松本智津夫被告第119回公判
1999/5/14
(毎日新聞より)


 オウム真理教の松本智津夫(麻原彰晃)被告の第119回公判は14日、東京地裁(阿部文洋裁判長)で開かれ、前日に引き続き、松本サリン事件の実行役の一人とされる元教団幹部、遠藤誠一被告(38)と、目黒公証役場事務長監禁致死事件の被害者親族に対する弁護側反対尋問が行われた。傍聴希望者は105人だった。


 裁判長・阿部文洋(53)▽陪席裁判官(49)▽同(41)▽補充裁判官(36)▽検察官・西村逸夫(48)=東京地検公判部副部長=ら5人▽弁護人・渡辺脩(65)=弁護団長、大崎康博(65)=副弁護団長=ら10人▽被告人・松本智津夫(44)▽検察側証人・遠藤誠一(38)=元教団「厚生省」大臣、被害者・仮谷清志さんの妹(66)
 (敬称・呼称略)


遠藤誠一被告
 午前10時、開廷。松本被告は紺のジャージー姿で被告人席に着いた。口をモグモグと動かし、落ち着かない様子だ。松本サリン事件について遠藤被告に対する尋問が始まった。
 弁護人「上九一色にレンタカー(のワゴン車)が着きまして、(レンタカーに物損事故で)傷がついたことを麻原さんに報告したんですか」
 証人「ええと、何らかの傷の言葉は出ているかもしれません」
 傷つけたワゴン車の処理に関するやり取りがしばらく続いた。
 弁護人「松本でサリンをまくという最初の標的は裁判所だったか」
 証人「裁判所という話は出ていた」
 弁護人「今のような話は麻原さんとはしてないのか」
 証人「聞いていない」
 弁護人「あなた自身は、松本でサリンをまいても人が死ぬとは考えていなかったんですね」
 証人「はい」
 弁護人「麻原さんも同じ認識ですか」
 証人「それは推測になるから分かりません」
 弁護人「松本サリン事件(の後に、事件)について、他の人に話したことはないですか」
 証人「早川(紀代秀被告)さん、井上(嘉浩被告)さん、土谷(正実被告)さんです。(事件の)直後だったと思います」
 弁護人「早川さんや井上さんと話したのは、麻原さんの部屋でしたか」
 証人「麻原さんの部屋ではなく、第6サティアンだったような気がします」
 弁護人「早川さんとはどのようなやり取りがあったんですか」
 証人「『ちょっと、ちょっと』と呼び止められて、『松本行ったんだって』という感じでした」
 弁護人「井上さんについてはどうですか」
 証人「井上さんも同様に、『松本行ったんだって』という感じでしたが、早川さんとは、反応はまったく逆でした。早川さんは悲痛な顔して聞いてきました。ところが、井上さんはメンバーに選ばれなかったことがショックだったんです。ですから、すごく行きたかったという感じだったんです」
 弁護人「土谷さんはどうですか」
 証人「土谷さんについては、私がまず『知っている?』と言ったら、『ええ、知っています。絶対にうまく行きますよ』と言っていました。報道されて(事件のことを)知ったんだって言ってました」
 弁護人「村井(秀夫元幹部=故人)さんが、麻原さんに(事件の記事を)読み聞かせている場面は見たのか」
 証人「見てない」
 弁護人「村井さんから記事を見せられてどう思った」
 証人「びっくりした。死者が出たということで、がくぜんとしました」
 弁護人「新聞記事を見た後に、早川さんや井上さんの話があった」
 証人「後と考えるのが自然でしょうね」
 松本被告は顔を下げたまま、動かない。傍聴席では、5、6人が寝ている。
 弁護人「松本サリン事件に関して麻原さんと話したのは何回か」
 証人「(1994年)6月27日に出発するまでに1回、28日に戻りレンタカーを現場でぶつけてしまったことを報告した時に1回、『東京に行ってぶつけてこい』と言われた時に1回、ぶつけて車を返却した後に報告した。これとは別にパソコン通信に関してもあった」
 別の弁護人が2、3の質問をして、この日の尋問が終わった。裁判長に「5月27日の午前中に出廷して下さい」と促され、遠藤被告は退廷した。
 午後0時1分、休廷。


