験は仮の体験で、借金をして神秘体験をしているようなもので、めったにやるものではない』と言っていた」
 弁護人「教団や麻原さんが変わったという認識は?」
 証人「薬物に違和感を覚えた人がいたのも当然と思うが、教団が本質的に変わったのかは分からない」
 弁護人「キリストのイニシエーションというのはだれが命名したのか」
 証人「LSDのことをキリストと言ったのは麻原さんだと思う」
 弁護人が代わり、松本サリン事件に話が戻る。
 弁護人「警察と裁判所のどちらが対象か」
 証人「分からない。下見は最初に警察に行った」
 弁護人「当時、なぜ裁判所にサリンをまいたと考えたか」
 証人「深く考えなかった」
 弁護人「裁判の邪魔をするというのは?」
 証人「私は裁判が継続中だとか、負けそうだというのは全然知らなかった」
 弁護人「中川さんの供述では、裁判と結び付ける供述は遠藤さんが先行したとなっているが」
 証人「それは違う。先行していたのは新実(智光被告)さんと聞いている」
 弁護人「裁判の邪魔をするためというのは、逮捕後にいろいろ聞かされて考えるようになったのか」
 証人「新実さん、中川さんがこう言っていると聞いた。新実さんの供述が先行していると思った」
 裁判長が「被告人、起きなさい」と居眠りする松本被告を注意する。松本被告は動かない。裁判長はさらに声を荒らげて「ちゃんと起きなさい!」。松本被告はようやく顔を上げた。
 弁護人「松本サリン事件で、遠藤さんがかかわったことについては村井さんの指示が多いのか」
 証人「村井さんが皆に指示を出す立場だと思います」
 11時57分、休廷。



 午後1時15分、再開。
 弁護人「『噴霧はマンジュシュリー(村井元幹部)がやれ』と聞いたと証言しましたね」
 証人「はい」
 弁護人「その場で決まったという認識か」
 証人「決まったというより、もともとの前提として村井さんしかやらないだろうという認識」
 弁護人「どうして?」
 証人「池田(大作・創価学会名誉会長襲撃)事件の時に村井さんが噴霧したという意識があったかもしれません。村井さんなら不思議じゃなくて、むしろそうだろうと。
決めたというより、麻原さんが言った」
 弁護人「中川さんも新実さんもそうは言っていませんから」
 証人「自分がそういうふうに考えていたので、供述しています」
 松本被告の指示を裏付ける証言に、弁護人は執ように食い下がる。
 弁護人「遠藤さんは、何人もが死ぬ結果になると思っていないと言うが?」
 証人「人が死ぬような結果になるとは思わなかったという意味です」
 弁護人「どうしてか」
 証人「池田事件で、そうした被害がないと認識していたからです」
 遠藤被告は松本サリン事件の3日前、静岡県富士市内で松本へ行くための車を自分の名義で借りた。
 弁護人「秘密のワークの時は別の名前で借りようと思わなかったのか」
 証人「こんな大きな事件になるなら、そうした」
 村井元幹部は「松本ナンバーの方がいいんじゃないか」と指示した。
 弁護人「下見の話とどうつながるのか」
 証人「松本ナンバーの車を借りるついでに下見もという感じだった」
 遠藤被告らは先に松本署、次いで長野地裁松本支部周辺の下見をした。そして自分の免許証を使い、松本市内のレンタカー店でワゴン車を借りた。
 3時2分、休廷。
 3時22分、再開。
 遠藤被告は松本に向かう車内に中和剤、携帯電話、酸素ボンベが積まれていたと証言した。松本へ向かう途中、中川被告からサリン中毒の症状の説明を受けたという。赤いペンでメモしながら、遠藤被告は答えていく。
 弁護人「2回目に止まった駐車場で、場所を裁判所から官舎に変更するという話が?」
 証人「ええ。下見の時は中川さんが『裁判所でしょ』と。官舎になった時は最初の話と違うなと思いました」
 弁護人「雨が降った時、『サリンが分解するかも』という話は出たか」
 証人「聞きました。中川さんと村井さんがしているのを聞いて『そうなのかな』と思いました」
 弁護人が交代し、3回目に止まったスーパーマーケット駐車場のことを聞く。
 弁護人「村井さんが新実さんに『官舎を見つけた』と話している。官舎を見つけたと聞き、サリンをまく考えになったのか」
 証人「そうなんじゃないかと思う。麻原さんから聞いた話と違うと思った」
 弁護人「切迫感や緊迫感は?」
 証人「医療行為を確認しなければならず、その意味で緊張していた。麻原さんに言われたことをやらなければいけないという気持ちがあったが、ちょっと違うという気持ちもあった」
 遠藤被告は駐車場を出る際、新実被告からワゴン車を運転するように頼まれたが、「嫌です」と断った。「新実さんはギョッとしたような目をしていた」と語る。
 弁護人「拒否理由として『サリンの噴霧場所が官舎に変わったため疑問が生じたので』と、調書で述べているが?」
 証人「自分は医療班で、とても運転できる状況ではなかった。それに麻原さんの話では裁判所ということだったので『何か違うことをやるんじゃないか』と思い、語気が強くなった」
 弁護人「噴霧場所の変更は新実さん、村井さんが麻原さんの承諾を得てないことだと思ったのか」
 証人「官舎というのは突然出てきた話だったので、麻原さんが知らないことという認識はあった」
 松本被告が右手を激しく振り回し、何かつぶやく。
 弁護人「村井さん、新実さんより、尊師の言葉に従うべきだと思ったか」
 証人「言われたことを言われた通りにやるのが自分にとっての修行だった」
 4時55分、閉廷。