松本被告公判 国選弁護団ついにボイコット!
97/3/14
14日、東京地裁で予定されていました松本智津夫被告の第30回公判。
私、傍聴に行って参りました。
開廷時間の午前10時、傍聴人が入廷。既に裁判官4名、そして検察官が今日はなんと9名勢揃い(普段は4名くらいなのに、今日に限ってこれ見よがしに・・・)していました。
傍聴人が着席すると、廷吏さんが、いつものように弁護団の控え室に呼びにいきますが、戻ってきて裁判長に「来ていない」と目配せ。
まだ松本被告は入廷していません。
少し間があって、裁判長「弁護士人が来ていないので事務所に連絡をしています。10時40分まで一時休廷します。」と傍聴人を一旦退廷させました。
10時40分、再度傍聴人入廷。
10時41分、松本被告入廷。青いスウェット風上下、暖かそうな格好である。
阿部裁判長「それでは始めます。弁護人の方には事務員を通じて連絡をしましたが、結局来ないということが確定しました。今日はこれ以上できないということになりました。」
松本被告は被告人席で目をつぶったまま、めずらしく一言も発しない。
ここで裁判長、今日調べる予定だった証人9人を呼び寄せました。
「今日は弁護人が出廷しないので審理できません。せっかく証人のみなさんにおいでいただいたのに証言していただくことができなくなりました。お忙しいところ申し訳ありません。今後のことは相談の上連絡します。」
ここで検察官が立ち上がり、「今日弁護人が出頭しないことについて意見を述べたい」。
法律上は「開廷」していないのであるから、この意見陳述に法的な意味はない。あるのは傍聴人、マスコミに向けた事実上のアピールのみである。
検察官は用意してきた書面を読み上げる。
「弁護人12人全員が出廷せず、今日の審理が空転したことはきわめて遺憾。今後は必ず出廷するよう、二度と再び不出廷などないよう強く求める。本件は重大かつ困難な事件であり、法曹三者が可能な限り努力しあっていかなければならない。今回のようなことがあると、国民の司法に対する信頼を損ない、また刑事裁判所の訴訟指揮権を根底から覆すことになる。これまで弁護人は、多数回被告人と接見を重ねており、打ち合わせは十分すぎるほどである。検察側も早期に証拠開示に応じていることなどにも鑑みると、弁護人の要求には理由がない。3月と4月の期日休止が認められないと解任を要求し、それが拒否されるや今度は公判期日に出頭せず、予定していた証人尋問を実施不能にし、もって期日を空転させたことは、法曹の使命を放棄するものであり、理不尽な行動である。被告人が弁護人との接見を拒否し打ち合わせができないことの不利益は、被告人自身に帰せられるべきものである。被告人1名に異例の12名の国選弁護人がついたのは、審理の分担を念頭においてのこと。開廷数についても、月に8開廷の要求から譲歩して4開廷になったもの。審理内容も、弁護人の事情も考慮し負担の軽い証拠調べに変更していたのだ。それを不出頭にするとは弁護人の職務放棄にも等しい。二度と不出頭などないよう、重ねて要請する。」
途中、被告人の接見拒否の話が出たところで、松本被告がブツブツと何か言ったが、検察官は無視して先に進めた。
検察官の意見陳述を受けて阿部裁判長、松本被告に向かって、
「被告人に説明しておきます。被告人、いいですか?」
松本被告、ボーっとしている。
裁判長「いいですね?」
松本被告「はい」おどおどした感じで頷く。
裁判長「昨日の公判で裁判所の考えを説明しましたが、弁護人はそれを受け入れず、今日は出廷しませんでした。弁護人の職務放棄を考えざるを得ない。誠に遺憾である。次回期日は、3月27日証人二名、3月28日証人二名を調べます。今後、弁護人に不出頭の理由の説明を求め、二度と再びこのようなことのないよう求めるつもりです。被告人わかりましたか?」
松本被告(頷く)
これで終わりかなと思ったところで、松本被告が突然しゃべり始めた。
声が小さくモゴモゴ言うのでよく聞き取れず、阿部裁判長も何回も聞き返す。
松本被告「今日、私が事件について話をしてもいいです」
裁判長「弁護人がいないところで聞くわけにはいきませんから」