仮谷さんの妹
 1時15分、仮谷さんの妹が入廷した。
 弁護人はまず幹部信者から1000万円の布施を強要されたことを尋ねた。
 弁護人「お布施の意義なんかについて説明していなかった?」
 証人「尊師が必要にしているときにお布施したら、と(幹部信者が)言ってた」
 弁護人「親族が危害を受けるという不安は持った?」
 証人「思いました」
 弁護人「仮谷さんの奥さんに、オウムの本をあげたことはなかったですか」
 証人はしばらく考えて「あったかもしれません」。
 弁護人「『尊師の本よ、いい本よ』と言って勧めたことは覚えていますか」
 証人「よく覚えてません」
 弁護人「あなたはオウムに入会はしたが、信者にはなっていなかったと言いましたね。でも、本をあげるなんて熱心な信者じゃないですか」
 証人「それは私のSOSです」
 弁護人「SOSとは」
 証人「兄の家は江東区亀戸ですから、オウムの道場(が近くに)もある。オウムがどういうところなのかわかっていたはず。私がオウムにかかわっていることを注意してもらいたかった」
 本を配布した真意や教団作成のビデオの感想などを、弁護人はさらに聞いた。
 裁判長がいらだった様子で口を挟む。「ベタベタ細かいこと聞かなくてもいいでしょう」
 弁護人はやや強い口調で反論した。「大事なことです。おかしなことが段々わかってきたでしょう」
 弁護人は尋問を再開した。
 弁護人「『地獄の体験』というのをしましたね」
 証人「はい」
 弁護人「麻原尊師に帰依するとかそういう内容だった?」
 証人「えっと、ちょっとすみません……がさがさしていて……」
 証人が言いよどんだ途端、裁判長から「被告人、静かにしなさい」と注意が飛んだ。独り言を言い続けていた松本被告は声を落とした。
 弁護人「(イニシェーションで)ワイングラスを渡された時、麻原のほかに誰かいた?」
 証人「はっきり覚えているのは三女です」
 弁護人「イニシエーションが終わったあとにどう思いましたか」
 証人「薬物を使ったインチキだと思った」
 弁護人「イニシエーションの後、教団に対する不信感は芽生えましたか」
 証人「芽生えた、というかインチキだと確信した」
 3時2分、休廷。

 同25分、再開。
 弁護人「イニシエーションから帰ってきた直後も青山道場に通ってたんじゃないですか」
 証人「……直後はないんじゃないですかね」
 弁護人「青山道場へは自分で行くんですか」
 証人「信者が迎えに来ました」
 弁護人「行きたくないとは言わなかったんですか」
 証人「言いましたけど、断れなかったです」
 弁護人「宮崎の資産家ら致事件、坂本弁護士事件をオウムがやったと思った根拠は」
 証人「すごくお金に執着持っていたから」
 弁護人「新聞やの雑誌の報道で思ったんじゃないの。調書では写真週刊誌を読んで知ったとなっていますね」
 証人「記事を読んでやりかねないと思いましたね」
 弁護人「どうして」
 証人「私に対するお布施の強要です」
 弁護人「信徒決意というのはどういうことをするんですか」
 証人「印刷物を見てテープを聞きながら同じテンポで(決意を)言わせられる。60歳代だと1300回」
 弁護人「ばかばかしいと思いませんでしたか」
 証人「思いましたよ」
 弁護人「それでもやったのはなぜ」
 証人「やらされるんです」
 弁護人「(イニシエーションによる)神秘体験はなかった?」
 証人「光は見ました。上から金粉のようなものがひらひら下りて来る感じで、何か自分が踊っているような感じだった」
 弁護人「それでもインチキだと思った?」
 証人「違う薬が入っているのかと思った」
 5時、閉廷。