松本被告の国選弁護団 ついに解任請求
松本智津夫被告の国選弁護団(渡辺脩団長他12名)が、3月6日、東京地裁刑事7部(阿部文洋裁判長)に対し「月4回のペースで公判が続けられる現状では必要な弁護活動ができず、職責を果たせない」などとして、国選弁護人の解任請求書を提出しました。
裁判所は、前回の公判後の態度表明から見て、解任に応じる可能性はまずないと思われます。その場合、弁護団が13日の次回公判をボイコットする構えも見せており、松本公判が空転する可能性が強まってきました。当初の私選弁護士解任騒動の時のように、混迷状態が続くのでしょうか。
国選弁護人の選任、解任は刑事訴訟法で裁判所の権限とされ、弁護士は自ら辞任することはできません。今回の解任請求は、裁判所に職権を発動して解任してほしいと要請する申し入れで、これを拒否されても上級裁判所に抗告や異議を申し立てることはできません。
弁護団は、松本被告が2月13、14日の公判で続けて退廷命令をうけ、その後弁護団との接見に応じなくなったことなどを受けて、同月19日付で裁判所に3月と4月の公判取り消しと5月以降の公判は月3回にしてほしいと申し入れていました。
しかし裁判所は、その申し入れを拒否。新たに4月から7月もにかけ、月4回の公判期日を指定しました。
弁護団はこの日の解任請求書で、「裁判所は被告の防御権と弁護権を実質的に奪い、事実解明よりも審理をとにかく速く進めることだけしか考えていない。もはや解任を求めるしか道はない」と裁判所の姿勢を厳しく批判しています。
一方、松本被告は4、5両日、東京拘置所で破壊活動防止法の教団側代理人弁護士と相次いで面会したとのこと。独自に弁護人を依頼する動きも見せています。もしそうなると、私選国選の並立状態となり、混乱は避けられない模様です。
* 殺人罪などの刑事裁判は「必要的弁護事件」といい、弁護人がなければ開廷できないと規定されています(刑事訴訟法第289条)。
しかし、弁護人が選任されていながら公判期日に出頭しない場合の対処については、法律上明確な規定がありません。そのため、解釈にゆだねられることになります。
かつては、いかなる場合でも弁護人無しでの審理は許さない、という考え方が判例学説ともに多数であったと思われますが、いわゆる過激派事件などの「荒れる法廷」の極端化に伴って、不当な訴訟遅延行為を防止するため弁護人抜きの審理を認めるべきだとする学説が増え、判例上もそれを認めるものが現れました。いずれも被告人に帰責事由があり、必要的弁護制度の濫用と見なされるケースであることを条件としています。
本件の場合、松本被告自身が訴訟遅延を考えていることは十分うかがえますが、弁護団がそれに同調し、あえて訴訟遅延をねらって解任請求や期日取り消しを求めているとは思えません。これまでも、弁護団は膨大な仕事量ときついスケジュールにも関わらず、懸命に協力してきたと思います。
殺人事件の弁護準備は1件でも大変なのに、これだけおびただしい数の凶悪事件の審理をほとんど同時並行で進めていくのですから、弁護団の負担は大変なものでしょう。中には1週間自分の事務所に1回も行けないなどという人もいるそうです。弁護団員は報酬金として1人200万円程度を受け取っているそうですが、その程度では自分の事務所経費もまかなえないでしょう。
誰もが嫌がり尻込みした本件の弁護を、「人権擁護」の理想に燃えて受認した弁護士たちですが、脅迫・嫌がらせは受ける、家族や身内にも言えない(子供がいじめられるのが心配、とある弁護人が漏らしていました)、自分の他の依頼者にも言えない、自分の他の仕事はできない、というないないずくし。その上、松本被告本人から面会・打ち合わせを拒否されただけでなく、法廷で弁護人が罵倒されるあり様。全く立つ瀬がないとはこのことです。
今後、私選弁護人が付く可能性もありそうですが、質量ともに今の国選弁護団以上の仕事ができるとは思えません。また、両者併存による混乱も必至です。
私としては、まず裁判所が進行について譲歩案を出すべきだと思います。訴訟進行のための準備会議を早急にもつなどして、お互い柔軟に対応できないものでしょうか。これ以上の訴訟遅延は絶対に避けなければなりません。
いずれにせよ、13日の公判は注目です。