それでも松本被告はブツブツと何か言っているが、よくわからない。裁判長は何回か聞き直していたので、何かしゃべらせたいのだろうかとも思ったが、結局あきらめた。
終了(開廷していないので「閉廷」ではない)10時56分
途中休廷があったので、正味17分くらいであった。
昨年4月から始まった松本被告の公判は、弁護団の法廷ボイコットで初めて空転する事態となりました。
阿部裁判長は13日の公判で、弁護団に「適正、迅速な裁判に努力と理解を求める。良識に期待している」などとして、14日の出廷を促しましたが、弁護団は「裁判所は事実よりスケジュールで真しな態度がない。異常だ」と反発し、欠席を表明していました。
休廷中、今日地下鉄サリン事件の被害者として証人尋問受けうる予定であった方と少し話をしました。警察官などと違い、民間企業勤め人は、せっかく一日休みを取ってきたのが無駄になり、本当に大変だと思います。
昨日の段階で今日の法廷に弁護団が欠席することは確定的だったのですから、今日の流れは、裁判所・検察ともに予定通りということになります。
つまり今日の一連の流れは、弁護人が出頭しなかったことが「開廷」できなかったことの唯一すべての原因なんだ、諸悪の根元なんだ、ということを意識的かつ公に確認し、際だたせるためのものでしかなかったと思います。
裁判官としては、指定した公判期日に出頭しないということは、つまり裁判所の訴訟指揮を無視されたわけですから、当然おもしろくないでしょうし、穿った見方をすれば、裁判官のキャリアに傷が付くことは断じて避けたいという心理が働くのももっともだと思います。
やろうと思えば、昨日の段階で裁判所が今日の期日指定を取り消し、証人を含め関係者に連絡しておくこともできたはずです。他の小さな事件であればそうしていた可能性も十分あったと思います。しかし今回それをしなかったのは、「開廷」できないことが弁護団のせいである、ということを明確にし、世にアピールしておきたかったということしかないと思います。
他方、検察官が言うように、弁護人は12名いるのだから、事件ごとに分担すればいい、という単純なものではないと思います。なぜなら17件もある松本被告の起訴事件は、それぞれ分断された単発の事件ではなく、すべてオウム真理教の暴走の流れの中でとらえなければならない密接不可分の事件だからです。それぞれ内容が絡み合い、証人も証拠も共通していることに鑑みれば、弁護団として情報や認識を共有しながら、合議して統一的に方針を決めていかなければならないということも当然であると思います。
おびただしい数のオウム犯罪。その全体の「真相」、つまりなぜこのような凶悪な犯罪集団に変貌していったのかを徹底的に究明する場は、この刑事裁判以外にありません。もとより刑事裁判は、起訴された犯罪事実があったのかなかったのかを審理判決することが目的です。しかし、このオウム裁判に関して言えば、分断された単発の事件として「処理」してほしくありません。
オウム真理教は、当初曲がりなりにも「宗教団体」でした。ある時、修行中の「事故」で信者が死亡し、それを教団が隠そうとする。この辺までは人間の心情として理解できなくはありません。しかし、その後教団に邪魔な内外の人間を積極的に殺すようになったのはどうしてなのか。「戦争」ができるほどの武装化と無差別殺戮を着々と準備し、そして実行に移すという発想はどこから来たのか。それらを解明することにこの歴史的裁判の意義があると思うのです。
これまでの審理自体、多数の事件について時間の流れに即して一つ一つ進めているわけではありません。多くの事件を同時並行で行きつ戻りつしながら進めているのです。弁護団の負担が相当重いことも理解すべきです。
単純に「事件ごとに分担すればいいのだ」ということでは済まないように思います。
弁護団は今月27、28両日の公判には出席する方針を示しています。
弁護団としても、月4回の期日を全部ボイコットするのでなく、4回のうち1回だけをボイコットするというところに苦心と跡がうかがえます。
今後どうなるのか予断を許しませんが、私としては、裁判所の柔軟な対応を是非とも望みたいと思います。